鈴姫
まさか最上家の姫と名前が被っていたとは……修正しました(泣)。
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政栄数え五歳
私には二つ下の許嫁がいる、名は鈴、八戸勝義の忘れ形見である女児である。
結婚して八戸姓を次いだと思われがちだが、正式な結婚はしてはいない、あくまでも八戸勝義の姫と婚約して勝義の義理の息子になったのだ。
それと言うのも戦国では当たり前だが結構非道い理由なんだよね。
彼女は敵対した櫛引氏の血を引いている、新田氏と敵対したあの一族はいずれ滅ぼす予定なのだ、やらねばやられる元々根城辺りまでは櫛引氏の領だったのを南部家が取り上げた所だしね、諦める訳がないのよね。
死んだ勝義との養子縁組は戦国時代でもかなり酷い仕打ちだとおもうがね、新田と櫛引どれだけ仲悪いんだよ。
史実には書いてないが、秘密裏に鈴姫は殺され斎藤衆の女児が鈴姫となりかわり直栄を産むのだ。
血を混ぜないとかドン引きですよ私はね。
誰が代わりに鈴姫に?決まっている爺の身内の綾だろう、何故だろうとにかく知っていたとしか表現できない。
鈴の母親は尼寺に送られるか実家に帰るかを迫られて……自殺した、父親に夫を殺されたた直後に言う言葉かね、もうちょっと落ち着いてからで良いだろうに。
残されたのは数え三歳の……物心ついたのかね、目の前にいるこの子なんだが………どうする?
正直自分が生き残る事で精一杯の俺に、新田の家に逆らってこの子を守るとか……ありえんな。
「爺、話がある……」
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善意ではないと思う、だが生き残るチャンスは与えられるべきだろう、まだ俺の代わりは弟一人だけ首をすげ替えるにしても時間は少しはあるだろう、危険な橋を渡るのは自覚していたが新田盛政、行政と交渉した。ガクブルです。
同情から命を賭ける?この時代の常識では有り得ないな、一手間違えれば俺自身が廃嫡という崖っぷちなのにね。
交渉は上手く行ったのかね?アッサリと了承された。
俺の出した条件は十年以内に俺の手で櫛引氏を八戸領から引き剥がす、あるいは櫛引氏を俺の力で滅ぼす事。
どうせ史実では十年以内に櫛引氏は誅殺されるのだから構わんだろ、領民の為とはいえ修羅の道を選んだのだ自業自得だ。
期限付きだが、彼女は生き残る機会を得たのだから後は彼女自身の問題だ俺は知らん。
八戸氏の血を半分引く彼女は上手く立ち回れば生き残れるだろう、生き残るにはとにかく早く立ち回れるだけの力を付けるしか無いのだ。
俺とて他人事ではない、新田の印象はかなり悪いだろうからな。
特に今の正妻殿などにはね。
「でだ、ひとつ爺に聞きたいことがあるんだが……」
「なんでございましょう?」
「何故この子がここに居る。」
「若の許嫁だからでしょう。」
……うむ、そうかじゃねえだろ、敵対勢力の姫なんだからどっかで丁重に扱いなさいよ、何故の俺の所?
「他だと扱いが酷い事になりますよ。」
「分かった、まあ俺も似たようなものだからな。」
こうして、彼女は俺の保護下で生活する事に……五歳の男の保護下で三歳の女の子か……非常識にも程があるだろ。
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政栄数え八歳
八戸氏の家督を次いだとはいえ、新田家に三男が生まれて彼らが俺を上回る器を見せれば俺の首はポンと簡単に飛んでしまう黒ひげ○機一発並みに簡単にだ。
よって、俺はいざという時自力で脱出するため日々武術を磨いているのだ、兵達の前では一切見せてない抜刀術や居合いも隠れて鍛錬している、まあ爺達にはバレバレなんだがね。
だってここに居るし。
「爺が居るのはまあ目付役なんだから仕方ないとして、何故鈴がいて綾と薙刀をやっているのかな?」
綾 「若は物を知らないね、武家の奥さんは薙刀を学ぶ物なのよ。」
「それは知っている、何故ここで秘密の修行をしているとなりで薙刀をやっているのか聞いているのだが。」
鈴 「秘密で修行する場所が他にないから。」
「なる程、狭い我が家だからな……己の甲斐性のなさにびっくりってそうじゃないでしょ。」
綾 「よし!では二対一で組み手をしよう、では」
「では、じゃない!明らかに間合いが違う武器で二対一とか酷くないか。」
鈴 「明らかに余裕で捌いている若にはもう一人必要かな?」
爺 「では、私も参戦しましょう。」
「いや、刃引きをしてない手裏剣を死角から投げるのは組み手を超えてると思うのだが。」
「いえいえ、若の技量ならばこの位大丈夫でしょう。」
鈴 「若は反撃してこないからつまらない。」
「嘘を言うんじゃない!間合いを詰められないように連携してるだろうが、くっ!」
爺 「手甲で受けるのは悪手ですぞ、それ踏ん張った足元がお留守です。」
綾と連携して薙刀で足を刈られる。
綾 「勝負あったね。」
「勝負じゃ無くて、イジメと言うのだよ世間一般では。」
鈴 「ここは、一般の家とは違うから。」
「うむ、倒れている者にトドメの一撃、世間一般ではないねー酷い!」
ぐふ……しばらく物が食えんなこりゃ。
戦国の他の家の姫が武術の鍛錬をしているかは知らんが、夢がないなあ、もっとこう文を詠んだり、貝合わせをしたり、そんなイメージがね。
鈴 「そんな事では生き残れない……」
心を読むんじゃ無い、このスキルは流行ってるのか。
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政栄数え十歳
「櫛などをじっと見て、色気づきましたかな。」
「爺せめて声をかけるとかないのか。」
「堺土産の柘植の櫛ですね、渡してないのですか。」
「ああ、今年一関攻略が終わったら、渡そうと思ってな。」
「ほほう、考えましたな、柘植は告げ、告白の意味、櫛は奇し、クシナダ姫に通じる大切な姫に送る告白の贈り物。それに……」
「それに、髪を梳くは人のわだかまりを流し解く、本来櫛引氏の名前の由来そのものだ、あの地に八幡宮が建立されたのは戦乱の地に和を願う象徴としてなんだがな。」
「ほう、私は源氏の八幡太郎様の由来から来てる物だと。」
「勿論、我々南部にとってそれも大事な事だがな、建立は東北の乱よりずっと昔だぞ櫛引に建てられた小さな碑からだ。」
「和の象徴として櫛を贈る、櫛引氏の事はケリが付きそうですか。」
「八戸領はこのまま三陸は久慈の辺りまで、陸奥湾は浅虫の漁村位かな、三戸周辺は北信愛が旧本家の領をまとめて剣吉城から三戸城に、残りは八戸領に合併、計算上米六万石の小大名の誕生だ。」
「既に地割りは終わっていましたか陸奥の半分と三陸の北とは戦功と比べて石高が釣り合わなくないですか。」
「正式に決まるのは評定してからだがな、まあ石高が少ないのはしょうが無いさ、おれが八戸の地に拘ったからな、櫛引氏は豊かな陸中に転封、文句があるなら戦争だ!」
「本当に十年掛からずに約束を果たすとは……ですがあまりやり過ぎますと南部家中が敵視しだしますぞ。」
「今更だな、西は大浦、南は久慈、お隣の信愛殿も目付役だからな囲まれちゃったよ。」
「大浦と久慈ですか、厄介事を押し付けられましたな。」
「櫛引氏が片づいたと思ったら次は更に厄介だとか、どうなってるやら。」
「それこそ、和の象徴の精神で頑張るしかないのでは。」
「そう綺麗に纏まらないのが人なんだよ、まあ当面の問題はそれではなく……」
「櫛を贈る姫の方ですな、綾を傍に付けたのは間違えでしたかな。」
「贅沢をいってもな、警護役で信頼できる年の近い斎藤衆の女など綾しか居らんからな……櫛を贈って喜ぶかどうか悩む姫になるとは……」
「最近は、高下駄を履いて飛び回ってますな、義経公の本など与えるから。」
「源氏物語って表題なら光源氏の話だろう普通、なんで源平盛衰記なんだよしかも義経公の記述ばかり抜き出して纏められてるしあれの編纂者はどこの義経公の追っかけだマジ怖いわ。」
「そういえば薄い羽衣と笛が欲しいと言ってましたな。」
「五条大橋セットか!もしかして、俺が弁慶役をやるのか?」
「どうしてこうなった、武術の鍛錬に加わる辺りまで普通の姫だったのに。」
「さあ、どうしてでしょうな。」
爺…… 相変わらず鈍いお方だ、まあ櫛を見ても真剣に姫の事は考えていたのですから、櫛引氏も引き剥がす方を選択されたようですし姫の想いは報われるの……でしょうか?
「せめて静御前の話を……」
「ヤレヤレですな。」
サム○ピ?何のことだかわからないな。




