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力を隠すタイプの落ちこぼれ3

 


 おかしな夢を見た気がする。

 荒れ果てた大地、人が死に絶え……

 頭の中まで厨二になってしまったのか、俺は。


 こっちに来てから今日で約3ヶ月。

 身も心もすっかり異世界に染まり始めているようだ。


「あ、そうだ」


 こうしちゃいられない。今日はヨハンが朝から訓練所で稽古するという噂が腰巾着ネットワークで共有されてたんだった。間に合うかな?


 ささっと服を着替えて外に出る。

 風もそこそこあるな、よし。


 空を飛ぶのは余りにも目立つから、向かい風を消し、追い風を強くして少しでも早く移動できるように工夫しつつ、俺は訓練所へと爆走した。





 なんだこれ、カチコミか?


 ものの数分で到着した俺の前には、ボロボロになって横たわる腰巾着達の姿があった。


「――――!!」


「――――」


「――!?」


 どうやら訓練所内部でまだ揉め事が続いてる様子。見た感じ、ここに居ないのは性悪女(ナナハ)暴力男(カイエン)水帝の娘(エリアナ)英雄候補(ヨハン)だな。少し覗いてみるか。


 開け放たれた訓練所の扉からひょっこり顔を出すと、見上げるような大男に持ち上げられたカイエンの姿があった。


 ナナハはぶん殴られたのか、口から血を流して大声で男を罵っている。そして彼女を看病するような形でエリアナが横に寄り添っていた。


「ふ、ざ……けんな。ここまで、すること、」


「悪いが俺の忠告は一度きりだ、覚えておけ」


 冷たく重い声が響く。

 それはあの大男から発せられているようだ。


「ヴィクターさん! 無理に入ろうとした僕たちが間違ってました! だからカイエン君を離してください!!」


 ヨハンが必死にそう叫ぶ。

 彼もまたこの大男に殴られたのか、額から血が流れている。


 それにしてもヴィクターって……あ。


 マルコムから教わった化け物の一人だ。


〝鎧竜 ヴィクター・クロード〟


 確か彼もヨハンと同じ北生統だよな?

 なんでこんな事になってんだ?


 無造作に切られたアッシュグレーの短髪と、筋骨隆々の大きな体。背中には身の丈ほどあるロングソードをクロスさせている。


「ちき、しょおぉ……」


「威勢だけは一丁前の雑魚が」


 そう吐き捨てたヴィクターは、右手一本で持ち上げていたカイエンの巨体を投げ飛ばす。


 カイエンも決して華奢ではない。むしろ筋肉量はかなりのものだ(サンドバッグの経験を思い出しながら)。そんな彼を片手一つで持ち上げるとなると、かなりの怪力の持ち主だろう。


「新入り、この時間は北生統に所属する者しか立ち入りを許していない。殴りかかってきた無礼は水に流す、だが二度はない」


 冷たく重い声が再び訓練所に響く。

 彼は、ショックを受けたように俯くヨハンから視線を外し、まだ意識のある女子二人に視線を移す。


「ひっ……」


「な、なによ!」


 この期に及んでまだ喧嘩腰なのは、もはやナナハ(彼女)の人間性だから仕方ないのかもしれない。しかしヴィクターは興味を失ったように踵を返し、俺のいる扉の方へと歩きだす。


「……」


 すれ違う。

 なんつー迫力。


「……賢明だな」


 俺の真横を通り過ぎるその一瞬、ヴィクターは鼻で笑いながらそう呟いた。


 そもそも加勢するつもりは無かったが、対峙して改めて分かる実力差に戦慄した。


 会長だけじゃない。

 他の生徒もめちゃくちゃ強いぞこれ。


 俺はヴィクターが去った後、たっぷり五秒数えてから訓練所内に足を進める。


 一番重症そうなのはカイエンか。ヨハンとナナハは軽症、外の奴らも軽症で、エリアナは無傷か――めちゃめちゃに暴れたというわけでもないんだな。


「ヨハン君、大丈夫ですか?」


「ぐ、クラフト君……」


 ヨハンの方は傷こそ軽症だが、友人が目の前で一方的にボコられたのがショックだったのか、俯いたまま動けなくなっている。


「あ、あんた! 何してたのよ今まで! ……まあ、あんたが来ても何も変わらなかったでしょうけど」


 それだけの元気があればナナハは大丈夫だな。

 とりあえず動けそうなエリアナに手伝ってもらうか。


「エリアナさん、動けますか? 無理ならここに残っていてください。助けを呼んできます」


 俺の言葉にエリアナは「わかっ、た」と呟く。

 彼女も目の前で友人がボコられてショックを受けているはずだ。しばらく安静だな。


 そのまま俺は教師数名と生徒に力を借り、ヨハンと腰巾着達を無事に治療室まで運び込んだ。





 治療室のベッドに横たわるカイエン。

 その周りにヨハン、ナナハ、エリアナ、俺がいる。


 みんな治療魔法をかけてもらっていたが、自然回復を促進する魔法以外は寿命が縮むという理由から、生命に関わる傷以外はほぼそのまま。軽い手当でお終いと、現実世界の保健室と大差がない。


 幸い、他の腰巾着達は軽症だったため、みんな授業に戻っていった。重症がヨハンだったなら、彼等もここに残っただろうに。


「くそッ、なんだよあいつ!」


 カイエンは拳をベッドに打ち付けた。

 全身数カ所に包帯が巻かれ、所々血が滲んでいる。


「ちょっと、落ち着きなさいよ!」


「あぁ!? これが落ち着いてられっかよ!!」


 鬱陶しそうに腕を組むナナハ。

 頭に血が上っているカイエンは大声で怒鳴った。


 こんな元気なら授業でられるだろ……と思いつつも口にすることはできない。俺は黙ってこの時間が過ぎ去るのを待っていた。


 不意に、治療室の扉が開けられた。


 入ってきたのは――会長(バーグ)だ。


「やあ、迷惑をかけたね」


 そこには普段通りの会長がいた。

 それを見たカイエンは会長にも噛み付いていく。


「ちょ、迷惑をかけたねじゃないですよ! なんであんなやばい奴が北生統に入ってるんですか?!」


 カイエンの言い分はもっともで、確かに腰巾着を知らずに連れてきてしまったのはヨハンの落ち度だが、ここまでぶちのめすのも大人げがない。


 息を粗くするカイエンに、会長は「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」と態度を変えない。


「北生統へは実力だけを見て勧誘しているんだ。だからヴィクター君みたいなやばい奴でも、実力が伴えば大歓迎だよ」


 開き直ったようにも見える会長の態度に、カイエンのボルテージはピークに達した。


「こんのッ――!!」


「ちょっとごめんね」


 ヒュッ! と、会長が人差し指を振った瞬間、今にも飛びかかりそうだったカイエンは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


 寝てる、のか?

 早業すぎて魔力すら感じなかった……


 先程とは打って変わり、ぐーすかと鼻提灯を作って眠りこけるカイエンを尻目に、会長は困ったように額を掻いた。


「いやー、僕がこういう所に来るといつも逆上されちゃうんだよねぇ。だから強制睡眠魔法を毎回掛けて対応してたらこんなに上手になっちゃったよ」


 はっはっは。と、一人だけの笑い声が響く。

 この人、間違いない。空気読めない人だ。


 


簡単な人物紹介


クラフト・グリーン→緑髪、主人公


マルコム・ミリセント→黒髪、元落ちこぼれ


ヨハン・サンダース→金髪、英雄候補


ナナハ・ロンデルカート→金髪、意地悪女


カイエン・フェルグ→赤髪、意地悪男


エリアナ・ブルー→青髪、無口な腰巾着女


会長→黒髪、学校で一番強いやつ


ヴィクター・クロード→灰色髪、やばいやつ


お母様→緑髪、毒親


ナイル・グリーン→緑髪、いじめっ子


ドロシー・グリーン→緑髪、自由人


ニーナ・グリーン→緑髪、実力主義者


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