南部評定 その四
不来方城下 晴政の屋敷
南部家のこれからを話し合う為一門衆が集められていた。
南部晴政、九戸信仲、政実親子、八戸政栄、石川高信、北信愛、石亀親子、七戸家国……等々。
政栄… 正直人数が多いと話が纏まらないものなんだがまあ半分は置物だし何とか為るかな。
北信愛 「遅くなりました、少し立て込んでいまして。」
晴政 「揃ったようだな、では一門衆での評定を始めるとしようか、信愛頼む。」
信愛 「当面の目標である奥州探題を南部家に継承させる、コレに関しては、大崎家の力を削ぐ事は継続中、奥州を南部家の支配下に置くため現在南進中です。」
政栄 「既に、最上家、葛西家とは水面下で交渉済、五年以内に伊達家の勢力を奥州から駆逐する予定です。」
高信 「大崎家に仕掛ける予定の策も聞いている、当面の問題は築館砦の建設と中新田城、一関砦の改修じゃな。」
政栄 「中新田城の二ノ丸の工事は着工済み、築館砦も外壁の縄張りを終えて農閑期に成り次第人足を集めて工事を行う予定です、あと一関砦の大手門(正門)と中新田城の三ノ丸に造る予定の大手門には跳ね橋と石扉を天井吊りにする地獄門を予定してます。」
七戸家国 「そんなに一気に工事を行って予算や材料は間に合うのか?」
政栄 「うちと九戸の合同で造っている小型高炉ですが一番棟、二番棟は完成済、一番棟の修理点検時に稼働させる三番棟の着工を行っております、六棟を予定している工場全体の完成はまだ先ですが、既に銑鉄の生産は始まっていまして、来年中に銑鉄を出荷用の刀剣用玉鋼などに加工して上方に出荷する予定です、正直な所、門の改修に使う程度の量の鉄は余ってますね。」
信仲 「愛姫の話では、今年だけで十万貫程度の儲けになるとか、玉鋼は需要はあるが小出しにして価格を?なんだっけ……政栄殿任せた。」
政栄 「価格を安定させる予定なので、大体来年度からは毎年二十万貫程度の儲けですかね、ああ上方からは米や鉄鉱石、その他の嗜好品や東北地方では栽培しにくい作物に交換して輸送してますので、金はありませんがね。」
家国 「半分を本家に入れても十万貫……だいたい十万石相当、五年前の本家の予算の二十倍か……去年辺りからやたらに装備が良くなったり、米が以前の半額くらいで取引されているのは。」
「まあ、そういうことです。まだ領民にいき渡る程の米は買えませんがね。ですが麦との交換で根城の上の蔵には飢饉用の麦が唸ってますよ。」
政栄… 正直な所一門衆の評定なんぞ出る気がなかったんだが麦を作って米に変えられる事を皆に周知する事で麦への転作が進むならありがたいし陸中の米と麦が交換できればなおのこと良しだ。村の中で完結せずに物の流通が行われれば発展途上国から一歩前進だからな。
信愛 「浮ついた話を聞かないと思ったら、貯め込んでたんですか。」
政栄 「飢饉用ですよ、来年度からは、安値で払い下げたり、焼酎や飴に加工して上方に売りに行きます。」
信愛… それでは赤字でしょう、全く飄々としていますが……それを領民に悟らせずに領地を運営しているとは、頼もしいと言うか末恐ろしいと言うか。
家国 「なる程、予算の心配が要らない事は分かった、となると問題は工事に参加する人足集めだな。」
政栄 「難しい部分はうちで請け負いますので月割りで人足を交代しては如何でしょうか。」
信愛 「そうですね、近隣の負担を考えると月割りで交代できるのは良いのではないかと。」
晴政 「築館付近は高信に割り振られていたな、高信に委細を任せてよいか。」
高信 「はっ!お任せ下さい。」
信愛 「では、次に奥州探題を南部家が継承する上で、朝廷や将軍家との交渉は必要不可欠なのですが、何と言うか南部家には正式に官位を持っている者が一人も居りません。」
政栄… しかし、三国を併合したというのに正式に官位をもっている人間がいないとか、笑う以前に悲しくなってきたぞ。
晴政 「ん?ワシの正六位右馬助は?正式な官位ではないのか?」
政栄 「本来家督を継いだときに朝廷から官位の相続を許可する代わりにいくらいくら払えと使者が来るんですが……」
信愛 「陸奥があまりにも遠くてなのか……来てないんです。」
政栄 「まあ、来ていてもない袖は振れませんがね、許可無く名乗っているので正史があれば僭称したと記述されます、ちなみに高信殿もそうです。」
晴政、高信 「「酷くないか?」」
政栄 「参考までに、今川義元殿は三河守、ちゃんと相続金を払って…もとい朝廷から許可を取って名乗っています。」
晴政 「くっ……」
政栄 「石高は天と地程の差がありますが同じ三ヶ国を治めているということで(正確には違います)正四位の位を金で買ってきたいと思います。」
晴政 「身も蓋もない意見だな、だが奴と並ぶ位を手に入れることができれは……、よし!何とかして手にいれるのだ!」
政栄 「分かりました何とかしましょう、ついでに石川殿だけでなく、ここに居る全員と石川殿の嫡男殿、九戸実親殿に最低でも従七位程度の官位を正式に賜って貰います。」
まあ、金はないが血筋だけは確かだからな、あちらさんも出す物を出せば文句は無いだろうからな。
信愛 「実はそうしてからでないと、朝廷との直接交渉が出来ません、特に殿上人が最低でも二人はいないと参内は出来ても昇殿しての話し合いはできませんからね。」
政栄 「というわけで晴政様には正四位、石川殿には従五位の位を金で買ってきたいと思います。」
高信 「金で買ってくるくだりはもういらんぞ。」
政栄 「えーとそれでは殿上人には厳しいしきたりや殿上則があるから頑張って覚えて下さい、あとで詳しく書かれた本を渡しますから。」
一同 「「マジかよ……」」




