常陸国 乱 その三十 谷田部の戦い
なんとか整理したので投稿です。不定期ですが<(_ _)>
◆◆◆
結城側中央 結城家一万
伝令が次々と全体の戦況を伝えてきた、自軍有利の報告を聞く度、なぜか水谷正村の顔は苦虫を噛みつぶしたようになっていった。
水谷正村
「左翼、右翼ともよくやっている、当初の思惑通り包囲に成功しつつある……」
(だが前進を命令したらもう引き返せない、目の前にある泥沼に向かっていく様な)
(理由を上げれば幾らでもある、佐竹側がわざわざ一番狭く自由に動けない戦場を選んだ事、なのに簡単に戦場の端を奪われ包囲されようとしている、しかもその状況でも士気が下がる様子が見えない、壊滅しつつある左翼一列目も雑兵が逃げ出す事無く本陣方向へ流れている)
(ウチだけの軍なら下がって仕切り直すことも吝かじゃない、だが連合の総大将としては面子もある勝っている場面で引くこともできん……)
「中央を出した雁行を敷け!圧力をかけるようにユックリ前進せよ!」
(とにかく思惑通り左右に戦力を振らせ中央を薄くしたのだから押し込む以外あるまい、迂回戦術が取れない戦場か……恐らく端を放棄したのは左右包囲から後方に伸ばし完全包囲しようとすれば予備兵力で寸断撃破を狙うのであろうからな)
◆◆◆
佐竹側中央 本陣下予備兵力
大掾貞国
「よし!騎馬隊二百は我に続け、足軽千は騎馬隊が突入混乱した隙に敵を分断維持せよ!」
予備兵力の足軽部隊は左翼へ、騎馬隊二百は右翼へと向かっていく、中央の二列目、三列目の間の部隊を分けている場所を使い加速し横槍の威力を上げる為だ。
(大部隊で部隊間に少し距離を開けるのはこういう使いかたをする為でもあるのか、戦術書にはそんなこと書いてなかったからな。挿絵でも陣形は書いてあっても中の人の動きは八戸殿に聞くまで知らなかったしなぁ……しかしだここに来て運が向いてきたようだな、志願した城攻めでは手柄を立てる事が出来ず出世の機会もこれまでかと思っていたが、鹿島の件といい予備に回されたが出番が来たことといい本当に運が向いてきている、このまま佐竹家に付いて行けば次代の家老の一人になることも働き次第ではあり得るかも、大掾家では俺の出自じゃどんなに功績を上げても分家を継げるかどうかだからな)
「敵の錐突陣を粉砕する!我に続け!!!」
「オオオオオ!!!!!」
大掾貞国を筆頭に大掾隊の士気は異様に高かった、大掾隊が各大掾家親類のあぶれ者(次男、三男など)で構成され功績に飢えていたことも幸いしたのだろう、尋常ではない気合を持って真横から錐突陣に横槍をいれ敵小山隊の勢いを見事止める事に成功する。八戸政栄は不満であったろうがこの働きが前半戦の戦功一等となった。
◆◆◆
結城側右翼 小山家 一万
「錐突陣、横槍を受け分断、前部が包囲殲滅されつつあり!」
「氏朝様、前部が殲滅されたら次は後部がすり潰されます、中央の兵力を引きつける事に成功したのですから今のうちに後部の兵を戻しつつ鬼怒川沿いに敵右翼を引きこみましょう。」
小山氏朝
「完全分断はできなかったか、いや右翼として十分仕事は果たしただろう……良かろうその策で行こう錐突陣の後部に兵を集め押し広げながら後ろに引いて行け、敵を釣りながら鬼怒川へ引っ張るぞ!」
◆◆◆
結城側左翼 小田家
菅谷勝貞
「中央が動き出しましたな、中央左翼の端に付き前進しましょう。」
小田氏治
「多功に付いて行かぬでよいのか?」
「敵左翼の右端が無傷で残ってます、中央と連携せず多功に追随すると後方に回られ挟撃を受ける事になります、中央の前進は雁行でしょうから端の後方につき一歩下がった位置から距離を取りつつ左へ持って行きましょう。」
「兵を温存するのだな、わかった勝貞に任せる。」
小田家三千は中央左翼の端から少し後方に下がり遊撃の位置に着くが狭い戦場で迂回戦術がとれるわけでもないため完全に遊兵となってしまう、だが偶然にも斜め後方のこの位置に着いたことにより小田家三千は無傷で戦を終える事になる。
◆◆◆
結城側左翼 宇都宮多功家 七千
多功長朝
「大弓に狙われたそうだが大事ないようだな。」
多功房朝
「綱継に助けられた、まあ傷一つ負ってねえよ。」
「そうか、よくやった綱継。」
多功綱継
「大した事無いって言いたい所だが、樫製の大槍を駄目にされちまったよ芯の詰まった最高級品だったんだけどな。」
「宇都宮城の宝物庫に大槍があったら貰ってやるから。」
「買ってやるとは言わないんだな。」
「百五十貫とか無理だ!後十年まてば裏山の枝打ちしている樫が大槍の柄に使えるからそれまでまつか?」
「宇都宮城の宝物庫にあるといいなー。」
「広綱様も高定も武具を宝物として収集しているわけではないからまあ問題ないだろ、それより……。」
「ああ、櫓からの打ち下ろしとは言え、樫を貫く威力の方が問題だ、櫓からは距離を取った方が良いだろう。」
「それと、谷田川沿いに戦列を余り伸ばさないように秀綱に伝令をいれておこう。」
「なんでだ?後ろに回って包囲するんじゃ無いのか。」
「ここからじゃ見えないが後方に予備の騎馬隊がいないとも限らないだろ、少なくとも千本殿が後方に現れるまでは陣形を伸ばして薄くするのは自殺行為だから兵が回り込みそうになったら押し止めるよう各将に徹底させる、いいな。」
「「わかった。」」
(川を背に背水を強いられるとはな……勝っている内はいいが……もしもの為退路は確保しておいた方がいいだろう)
「伝令ちょっとこい!ここと、ここに手の空いてる者に柵を造らせてくれ。」
◆◆◆
佐竹側中央 物見矢倉付近
「ドンドンドドドン、ドンドンドドドン」
高台の本陣から聞こえてくる太鼓の拍子の変わる。
八戸政栄
「敵中央が動いたか……戦線を収縮する!物見矢倉の前列は放棄敵に利用されぬよう油を掛けて燃やしておけ!敵の動きに合わせ付かせず離れぬ様に敵の前列を柵まで引っ張っていくぞ!」
政栄は柵というには余りに貧相な杭に横棒を一本括り付けただけの、手をつけば簡単に乗り越えられる簡易柵を四列目に造らせていた。
(取るに足らない柵だがね、さて敵さんはどう思うかな、槍を防ぐ事も出来ないが、乗り越えるにはちと手間がかかる、縄を切ろうにも番線(針金)で出来てるから簡単には切れないしね)
◆◆◆
正午過ぎには佐竹側の後退に引きずられるように高台に陣取った佐竹側を三方から結城側が囲む様な陣形になっていた。




