常陸国 乱 その十九
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牛久城を落とし明日から行軍再開予定のその夜、深夜に塚原卜伝が八戸政栄の天幕を訪ねてきた。
「のう、政栄殿昼間の話じゃが……下総、香取神社の連中になにを仕掛けるつもりじゃ。」
「んー気になるの、面倒臭がりの爺さんでも。」
「鹿島の未来がかかってるからのう、それに顔見知りや幼なじみの息子や娘、孫が死ぬのは見たくないのう。」
「……潰す。」
「オイオイ穏やかではないのう、霞ヶ浦を火の海にするつもりか。」
「……千葉家や里見家に近い連中はすべて排除する、そうして我々の方針に従う者、我々のやり方と敵対する者に霞ヶ浦の勢力を分ける。」
「何のために……そうか北条に助けを求めるよう仕向けるのか。」
「そう、助けを求めた先が本当の罠、霞ヶ浦……そいつらにとっては香取海かここを住処にしている湖賊を全員ヒモ付にして安全な霞ヶ浦の貿易体制を作り出す。」
「追い詰めて北条に助けさせ纏めて手打ちするか、あんまり過激に追い詰めんでくれよ、まあ御主のそういう所は信頼しているが。」
「納得したらならその殺気抑えてくれない、俺だと結構ギリギリなんだから。」
「スマン、スマン周りの殺気に当てられてのう、つい出し過ぎちゃったてへ。」
「誰に習ったんだよその喋り方は、殺気のほうがまだ鳥肌が立たないだけましだから止めてくれ。あとお前達大丈夫だ殺気を抑えてくれ。」
「フー、この歳では堪えるのう。」
「うそつけ、まあ女子供に手をだす様なマネはしないから半年程は我慢してくれ霞ヶ浦が安全に航行出来なければ地域の発展も有り得ないんだから。」
「ヒモ付にして霞ヶ浦の規則を創るのか、最速の手というやつじゃな。」
「話し合いで平和的に解決するなんて青臭い理想はもってないんでね。」
「具体的な策はあるのか?鹿島水軍だけでは四分の一位の勢力でしかないぞ。」
「海だったら新南部丸で敵無しなんだが水深の浅い霞ヶ浦ではね……なーんて言うと思った?」
「斎藤衆に水深の調査をさせているのもその準備か?」
「遊ばせて置くのもね、まあ湾内測量は必ずやってるから、そのうち詳細地図ができるでしよ。」
「分かった、知己に話を通そう頑固な馬鹿ばかりじゃがな。」
「まあ水深の浅い湖や川には、それに合わせた兵法が存在するのよ、佐竹のヒモから補給できれば負け無しぜよ。」
「どこの方言じゃそれは。」
「船といえば土佐弁でしょ。取りあえず阮三兄弟から探そうかな。」
「いきなり水滸伝ネタか……わかった腕ききの漁師も紹介してやるから真面目にな鹿島の未来がかかってるんじゃから。」
「俺は何時でも大真面目だぞ。」
「うそつけ。」
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佐竹軍は牛久城及び周辺を平定、ユックリと進軍し鬼怒川が霞ヶ浦に流れ出る所謂河口の歩いても渡れる(着物を脱いで頭に乗っける)水戸街道の鬼怒川の渡し場にきていた。
「よーし!では皆で手分けして杭打ちを始めてください。」
約二万人による五千本の杭を浅瀬に打ちこむ作業が始められた。
「政栄よ。」
「なんでしょう徳寿丸様。」
「あの杭水面下に打ち込まねば歩兵の足止めや嫌がらせにならないのではないか。」
「ああ、仰ってるのは兵法にある川の罠ですね、似ていますがこれは単なる馬止めです水面上に杭が出ているのは馬が通れないのを見せ付ける為です。それに鬼怒川を歩いて渡る者の邪魔はしたくありませんから」
「それでは結城の援軍に後背を突かれるのではないか。」
「騎馬隊でなければ問題ありません、足軽の部隊なら十分余裕を持って対応できる距離です。」
「なるほど、だが間伐で出た木材とはいえ五千本となるとさすがに勿体ないのう。」
「それも大丈夫です、杭の頭に穴を開けてありますよね。」
「うん?紐でも通して抜くつもりか?そんな事で抜けるかな。」
「人の力で杭を川から抜くのは大変です、そこでこの道具です“スライディングハンマー”」
「ここを穴に通して杭とスライディングハンマーを固定して、稼働部分のハンマーをこのように上に。」
コーン!コーン!
「おお!杭が上がってきたのう。」
「このように後で杭は全て回収する予定です。」
本来は自動車の部品を抜いたりとか工場の歯車とかを抜く為の道具なんだけとね、便利そうだから造ってみたんだが役に立ったな。ん?ケチではないエコだ!
「そうか、なんだか補給物資を気にしていたせいなのかケチ臭くなったのかなあ。」
「いえいえ、物を大事に使い回す大事な精神です。君主たるもの忘れてはなりません。」
「そ、そうかそう力説されるとそんな気がしてきたな。」
「そうです、ケチではないのです。」
泰造(……ケチだよな。)
斎藤衆(シー!黙ってろ殿はケチという言葉に敏感だ)
「話を戻すがこの先も騎馬で渡れる所は杭を打つのか?」
「谷田部城の近くは川がわん曲して流れており岸との高低差がありますから騎馬での渡河には向いていません。戦場付近の二、三ヵ所を杭打ちすれは騎馬での渡河及び奇襲を防ぐ事ができます。」
「だがそれは此方も騎馬での渡河、奇襲は出来ないということか。」
「そうですね、ですが木は森の中に隠すといいます。つまり少しお耳を貸してください。」
(……………)
「なるほどそんな手があるのか、まあスライディングハンマーでコンコン抜いていては奇襲にならんからな。」
「今回は谷田部城を落とすまでが目的で結城の軍勢を蹴散らすのが目的ではありませんから。鬼怒川の先に飛び地を作っても維持するのは大変です小田家を潰せは目的達成、欲は掻かない事が大事ですぞ。」
「名将は目的を遂げたら兵を引くだったな、欲をだせば足をすくわれる。」
「鬼怒川の先が欲しいなら、策を練ってから侵攻すべきです。」
「だが、念には念をいれるのだな。」
「矛盾しているようですが、必要になるかもしれませんから。」
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