常陸国 乱 その十六
◆◆◆
合流
◆◆◆
寺の井戸に痕跡を発見した時には既に手遅れ後の祭だったようだ。
天羽を逃がしたのは勿論痛手だが、土浦城が落ちた以上後顧の憂いなく前進できるというものなのだ!先ずは自分にそう言い聞かせるとしようかって。
……無理じゃボケー!!。
大掾貞国めー要らんことしてからに、怪我人増やしておいて城を落としたとか悦に入ってんじゃねえぞ、あんな危ない城なんざ放っときゃよかったんだよ!!
ふー!ふー!落ち着けオレ、大丈夫まだにゃんこにちょっと引っ掻かれた程度だ、戦略上の作戦はほぼ完了しているんだ後は谷田部方面に進軍して川岸に陣を張って結城勢を引っ張り出せば作戦終了、北条が背後で蠢動したところで手打ちして終わりなんだ。
今やることは、二、三日後に合流してくる味方の受け入れと再編成、各地に派遣と太田城へ承認、谷田部方面の偵察に地図の作成か……補給関連はやっと水路を利用して運べるから一休みだな。
「荒れているようだのう、してやられたかな?」
「塚原の爺さんか早かったな、合流は明日以降ときいていたが。」
「先回りして着たんじゃ根回しにのう。」
「根回しですか、鹿島は割れましたか。」
「鹿島と言うかのう、大掾家が割れていると言ったらいいかな。」
「現当主は先代の鹿島家の出の当主を追い出して大掾家がゴリ押しして三男坊を据えたと聞いたんだが。」
「そうじゃ、ワシの師匠と先代の大掾家の当主が組んで鹿島家を追い出したんじゃ。」
「?……それでなんの根回しですか、塚原殿が顔を見せれば鹿島は一応安泰でしょう、貞国の野郎も参戦してますし。」
「野郎って……まあなんだ、それなんじゃが鹿島家を鹿島神社の当主、南部地域の当主に返り咲きをな。」
「今度は大掾家を追い出すのですか、あそこは三男の……誰?」
「大掾通幹じゃ、これがまた愚物でのう、先代の方がまだ良かったわい。 大掾家の現当主は大掾慶幹、貞国の父だが通字を見ればわかるじゃろ。」
「大掾家の通字は……“幹”かつまり。」
「大掾惣領家を継ぐのは三男の通幹の予定ということだな、側室腹の貞国は所詮側室腹ということだな。」
◆◆◆
通字とは代々受け継ぐ一文字で、清和源氏系や足利将軍家なら“義”鎌倉公方は足利尊氏の“氏”尾張織田家なら“信”伊達家なら“宗”の字の事で勿論その字が無いからと言って跡継ぎではないという訳ではないのですが正妻の子供に通字を付ける場合が多いのです。そして戦国時代ではこれが戦の火種になったりしたのです。
南部家?聞くなよ、うちクラスは一応通字もあるけど偏諱(片諱)で主君から一文字貰うレベルなのよ。
武田信玄が昌の字を褒美で与えたのはまた別の話だけどね。(故に武田で昌の字がある武将は超優秀)
◆◆◆
「なるほどね、貞国が早めに参戦してきて土浦城攻めを希望したわけだ。」
「大掾貞国は自らの活路を開きたいのじゃろ、惣領本家を欲しているとは限らんな。」
「大掾一族だからって団結している訳では無い所がややこしんだよね、まあ大掾通幹は参戦してないが貞国が参戦しているから大掾家は参戦してるとも言えるのが面倒だな、その辺はなにか策があるのか?」
「無いから早めにきたんじゃ、鹿島家の坊は佐竹軍の別働隊と一緒に行軍しておる。」
大掾一族を排除となる形を作るのは不味い、常陸には真壁とか使える傍流が多いからな、その通幹を排除出来ればいいんだよな。
「なんかポカやってないの、補給物資に関税かけたとか明確な敵対行為でなくて良いからさ、鹿島神社の惣領を外れてくれればいい訳でしょ。」
通幹が鹿島神社の惣領を外れると大掾家内で貞国との対立が深まるかな……
「ワシはそういうのが嫌じゃから顔をだしとらんのだ御主に任せるから何とかしてくれ、鹿島家の坊を神社の惣領に戻すだけで良いのだ。」
それだけって結構大変だぜ、今はなんとかなるけどいずれ水利で莫大な金が入る予定なんだから、知らんぞ~あの辺りは器がないと治まらない土地になるんだからな。
「そうだなあ貞国と取引出来るかな?……出来ない事は無いか、後は……爺さん、一つ貸しだからなって真壁も引き込んでくれれば貸し借り無しだったのに。」
「真壁も今や一廉の勢力ワシが口出しして良いものではあるまい、それに鹿島家の事は師匠の最後の頼みじゃったからのその位の借りは構わんわい。」
「それもそうか、よしわかった任されましょう、でも義昭様や岡本殿の力が必要だ、佐竹家強化の流れで実現するように組み込むから時間がかかるぞ、十日位。」
「十日とか早すぎじゃろう、御主の頭はどうなっておるのじゃ。」
「ん~まあその手の事は俺の本領だからかな、太田城との手紙のやり取りで多分いけると思う、それで駄目なら戦場で貞国を消すかな~。貞国が協力してくれるなら強硬策は要らないんだが腹を割って話合う必要があるな。」
勿論一方的な話になるんだがね。
「まあ良いその辺は任せた、それにしても土浦城には手こずったようじゃな。」
「ああ誰が改修したんだか、しかも燃えちゃって資料も何もないときてる勿体ない話だ。」
「話した事があるじゃろ、ワシと同郷の者じゃよ。」
「へっ?あれ改修したの爺さんの知り合いの転生者なのか。」
「名は塚田管助、鹿島の枝族の出じゃ小田に士官したが何やら失敗したらしくかなり昔に死罪相当で追い出されたよ。」
「そうか、死罪相当ね………ちょっとまたんかい!死罪相当って足の腱を切ったり片目を潰すあれか。」
「そうじゃ小田の先代に気に入られ無かったらしくてな、片目と幾つか腱を切られて追放されたんじゃよ。」
「じゃあもしかして生きてるのか?」
「噂に上ったこともないのう、生きているとしても士官の道も途絶えたのじゃ片目で体が不自由では野垂れ死んでいるのではないかのう。」
「桑原桑原、あんな城がそこらにポンポンあったらやってられんぜ、成仏しててくれよ。」
◆◆◆
常陸太田城 閑話
◆◆◆
「にこやかに談笑してないで、少しは手伝って下さいよ!」
「いや~ワシ病み上がりだし二ヶ月は安静にして療養しろって。」
「私は何の権力も無い手紙坊主ですから。」
うそつけ
佐竹義昭は薬が効いたのか劇的に病状が改善されお粥とすり潰した温野菜と漢方薬の治療に移っていた。
「蜜柑とか果物がよいらしいのう。」
「快速南部丸の二十日以内お届け紀州雑賀印蜜柑があるらしいですな。」
「季節が秋冬なのが残念じゃな。」
「梅の果肉を甘く煮付けて、お茶受けにすると疲れがとれるそうですクエン酸とか言ってましたな。」
「砂糖は高級品だぞ、うちの城にそんなに残っていたか?」
「八戸殿からの贈答品に砂糖の壺が五つほど入ってましたよ。」
「それはありがたい、梅が熟したら早速作るとしよう。」
ダメだこいつら私が何とかしなくては佐竹家が滅びる。
和田昭為の献身的な仕事ぶりで、常陸南部の別働隊への補給は滞りなく送られ、略奪騒ぎなどを起こすこと無く無事に本隊に合流することとなった。
彼は若白髪が増えたらしい。
◆◆◆
常陸太田城 閑話裏
「で、どんな具合だ。」
「土浦城では天羽に一杯喰わされたようですか、部隊の合流で何とか建て直したようですな。」
「中々危うい展開じゃな、結城の動きはどうなっている?」
「小山、宇都宮などに共闘を呼びかけております。」
「笠間などに先手を打って、白河を牽制させてよかったのう。」
「あの間道を使われますと、水戸の裏に出て来られますからな。」
「地図に載せてなかったから見落としたのかな。」
「いえ、水戸にも兵を配置して笠間の動きは監視しているみたいですな。」
「喰えんやつじゃのう、クエン酸は体に良いのに。」
「殿、お上手で。」
「そうか、ハハハ。」
「北部からの侵攻を抑えれば、徳寿丸達でなんとかできるじゃろ、最悪負けても筑波山まで獲れれば問題ないしのう。」
「いや全くです。」
◆◆◆




