寒稽古という名の集団面接会場
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「すごいな。」
【爺】 「すごいですな、数も人も。」
射的や流鏑馬の数がほかの五倍はあるよ。
「爺、九戸はいくらで雇ってるかわかるか。」
「騎馬武者で二十石ほどかと、普通は五石です。」
「だよね、うちは三石だし五石に上げるか検討しておこう。」
「職人に二百石とかだしてるのにですか?」
「ばかもん、あれは未来の我が領の宝だぞ。」
「まあ、うち(斎藤衆)は十分に貰ってますが、兵たちの給金も上げませんと不満が溜まりますぞ。」
「うむ、忠告ありがたく受けるとしよう、帰ったら査定からだな。」
爺 ヤレヤレ。
ふむ、秀吉の父の木下弥衛門は二十石取りと書いてあったような。部隊長(足軽頭)は十石で良いかな。
【政実】 「やあ、政栄クンきたのかい、親父殿はちょっと忙しくてね、手が離せないみたいなんだよ。そうそう弟だったね、おーい実親、政栄クンが来たよ。」
【実親】 「兄さん政栄殿でしょう、初めましていつも兄が失礼しています。」
……兄かバカだと弟がまともになるのは世の常か……
「初めまして、元服と婚約おめでとうございます、今は手ぶらで申し訳ない、後で祝いの品を届けさせよう。」
【実親】 「それなら、母が脚気気味でして、治療法を知っておられるとか、是非お教え願いたい。」
おお!押してくるね、まあ親孝行なのは良いことだな。
「昨日手土産で牛肉の味噌漬けを持っていったが、予防ではなく治療なら、食事療法が良く効く、後で作り方を書いて贈ろう。」
【実親】 「ありがたい、申し訳ないが面談に戻るので、失礼します、またじっくりお話したい。」
「いえ、こちらこそ忙しい所に失礼した。」
「ふむ、所で政実殿は面談はしないのか。」
【政実】 「ハッハッハ、槍で話し合ったからもう終わったよ、今年は二人合格だったよ。」
さいですか、こうして脳筋が増えていくのか。
◆◆◆
《不来方城下 八戸屋敷》
【爺】 「若、面談を望む者が来ております。」
「ん?うちにか?うちは文官を募集したいんだが、まあ会ってみるか…それで、どなただ?」
【爺】 「戸沢と名のっております。」
「戸沢……羽後か?、本家預かりではなかったか?」
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【戸沢道盛】 「会うのは二度目にて、戸沢道盛で御座います。」
我ながら非道いとは思うが羽後の有象無象なんか知らんよ。
「どうも、それで戸沢殿は本家預かりとは言え羽後に一万石を持つ領主ではありませんか。何故面談など?」
「聡い者は、既に動いております。晴政様が動かぬのは大戦の前触れでしょうから、最上が動かぬ今陸前に攻め込む計画が進行しているのでは。」
動いても動かなくても騒動とは起きるものか、さてどうするかな。
「戸沢殿の希望は戦への参加かな、本家預かりでは自由に成らん所だからな。」
「それもありますが、出来れば政栄殿の家臣にしていただきたい。」
ん?なに言ってんのこのオッサン。
「冗談を、南部家一族衆とはいえ、二万石(本当は米一万六千石)程度の我が領では戸沢殿を家臣にとか無理ですな。」
「それは、米だけに御座いましょう、南部丸を何隻も所有し上方と交易を始めた八戸領の実質は三十万石を超えているのでは?」
もうちょっとあるけどね、まあ良い線いっているし、お金(物々交換)の流れも見えているか、使えるな。
「うちに来ても、開発途上だから、土地を貰っても一万石には届かないし、しばらくは麦の現物支給だがそれでもいいのかい?」
この条件で受けるとか無いよなー。
「それで結構です、今はで御座いましょう。大戦後の領地替えの時には是非お願いします。」
本気か、理解した上でなら人材は欲しいんだよな。
「わかった、家臣の話はともかく、戦へ参加希望なら二百人程つれて五月ごろ八戸領に来てもらいましょう。晴政様には、私から許可を貰います。」
「おお!ありがとう御座います。」
八戸領の実情を見れば意見も変わるかもだな。様子見だね。
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戸沢道盛
安東、小野寺、南部と仙北地域で戦いを繰り広げる、泥沼の激戦区の中で内政の評価はされていないが、家督を次男に譲ってからの後見人としての外交や交渉は光るものがある。
東北仕置きを乗り越え戸沢家を残す。
次男は……鬼か。
ちなみにこの人も五歳で家督を次いだ苦労人です。
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さて、北上川沿いに南部晴政が出陣、一万五千の軍勢で《桃生郡》葛西氏を攻めると見せ掛けて止まる。
伏兵対策として、水沢に三千の兵を置くも動きはなし。
一週間後、奥羽山脈沿いを石川高信が一万の兵で出陣、羽前との国境から大崎氏の中新田城を目指すが山道の為に進軍速度は遅く迎撃可能。
俺が伊達氏なら……策を信じていても、いなくても石川高信が本命と見て中新田城から山道に進軍迎撃だな。問題なし。
俺が大崎氏なら……策に掛かるかな?まあ、目前の石川高信の迎撃、伊達氏、最上氏に援軍要請って所かな。問題なし。
俺が葛西氏なら……策に怒りを感じて、対峙する南部晴政を何とか攻め込もうとするが北上川に阻まれ、結局策にはまるな。ごちそうさま。
俺が最上氏なら……本音は動きたくないはず、大崎氏の援軍要請に応じるも三千を派遣すれば良い方だな。問題なし。
問題は先の北上川に伏兵を仕掛けた誰かなら。
誰かならどうする……
今回の策は敵の領地で嘘の噂を流すだけです。
人は本当か嘘かではなく信じたいことを信じてしまうのです。
だから嘘に事実をちょっと付け加えると人は簡単に騙されてしまうのです。




