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常陸国 乱 その三十一 谷田部の戦い スペイン方陣

◆◆◆


戦いは正午を回り、結城側が佐竹側を三方から包囲するという圧倒的に結城側に有利な状況となっていた。

……そう、まだこの時点では。


結城側 正面中央 水谷正村


(……戦況は我が方有利、包囲して二刻もあれば陣形の利を生かして押し潰せる)


「全軍に伝令!押せ!押し潰せ!!」


(いやな予感がしたが何も無いところを見ると杞憂であったか……)


結城側 鬼怒川側 小山氏朝


「分断されぬよう、厚みを持たせつつ包囲網を完成させよ!退路を断てば士気も其処までだ。」


結城側 谷田川側 後方 小田氏治


「勝貞よ包囲網に加わらんで良いのか?何もせんのでは些かあざといと噂されぬかのう。」


「しかし多功が戦列を伸ばしませぬ、前に出ようにも出られませぬ。」


結城側 谷田川側 多功房朝


多功房朝

「膠着状態の内に戦列を整えるぞ、怪我人を後方へ前後入れ替えで後列は休憩、干し飯でも囓っておけ。」


多功綱継

「親父、五平太がやられた、二郎兵衛も矢傷を負ってる後方に下げるぞ。」


「オイオイ、足軽頭や侍大将が軒並み怪我してるのかよ、誰が前線の指揮をとってるんだ?」


「兄貴と爺ちゃんが矢の雨の中指揮をとってるよ、次は交代で須賀党の頭と俺が前にでるよ。」


「無理すんじゃねえぞ、緩い上りでも足元の柵で止められた所に槍衾で波状攻撃だ、第一あの矢倉からの強弓を何とかしないと前に出るのもおぼつかねえしな。」


「こちらの矢の届かないギリギリから大弓で狙ってくるんだ危なすぎて落ち着いて指揮も出来ないって皆こぼしてるぜ、親父何とかしてくれ。」


「柵との距離は計算ずくなんだろ、諦めてチクチクやっとけ柵は撤去できんのか?」


「鋼の綱で縛られてるんだ、手斧の刃がボロボロだってよ。」


「また厄介な物を使ってやがるな、これだから金持ち大名は。」


佐竹側 高台本陣


八戸政栄

「敵左翼は後方に回ろうと戦列を伸ばしてきているんですが、右翼が警戒しているようで戦列を伸ばしてこないんですよね。これは一寸予定より時間がかかりそうな感じですな。」


小貫頼久

「……折角後方に立派な柵を造って置いたのに勿体ないですね。」


徳寿丸

「して政栄よ、あとどの位で反撃に移れる。」


「敵左翼の仕込みはほぼ終わってます、左翼側は反撃可能ですが……」


「……右翼ですか。」


「なかなか矢倉からの射程に入ってこないので、槍部隊に紛れ込ませて一人づつ確実にやらせています、とは言えあと半刻もあれば仕上がるかと思われます。」


「半刻か、しかし万を超す敵に囲まれるというのはどうにも落ち着かぬモノだな。」


「良い経験になりますよ、兵達にとっても万の敵を退けたという自信につながります。」


「ではあと半刻、柵を突破されぬよう兵の補充、交代の指揮を頼んだぞ。」


「「ハッ!!」」


◆◆◆


佐竹側が守備陣形として行っているスペイン方陣とは同名の陣形の名前もあるが実は戦術の名前である。

 その戦術とは前列に強固な人垣を造り狙撃手をガード、敵の将を狙い撃つ戦術である。

 この戦術の凶悪さは高低差や銃や弓の射程の差を利用して一方的に敵の大将を狙撃できる点に尽きる、南米で使われたスペイン方陣は奴隷を肉壁として回りに置き、騎馬隊の突撃を防ぎ敵の弓矢の射程外から大量の銃器を持って敵の大将を集団狙撃するという戦術である。敵の大将を討ち取れば勝ちという戦では無類の強さ誇り、平原戦や大規模会戦には向かないが狭隘或いは高低差のある地形、高楼のある市街地戦でこの戦術は重火器の登場まで無敵を誇っていた。

 もう一つの特徴は待ちの戦術であること、その為相手が撤退、或いは距離を取った場合は無用の長物となり、少数なら包囲して兵糧攻めをされることもしばしば、大量の火器を有していたポルトガルの将軍は街を封鎖され住民諸共餓死させられた記録もある。


スペイン方陣はかなりクセのある戦術であり、大量の銃器や大弓を持っていない佐竹軍は大将狙いの狙撃では勝つ事は出来ない。

 ではなぜ政栄がこの戦術を選択したかというと、敵の大将を後方に下がらせ侍大将クラスに前線の指揮を執らせる為である、そう……

 

 一人で百人の兵に指示を出すことは出来ない。

 

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