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新八戸領 その一 

南部家の評定は終わり、領地替えの準備の為一部の守備役を残して一斉に帰領する事となった。


「やっとこさ戻って来たなあ、全く今年中に八戸に帰れるとは思ってもみなかったな、現場を指揮している工兵連中には悪いが新しい八戸領をすぐに掌握しとかないとね、変な権利争いとかは領地替えには付き物だからな。」


爺 「すぐに根城に入られますか。」


「そうだね、根城に入って軍を解散、新井田城の父上には明日挨拶に伺おう。」


「はっ、すでに新たに領に加わる村などには臨時の代官を派遣しておりますから、今日は急ぎすることもありませんな。」


「そうか不在の間の報告を聞いた後、我が家に帰るとしようか。」


◆◆◆


「我が家に帰ってきたわけだがね……この惨状は一体なに?」


綾 「あっ、若お帰りー。」


「ただいまって、この惨状は何事?なぜに屋敷の一角が半壊しているのかな?」


「あー何というか、爆発した?」


「爆発したって、火薬の類は厳重に保管庫にって……入ったのか?」


「そこには入ってない、入ったのは書斎にね、掃除しに入ったんだけど。」


「書斎って……まさか!」


「猿でも作れる、火薬入門編 政栄著」


「あれは、まだ炮烙玉までって……作ったの?」


綾 コクコク


「しまったな、書きかけで忘れていた……で鈴はどうした。」


「少し離れた所にいたんだけどね、目を回して寝てる。」


「骨とかは、折れたりしてないのか。」


「大丈夫、寝かせる時に確かめた。」


衝撃波を正面から受けたのかもしれんし骨にヒビ位ははいってるかもな、全く何やってんだか、しかし火事にならなかったのは運がよかったな……あれ?なんかおかしいような。


「純度の高い硝石を潰す時は気をつけないと、冬でなくてよかったってもうすぐ冬じゃないか……危なかったな、調合するときは最低でも工房前の静電気拡散用のアース金属棒に触ってからじゃないと硝石は何時引火するかわからんのに……あっ俺硝石残して無いじゃ無いか硝石はどうしたんだ?」


「あー硝石なんだけど、作っちゃった。」


「は?作ったの?確かに作り方は書いたが硝石を作るには専用の器具がないと。」


「熊八さんの所に、箱で頼んでたでしょ留守中にそれが届いたの」


「初心者向けの一式箱か……五万貫位で売ろうかなーって作ってみたんだが、成功て言えば成功か。」


「あんな危ない物売る気だったの。」


「危ない物だから売れるんでしょうが、それはともかく後で君たちお仕置きね。」


「えーあんな怪しい物を置いておくのが、悪いんじゃない。」


「確かにね書きかけだし、調合するときは工房で行うから簡単な注意点もかいてなかったな、内容的に問題があったか……じゃなくてせめて火遊びするなら、火薬に精通した斎藤衆か工兵が居るときに一緒にやるように、本来の威力なら死んでもおかしくないんだから。」


「怒ってる?」


「自分の間抜けさにね、あんな面白そうなもの置いておいたらこうなるわな……とにかく生兵法は怪我の元、ハンパに憶えてると危険だから火薬に精通した斎藤衆に基本から学ぶように、それと硝石の精製は俺の許可がないと絶対にダメ、特に調合するときは着物からなにから専用の物が必要なんだからな。」


「はーい。」


「と言うわけで、爺!」 「はっ!」


「綾は針子さんの所でしばらく修行だね。」


「そうですな、家事も覚えてもらいませんとな。」


「えー針仕事嫌い。」


「でないと罰にならないでしょうが、ハハハ連れて行け!」


「その笑い方変。」


「様式美とはこう言う物らしいぞ。さらばだ綾よ、立派なお針子さんにおなりー。」


◆◆◆


「目が覚めたか、お転婆姫。」


「綾は?」


「彼奴は、お針子修行に旅立った。」


「なるほど。」


「理解はや、で何か言う事は?」


「ごめんなさい。」


「うむ、どこか痛い所はないか、今は痛く無くても後から痛むこともあるからな。」


「分かった、気を付ける。」


「火薬は危ないので斎藤衆か工兵について貰ってって……鈴は調合とかしなくても良いだろ、武器は完成品を扱うようにしなさいって…なにかがおかしいな。」


「とにかく!まだ体が出来てないうちは反動の大きい火縄銃とかは許可しないからね、当分火薬関係は禁止だ。」


「えーそんなー」


「火薬関係はきちんと座学をした上で精通している者と一緒でないと扱うのは絶対に許可しないからね、家の者には全員厳しく言っておいたから。」


「ぶー」


「ぶーじゃないでしょ、火薬は一歩間違うと大変なことになるし、鈴が怪我をしたら皆悲しむでしょ。」


「政栄も?」


「もちろん俺もです。」


「……今言う事じゃないのかも知れないけど、櫛引氏の件はほぼ片づいたから、あちらさんは陸中に転封だ、加増してるけど文句だらけだろうね。」


「それって、解決したの?」


「解決したと言いたいな、うちの条件は満たしてるし、あちらさんの感情までは知らないって言うか、出来ればこれで手打ちと行きたいんだがね。」


まあ多分ムリ、手を出してきたら返り討ちだけど、ここで言うことではない。もう距離と時間をあけて解決した気になるしか無いだろう。


「そう。」


「そう、あちらさんにも転封の命令は来てるからね来年辺りにはお互い気が楽になるよ。」


「ふーん。」


「ふーんって。」


「血が繋がってるだけの他人だし、ずっと政栄達がそばにいたんだから今更同族とかいわれても困るだけ。」


「そうか、まあ俺らは家族なんだし、仲の悪い隣人が居なく無った程度でいいんじゃない。」


来年辺りに祝言とかあげるかとか言おうと思ってたが、そんな雰囲気じゃないよねっていうかもうムリ……よし撤退!


「まあ、八戸領も拡大して新しい城を作るつもりだし、防御力神級(紙)の根城に居るのも二、三年ぐらいだからね。」


「………」


「じゃあ、今日はもう寝るは、長旅で疲れたしおやすみー。」


◆◆◆


なんか俺残念な感じが……


「ところで、そこで聞き耳を立てている連中ども、仕事に戻るように。」


「若は意気地が無いなー。」「もっとかける言葉があるでしょうに。」「ヘタレだね。」


「やかましい、綾は鈴に付いていろよ針仕事は後でいい。」


「ハーイ。」


やっぱり聞き耳たててんじゃないか。


「俺にプライベートタイムは無いのか……」


◆◆◆



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