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常陸国 乱 その十五

土浦城 小田側


「怒濤の勢いで三ノ丸の泥沼に橋を架けられています、矢を射掛けてるのですが士気高く傷を負わせても直ぐに交代するため効果がありません。」


「ムムム、昨日の今日で損害を無視して正攻法でくるとは、ならば死体の山を築くまでのこと、門にとりつかれるまでは射手を二ノ丸に集中させるのだ!」


「はっ!直ちに!」


「水の充填具合はどうだ?」


「肝心の風車の羽が付いていないため手回しで汲み上げておりますがこの調子では三日はかかるかと。」


まさか、あれがこの城の肝だったとは……殿恨みますぞ。


実は小田氏治が景観が悪いと五年ほど前に風車の羽を撤去しており、汲み上げ機構は手回しに改良?され、霞ヶ浦の水を汲み上げて使う生活用水用の井戸の代わりとして修理されながら今まで使われ、各貯水槽も泥を分離するための浄化装置として使われていたので一応昨日までは半分以上水が溜められていたのだ。


もし風車の羽が付いていれば、夜の内に水が溜められていて泥沼に架けた道も洗い流す事が出来ていたであろうから皮肉なものである。


「まあよい、説明書にあったこの臭水(原油)を流す装置があれは城に入った奴らの半分は巻き込めるであろうからな。」


彼奴が下総からこんな使い道の無い臭水を大量に買い付けていたのはこの為だったか、臭くて燃えにくい上一度火が着けば水では消せないだけでなく更に悪臭が広がるからどうにも使い道に困っていたのだが戦に使う為溜められていたとはな。


水門も岩の穴に梃子を差し込んで上下に隙間を開く簡単な造りで助かったわ、金物で造っていたら今頃サビて使えなかったからな。

それにだ毎年貯水槽の泥落としで水門を開けていてくれたのも助かった水路が埃や泥で詰まっていたら臭水の仕掛けも使えない所だったわい。


全く良く考えて城の改修を行っものだ……いや、この完成度なにか見本となる建物があるのかもな、話を聞いてみたいが死人に口なし残念だな。


フッ、とはいえワシももう直ぐそちらに逝くことになろうから存分に話を聞くとしよう。


◆◆◆


「天羽様!回廊の落とし穴が突破されました、もうすぐ敵は一ノ丸の門を抜けます。」


「そうか、一ノ丸に敵が雪崩こんだらもう長くは持つまい本丸に生き残った者を集めて臭水を流して火矢を放つぞ!」


「天羽様!脱出されませぬのか?」


「一ノ丸の落とし穴から霞ヶ浦に抜けるのは知っていたがもう使えんからな、主達ぬしたちと城を枕にするも悪くない。」


「天羽様……」


「どれ、では逝くとするか。」


◆◆◆


本丸裏、臭水を溜めた樽の保管場所


「フム、あそこの穴に流し込み、貯水槽を解放して水で押し出すのか。」


「空の樽は如何します?」


「今更とっておいてもしょうが有るまい外に捨てて一緒に燃やしてしまえ。」


「わかりました、樽は戻さず外へ出せ!」


「ここは樽に蓋をしていても臭くて入ったことは無かったな……待て、なんだその板はなにか書いてあるぞ。」


「ふっ……ハハハ!残念ながら死に損ねたか、感謝するぞ最後の最後のにこんな手を残してくれたとは。」


そこには“非常口”と彫られた板が貼り付けてあった。勿論あのマーク付きで。


非常口使用方法、備え付けの縄をかけて下まで降りて下さい。

横穴が寺の井戸に続いています、寺の井戸は階段状に梃子を差し込む穴がありますので短くて太い棒をお忘れ無く。


「……縄は腐っておるな、汲み上げ装置の縄を使おう、梃子も水門用の予備がある使い回せば一人は上に登れるだろう、そこから引き上げれば良いか。」


「はっ早速準備を。」


「よし、水門を開けて臭水を流せ!火が回って敵が混乱している内に皆で逃げるとしよう。」


◆◆◆


城から脱出した天羽と生き残った守備兵は、佐竹軍に寺を囲まれる前に逃げだし行方を眩ませる事に成功した。


結局土浦城攻城戦では佐竹側は死者こそ少なかったモノの大量の負傷者を出してしまい、軍の弱体化と補給物資のさらなる枯渇を招く事と為り、小田側は足止めには失敗し城を失ったものの大いに溜飲を下げる結果となった。







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