常陸国 乱 その四十 谷田部の戦い
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「……さて、ここからが我々の本当の戦だな。」
まあ、ここからの作戦は分岐や複雑な過程はなく一本道なんだが。
逃げる敗残兵を谷田部城に集めるため草の者に「谷田部城へ逃げろー!」「×××に敵の待ち伏せが~」など虚言を用いて誘導してもらい大量の敗残兵が谷田部城及びその周辺に集まったところをまとめて包囲し軽く(軽く?)兵糧攻めを行う。
最後に交渉で将兵の退去と引き換えに谷田部城の円満譲渡とそれに伴う結城家との領土の境の書き割りを決める。
まあ国境の鬼怒川で割ることにはなるだろうがね、川に境界線を引くということで本来ならここから水の引き込みとか川の漁業権とか水利権を巡って血で血を洗う戦いを繰り広げるのだが……今回は繰り広げない。
全ての川の利権を放棄してでも今は迅速に兵を東へ折り返し従わなかったり無視を決め込んだ奴らを平定する事の方が優先順位が高い、佐竹家一色に染め上げ常陸国を完全掌握するのだ。(交渉する時間が無いと言うのは正直、土浦城に手間取ったからという感も否めないが)
というわけで交渉を有利かつ迅速にするため無駄飯喰らい達にはなるべく多く生きたまま谷田部城に逃げ込んでほしいということだ。
「頼久、引き銅鑼の合図の指示は任せる、俺は次の準備と指示を出すから伝令が戻って来たら順次よこしてくれ、……おっと後、徳寿丸様が戻ってきたらこの辺りの名士との交渉の為の準備とかもあるから、あとこれから出す指示の説明と結城との交渉事の条件の詳細を詰めるからよろしくな。」
「判りました、ではこちらで部隊の再編成とついでに負傷者の帰村などの準備もして置きます、そうですね本陣の先辺りに救護所と仮の陣を張りますので名簿を送ってもらえますか、兵糧攻めをするならこちらの人数も適度に減らしませんと補給に負担がかかりますから。」
「判った、負傷者と付き添いとか理由をつけて帰村者はそうだなあ五千は減らしてくれ、後土浦から谷田部までの補給路の拡張と護衛に五千ね谷田部まで佐竹領になるから街道整備もかねて広めに整備しておこう。」
……優秀な奴はありがたい、頼久主導でもこの後の流れを兵糧攻めまでなら滞る事無く進行するだろう、本当知識を与えればあっという間に成長しやがる、まあ生きるか死ぬかの世界だからな成長なくば死あるのみかな、とは言え流石に街道整備の先にある都市計画までは口にしてはいないのだが。
俺は現在の物資状況から補給作戦を作成するため、陣の奥に入り補給等の目録をとりだした。
「常陸国は物資が南部領と比べてはるかに豊富だなこれだけ徴発したにかかわらず、街道近くの村々の蓄えの一割程度なんだからな。」
七万人を食わす為の水、食料、燃料はとんでもない量なのだが後で補填するとは言えども大した抵抗もなく徴発できるとは……これだけの量、東北地方なら一揆か反乱が多発してもおかしくない。
恐らくこの国に住む人達にそんな自覚は無いだろうがこの国の生産力さらに発展性を鑑みた潜在能力は本当にハンパない、資源と食料を香取海(霞ヶ浦)や河川を使い水路にて大量流通を確保して土浦辺りかな……広い土地に人を集めて都市をつくればおそらく三十万程度の人口は養えるだろう。(江戸時代の最盛期の江戸で百二十万、三十万なら当時の世界的にも上位の都市人口となる)
街道整備と土浦城及び城下町の再生……十数年後には北関東最大の交易都市が誕生か、そうだなあ更に磐城の炭鉱を露天掘りで掘り小名浜から石炭を出荷させる、さらに香取海と外海を結ぶ鹿島に大型船を行き来できる水路かなにか建設出来れば……原料持ち込みの加工出荷する工業生産都市も十分に可能だ。
……三十万という人口を背景にした力か、十数年あれば簡単な教育施設を作り千人位に基礎化学を分散研究(もちろん誘導して)させれば一気に技術革新を起こすことも可能だろう。
「……人口に原料を掛け合わせるとしたらやはり鹿島は必要不可欠だな、常陸国の完全掌握から北条との盟約、磐城侵攻か……」
アホらしい、変な妄想は辞めとこうかね、鹿島はたまたま頼まれただけだし北条と香取海の共同支配だけでも十分に利益はでる、鋼鉄の艦隊を造る必要が有るわけでもないしな。
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大きな力の胎動は人々を活性させ明るい未来を予感させるものだが同時に大きな災いを引き寄せるものでもあると……
ただの拠点を結ぶ街道整備が後の関東大乱の種を蒔いていたとはこの時点では俺も予想してはいなかった。




