常陸国 乱 その四十二 谷田部の戦い
水谷の逃げ
中央から相手が前線を立て直すため少し退いたのに呼応して右に転進、そこから全速で小山隊を追撃していた敵左翼に横槍を入れそのまま右回りに進んだ水谷隊であったが、後背に出るともはや何の抵抗もないかのように、まるでバターを切るかのごとく面白いように人並みが割れていく。
「後背を襲ったとはいえここまで脆いとはな。」
「全くです、前線で対峙したときの底知れぬ奥深さは微塵もかんじません。」
正面の守りか、前線の兵を一定の場所から動かさず守りに専念させる、負傷で列に穴が空けば後方から補充させるため一段下がった位置に指揮をとる者がいる、さらにこちらの指揮をとる者を狙い撃ちにするため野戦に櫓をこしらえる……見事な采配だった、初見はいささか頭でっかちの守りに偏った編成だとおもわれたが守り特化と見せてそれすら餌とした悪辣な罠を用意していた、まあ切り札の騎馬隊を序盤から救援で使い切ってしまうあたりは編成の不備をふくめ詰めが甘いと言うか年相応の采配とも言えなくもないのだが……
「寄せ集めを率いたにしてはよくやった……と言ったところか。」
おそらく切り札として小山隊に普段は指揮をとっている熟練の猛者達を集め精鋭部隊として投入したのだろう、だが皮肉な話だな其方の作戦の基本であるだろう指揮系統を混乱させた烏合の衆に対する作戦がそのまま敵味方逆転した状況になっているのだからな、削られ今は少数になったとは言え烏合の衆など我が水谷家の練達の兵達の敵では無い、最終局面であった故に我々を追い掛けて追撃をかけられる余力を持った部隊は残っておるまい、……まあ今日の戦はウチの若い者にはいい経験になったろう今は退いて谷田部城で改めて仕切り直しだな。
ありがたいことにこの一戦で手の内はあらかた見せて貰った、彼等(佐竹)は我々程練度が高くない、結城だけでも戦場を選びこちらの地の利がある場所で戦うならば我でなくとも十分に対応可能だろう、今回とて前線で距離の取り合いから弓を主攻にジックリと構えて削りあったなら囲んだこちらが有利に盤面を進めただろう、だが対策は取れるとしても十全な武具の準備が必要か……ちっ、頭をつかうやっかいなお隣さんが増えちまったな。
「谷田部城へ戻り防御を固めるぞ、敵が追撃態勢を整える前に移動するとしよう。」
……うん?期せずして見極めのため小山には貧乏籤をひかせてしまった格好になったな、まあ味方のうちに兵力を削いでおくにこしたことはない戦国の習いって奴だ恨まんでくれよ。
「殿!右後方に砂塵があがってます、黒い固まりが追ってきております。」
「何?」
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水谷正村は育成の為経験の乏しい結城家中の若手中心の部隊を率いています、大軍のぶつかり合う戦場に追い詰められている訳でもないのに家中の全戦力(兵力ではない)は投入しないですから。
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少し戻り佐竹側徳寿丸出陣前
南部馬丁士の長(政栄が組織した大型馬の育成部、全員侍待遇)
「訓練時から何度も言ってますが、この仔らは訓練を積んだ戦馬です、この群れのリーダーであるこの『黒』に進む方向を示すだけで良いですから、コイツら従順で気性も良いですが若駒ですので血が上ると抑えが効きません振り落とされない事にだけ注意して下さい。」
「ウム、でそのリーダーとはなんぞ?南部の者は時々意味が通じぬ言葉をつかうので困るのだが。」
「政栄様がよく使う群れの頭目とか言う意味らしいです。」
「ま、まあわかった馬上槍をと思ってたのだが朱槍は脇に固定してしまうのだなこれも馬に任せれば良いのか?」
「政栄様がランスチャージがどうとかおっしゃっておりました意味は判りませぬ、ないとは思いますが足を止められた時は根元の留め具を蹴ると外れ石付側が浮いてきます、お試し下さいませ。」
「なるほど……浮いてきて上に引き抜くのだなウム仕組みはわかった、あとは訓練時にはこの馬鎧は着けて無かったな鞍と胴回りだけでなく頭、首回り、前脚と肩に当たる部分も覆うのだな。」
「南部製の鋼線編み込みの軽量片垂れと鎖帷子です従来の馬鎧よりも薄く軽いですがより丈夫に造られておりまして多少の刀矢などは弾き返します、ですがくれぐれも無理はなさらず。」
「ウム!、ではいくぞ『黒』よ!皆の者出るぞ!!」
「オオオアオオオオ!!!」
「道を空けよ!味方である道を空けよ!!」
先触れが兵達に空けさせた道を徳寿丸の乗った黒駒を先頭に音を立てて黒い固まりが駆け抜け陣地を飛び出していく、集結中の前衛の兵達は脇に避けて本陣から飛び出した集団を何事が起こったのかと見守っている。
「忘れておりました~!!徳寿丸様~くれぐれも混戦では轡を緩めに馬に全てお任せ下さいませ~!!」
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本来、大将は部下に武功を与えるため後方にドッシリ構えているのが正しいのですがね~(;^_^A




