後退
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陸前 山中
石川高信…… やっと敵さんのお出ましか、ずいぶん待たせてくれたのう、さてと後退する前に政栄に早馬を出さんとな、もうこの敵はここから一関砦へ向かっても援軍として間に合わん、花巻に集結している軍の存在がバレるのが先か、新たな敵の援軍が築館宿に着くのが先か、ハッハッハッ伊達も最上も花巻の軍の存在を知れば大慌てじゃな。
さてもう少し頑張るか、騎馬隊の使える高原まで引っ張らんといかんからのう、盛政が首を長くして待ってるからな。
敵さんが退くもよし、退かぬはなお良しじゃな。
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陸前 山中
迎撃側 大崎家 大将 氏家隆継
「石川高信が少し後退しただと、二方向から挟み込むため回り込ませた兵に気づかれたか。」
山中では身動きがとり辛い……奴らは自分達の作った道を退がればいいだけだからな、道を広げながら進軍してきたか……よし!敵の補給路を逆に利用して追撃に使ってやる。
「回り込ませた兵と合流して敵を追撃する。伝令を呼べ!」
中新田城の義直様に早馬を送らんとな、石川高信が後退したと。
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石川高信が後退してから三日後
最上領 山形城
最上源五郎…… 石川高信が後退?膠着状態を作り兵を足留めさせる手では無いのか……南部晴政が対陣している状況で撤退したとは考えられん、更なる時間稼ぎか戦い易い地形への誘いと見るべきだな。この点は深追いは禁物と進言すればいいが、本隊で在るはずの石川高信が時間稼ぎをしているなら三の矢は何処に?
まさか、本当に一関砦に?
【最上源五郎】 「誰か、居るか」
【氏家守棟】 「若様、何か?」
「水沢に陣を張っている南部家の将は誰だったかな。」
「水沢で御座いますか、確か大浦家の小笠原と戸沢家の当主の道盛、後は南部一族衆の八戸でしたな。」
「八戸が陣を張っているのか。」
「あそこは、私どもは戸沢が大将だと見ているのですが……八戸はお飾りでしょう。」
「そうそう、八戸と言えば、九戸にくっついて戦功を上げた腰巾着の黒坊主ですな。大方、晴政に嫌われて伏兵封じに一関手前に置かれたのでしょう。」
八戸の評価は低いな、大将として戦ったことがないから当然だが。
だが新田盛政は知将ではなく猛将といった方がしっくりくる、大館を落とした手並みは八戸の策で間違いあるまい、近年の南部家の大勝の幾つかに八戸が絡んでいるのは偶然ではなかろう。
……北上川の伏兵を見抜かれたと思い込んでるだけなのだろうか、悔しさから相手を過大評価しているのだろうか?
相手を侮るも恐るるも愚かなりか……真実を知った時手遅れでなければよいのだがな。
【伝令】 「守棟殿、早馬です花巻に南部家の大軍が集結中とのこと、軍議を開くゆえ大広間に集まるようにとの事です。」
「ご苦労!、若様、軍議に向かいますゆえ失礼します。」
「待て、守棟私もいく。」
「若様、軍議は元服しておる者だけしか……」
「行くぞ!」
「いや、まずいですって若!、……言ってもきかないか、そこの!そうお前、親父にこの事を伝えてくれ急いでな。」
源五郎…… 花巻に軍を集めて攻めるのは、一関砦ではなく街道を抜けて次の宿場町である築館宿の付近か、大方伏兵封じとみせて一関砦からの出撃を出来なくするための柵か砦を迂回する間道でも整備していたのだろう。南部晴政も石川高信も砦を迂回して築館宿を攻める為の囮とはな。
一関から築館宿までは山道で築館宿の出口を塞げば騎馬隊は使えない、いや出口に伏兵を置いて先頭を潰して時間稼ぎをすれば他の戦場から兵を回すことも十分可能、砦からの兵で挟み打ちにすれば全滅させる手にもなる。花巻からとはいえ大軍の移動、増援の支度を終えている最上の兵なら築館宿ならギリギリ間に合うだろう。
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山形城 大広間
最上家の主だった家臣が集められて軍議が行われていた。
【最上義守】 「花巻に南部の大軍が集結中とのことだが、意見のある者は遠慮無く申すがよい。」
義守…… 中新田城に援軍を出したばかりなのに、一月とたたんうちにまた援軍か……こちらは伊達のような大国でも、背後を気にせず援軍を出せる状況でも無いのに、小野寺と南部は遠戚でいつ手を組むか分からんし、越後と甲斐の小競り合いは続いているようだが平野続きのため抑えのきかない連中が秋には略奪にやって来る。
長尾め家臣の管理位出来んのか、迎撃の為、騎馬隊は出す訳にいかんし、かと言ってこの時期農民を集めて収穫期を逃したら大変なことになる。援軍の用意はしていたがもう時期も時期だ領内の維持を考えれば戦などやってられん。
【最上源五郎】 「父上、発言の許可をお願いします。」
【義守】 「源五郎、なぜ元服もしておらんお前がここにいる、大人しくさがっておれ。」
【源五郎】 「一言だけで、いいのです、発言したらすぐに下がります。」
【義守】 「……申せ。」
【源五郎】 「敵の狙いは、平野に出る事、一関砦を迂回して築館宿に進軍すると思われます。速やかに騎馬隊で移動して山裾で待ち伏せを行い、他の戦場からの援軍を待つべきと。」
義守…… 騎馬隊をか、秋口に……
【義守】 「足軽ではいかんのか、騎馬隊を出す余裕はないぞ。」
【源五郎】 「それでは築館宿を突破されて平野部に雪崩込まれます。南部の騎馬隊は少数が進入されただけで甚大な被害がでます、山道の出口の築館宿に兵を派遣するには騎馬隊でなくては間に合いません。」
義守…… 大崎や伊達の領内など正直どうでもいい、最上領が危ないのに他領に構ってられるか。
【義守】 「中新田城に入っている義父(大崎義直)に早馬を出して対応してもらおう、入れ違いで中新田城の守備に回せる足軽を送ればよい。」
【源五郎】 「出撃の準備の出来ている我々ならともかく、中新田城で兵を集めてからでは間に合いません、大崎は石川高信迎撃の為兵を掻き集めているんです、何卒御一考を。」
【義守】 「くどい!一言は聞いた、下がるがよい。」
【氏家守棟】 「若様、殿の仰せです、ささ、下がりましょう。」
【源五郎】 「父上、御一考くだされ。」
守棟…… 若? これ以上はまずいですよ、抑えつけてでも連れ出さないと大変な事に。
周りに目配せをして源五郎の背後に近寄る氏家守棟、肩を捕まえようとした瞬間、源五郎が背を小さくたたみ守棟を投げ飛ばす。
【守棟】 「若!?」
【源五郎】 「しまった、体が勝手に。」
【義守】 「なにをしている乱心したか!ええい!皆で抑えつけろ!!」
【源五郎】 「父上」
パン! 大きな柏手がひとつ 静まる大広間
【氏家定直】 「皆鎮まれ、肩を捕まれ反射で投げ飛ばしたのだろう、殿!愚息が迷惑を、守棟!、若を連れてさっさと出て行け。」
【守棟】 「殿、失礼を、さっ若様一緒にさがりましょう。」
【源五郎】 「守棟、すまん。」
【定直】 「殿、改めて、愚息が失礼をいたしましたお許しくだされ。」
素早く義守の前に進み、土下座をする氏家定直
【義守】 「……気にするな、定直横で軍議に参加せよ。」
【定直】 「はっ!」
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