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水平城(中新田城)の戦い

一日前


中新田城 


氏家守棟…… まさか二万の軍が壊滅していたとは……殿になんと報告したものか、しかし南部め軽傷者に重傷者を運ばせて寄こすとはたちの悪いまねを……負傷者を解放してるから文句はいえんし、負傷者を見て城に残った兵の士気が霧散してしまったぜ。

大量の捕虜が石川の足止めになっているのは皮肉な物だが、いずれここに進軍してくるんだろうな。まさか負傷者を戦力に数える訳にも行かんし、五千で一万の兵を相手にする、いや最悪戦いに成らないかもしれないな。


【伝令】 「守棟様、定直様が帰還されました。」


【守棟】 「帰還……負けたのか、どの位の兵が戻ってきた。」


【伝令】 「千名ほどです、氏家家の直衛は百名ほどが戻ってきました。」


【守棟】 「親父が負けて帰ってくるのを見ることができるとはな、子供の頃は正直親父が負けるとこなんぞ想像できなかったものだが、それで敵はどの位だ一万か二万か?」


【伝令】 「南部八戸の五千ほどだと、聞いております。」


【守棟】 「同数で親父を倒すか……まて八戸だと。」


【伝令】 「本陣の旗は八戸でした、しかし八戸政栄は元服はしておりますが十とちょっとのはずなのですが。」


【守棟】 「旗頭に担がれたのか?とにかく、親父の話を聞かんと何も言えんな、今は義直殿の所か?」


【伝令】 「敗戦の報告を。」


【守棟】 「はぁ、まあ親父が負けるならあの状況で誰がいっても負けだとは思うがな、しかし兵を借りて負けるなど二重の恥だ腹を切る、とか言い出さないといいんだがな。」


◆◆◆


氏家定直は隠居寸前ですが、当時の東北では格付け的に最強レベルの将です横綱です、羽州探題の宿将ですからね。

もちろん実績評価ではないですから本当に強いと思われている訳ではありません、政栄に負けたことでアレ?やっぱ弱いんじゃね?ああ年とったのかな?みたいに評価されるのかな(合掌)。


◆◆◆


中新田城 大広間


【氏家定直】 「負けて戻って来るとは、面目次第もございませぬ。」


【大崎義直】 「なんの、定直殿で勝てぬのであれば、あの場面どうにもならなかったろう、策を考えた奴が一枚上手だったと考えよう、それよりも負けて腹を切るとかせんでくれよ、義守殿に合わす顔がなくなる。」


【定直】 「重ね重ね申し訳ない。負傷者の事もありますので失礼いたします。」


◆◆◆


中新田城 一ノ丸


【守棟】 「親父、怪我はないのか?」


【定直】 「守棟か、してやられた、最後に一手は返したが完敗だ。」


【守棟】 「完敗って、伏兵から奇襲の流れでか?」


【定直】 「あれは事前に伏兵を読んでいたな、攻め手が無くなった所を鶴翼で返されたわい。守りに特化していたり、読みが早いのが逆に仇となったりと弱点も多いがとても十の坊主とは思えんわ。」


【守棟】 「いや伏兵を読んでいるとか普通有りえないし、それだけでもう化け物だとしか思えないんだが。」


【定直】 「何を弱気な事を、お前達の世代の宿敵となる相手だろうが。」


【守棟】 「そんな宿敵はいらないぞ、源五郎様の(俺の)為に今から行って仕留めてきてくれ。」


【定直】 「それでな、閃光玉をつかったり、煙幕を張ったりとまともな武将では使わない手も使いよる。」


【守棟】 「聞いてないし、子供だけに頭が柔らかいのか武将としてのこだわりがないのかもな……だが禁じ手を使ったのは親父が先だったんだろ。」


【定直】 「ふん、勝つ為に手段を選ぶ余裕がなかっただけだ。」


【守棟】 「威張って言う言葉かよ、……読みが早いとか、守りが堅いは弱点ではないだろ、なんか弱点はないのか?」


【定直】 「流れや、変化の先読みは的確で早いが、恐らく事前に兵達に説明しておるな、守りが堅いのも事前に準備しているのだろう。動きから見て恐らく二つか三つの流れを説明しておるな、指揮が取れなくなっても前線が崩壊しなかったのは、事前に取り決めをしておいたからじゃな。」


【守棟】 「今言ったことは弱点なのか?」


【定直】 「弱点だろう、予想外の動きで混乱させれば良いんだから。」


【守棟】 「阿呆が、とか言われて対応されないか?」


【定直】 「……勝つ為の工夫はお前がせい、無駄に頭は良いんだから。戦場の流れや変化も覚えろ!」


【守棟】 「今まで戦がなかったんだから、急にそんなこと言われてもな。」


【定直】 「彼奴は十ぐらいなのだろう、経験を積めば手がつけられなくなるぞ、その前に殺ることだな。」


【守棟】 「殺るって、まあ戦場だけが戦いって訳では無いからな俺の得意分野でやらせてもらうよ。」


【定直】 「これは、ワシの勘なんだが。」


【守棟】 「勘?」


【定直】 「南部の政策が変わったのは奴が出て来てからでは無いのかな、お前の得意分野でもタチの悪い相手なのかもしれんぞ。」


【守棟】 「やっぱり今から、殺ってきてくれ俺のために。」


◆◆◆


【守棟】 「足軽三千は中新田城の守りについてもらうことで話しはついているんだが、親父はどうする。」


【定直】 「最上兵の負傷者をまとめたら山形城に一度戻ろうと思っている、今回の南部の侵攻でこれからの領内の守りなどを大幅に変更せねばなるまい。」


【守棟】 「小野寺、安東の動きも気になる所だな、やはり羽前を親最上でまとめた方が良いと思うんだが。」


【定直】 「羽前の統一か、外敵を前に国がまとまってないと、羽後の二の舞になりかねんからな……しかし……。」


【守棟】 「義守様は乗り気じゃない……。」


【定直】 「……流石に、今の状況なら……。」


【守棟】 「騒動になるかもしれないな。」


◆◆◆


水平(中新田)城の一つ向こう側の山裾に九戸、八戸軍三千が集結し編成を終えていた。


【政栄】 「今ふと思ったのですが、実親殿はこれが初陣ではないのですか?」


【実親】 「そうですね、そうなります。」


【政栄】 「良いんですかこんな初陣で、政実殿は派手でしたよ。」


【実親】 「私は嫡男ではないですから、南部本家の嫁を貰った事で家から切られることはもう無いと思いますが。」


政栄…… 南部の後継者候補でも、現実は厳しいね。


【政実】 「作戦は変わらずです。中で騎馬が使えると判断したら実親殿に騎馬隊の指揮をとって貰います、軍全体と門の破壊は私が担当します。撤退の合図だけは聞き逃さないようにお願いします。」


【実親】 「いやぁ、ワクワクしてきましたね。」


政栄…… 坊ちゃん、やっぱ戦ナメてるでしょ……。

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