常陸国 乱 その四
不定期ですが<(_ _)>
太田城 大広間
「策の骨子は今説明した通りです、小田氏治を陥れ常陸の完全統一を行います。」
「なるほどなるほど危急を逆手にとり逆転の手を打つとは実に見事な策であると考えます。」
おお岡本殿は話が分かる人だ、それに引き換えさっきの和田殿ときたら、ネチネチとしつこい、粘着質だなあれはいいからサッサと物資の確認をしてこいつーの、俺は外の人だから蔵には入れないんだもん。(笑)
「では具体的に一手目、常陸国内に高札を立てて、義昭様が矢傷に倒れ、重篤であることを広く民衆まで広めます。これは後で民を味方につける下準備とお考え下さい。」
「特別に小田殿には匿名で佐竹家の内情を嘘偽りなく書いた手紙を届ける事になります。ああ義昭様が回復に向かっているのは書きませんがね、岡本殿宜しくお願いします。」
「よろしいでしょう、引き受けさせていただきます。」
「続いて二手目、数日おいて小田殿の治めている地域を除いて
小田殿が反佐竹の兵を上げた事を書いた高札を立てます、高札を立てた翌日、近くの有力者に檄文を届けて回る事になります、間髪を入れず檄文を配ることが今回の策の最も重要な仕事ですから特に気合をいれてお願いします。」
「義昭様の高札の後なら、すぐに噂が広がる事も計算のうちですかな。」
「ええ、再び高札があがれば何事かと広まるのも早いでしょうから、ではその間に太田城では岩城家との国境に展開している小貫頼俊殿の率いる軍を太田城まで戻し近隣から集めた兵とあわせて軍を再編成します。」
「太田城の守りに小貫殿と三百ほど兵を残して、新たに編成した軍を常陸南部へ急行させ檄文が各地に届いた夜には小田殿の領内へ奇襲を行い、城や砦を急襲して回ります。」
「岩城家に対しての備えは放棄するのですかな。」
「いえ、岩城家と相馬家との間で水争いを頻繁に起こしている村があるのでそこをつついてこちらに構う事が出来ない状況を造る予定です。」
せっかくの争いの種だが使うときに使っておきましょうかね。
「軍師殿に策があるなら問題ありませんかな、つまり常陸の騒乱が収まるまで時間稼ぎをするわけですな。」
「その通りです、ですがそれほど長くは持たない可能性もありますですから檄文で味方が増えた時点で兵を割り太田城の守りも強化する予定です。」
「ふむなかなかにギリギリな案ですがなるほどそれならば納得できますな、続きをお願いします。」
「三手目、檄文では動かない、慎重あるいは腹に黒いものを持っている勢力にはもう一手仕掛けます、義昭様が回復している内容の密書が自然に間者から手に入るように罠を仕掛けます。」
「間者から情報を手に入れたように錯覚させるのですな、しかも情報は本物ですから改めて確認しても嘘ではないか。」
「檄文は内容的に義昭様が回復していない方が都合がいいので回復の情報を隠していますが、檄文で動かない連中には隠した情報を与えて佐竹家の勢力が檄文の結果常陸国内で圧倒的な勢力になり、それを徳寿丸様ではなく義昭様が統治する未来図を見せることで重い腰を上げて貰いましょう。」
戦後の二重構造を造らぬよう、上手く調整しなければなりませんがその辺はこの窮地を乗り切ってからですね。
「四手目、常陸国内が明確に敵味方に分かれた時点で国境の軍を率いる将に小田城に向けて各地の味方を吸合しながら向かって貰います。」
この時点で裏切る将は流石にいないだろうからね。いきなり“当主が倒れた戻ってこい”では、“裏切れ!今が好機だ!”って言ってるようなものだしね。
「軍師殿、小田城に向かうのはわかったが、奇襲した後小田勢と膠着状態を保てるのですか?敵の数はかなりの数になりますぞ。」
「それについても一つ用意している策があります、その策が失敗した時は一旦少し引いて時間稼ぎを行います。」
「策の詳細は?」
「申し訳ないが、ここでは戦術に関する内容は言えません、味方であっても漏らすことはできません。」
「識りがたき事、陰の如くですか……戦術の策は味方であっても漏らさないでしたな、策の不発の後の事も考えてあるようですしお任せしても良いモノと考えます。」
岡本殿度々のフォローありがとうございます。あんたたちのなかに間者がいるかもとは言えないしね。孫子曰く本当に大事なことは最低限の人が知っていればよい、こんな所(軍略の会議)では戦術の内容は言えないのですよ。
「軍議は以上となります、各人割り当てた行動にすぐに取りかかって下さいここからは時間との勝負となります。では徳寿丸様。」
「うむ、皆父上不在での戦となり、不安もあるだろうが勝機は十分にある、我を信じてついてきてくれ!!」
「オオオオ!!!!」
◆◆◆
大広間での軍議を終え、蔵から戻ってきた和田昭為を加えて、密談が行われていた。
「兵糧は結構足りませんな、民衆を味方につけてある程度徴発する策か……檄文と相まってなんとか戦を行えそうですな。」
軍議の場で、兵糧が足りないかもなんて言えないしね。不安材料は喋らんのよ。
「さて詰めの部分ですが、常陸国内を敵に回した小田殿は起死回生を狙うとしたら如何するとお考えですかな。」
「国内に味方がいない以上外に味方を求めるのではないかな」
「ですね、おそらくは結城家に援軍を、膠着状態を見て岩城家に後背を襲うように要請するでしょうな。」
「軍師殿はそれについては何か策があるのか?」
「岩城家は問題なく、太田城や地形的に待ち伏せで十分凌げます、もし血迷って大軍を興して太田城を襲ってきたなら返す刀で岩城家を地図上から消してやるだけです。」
「地形的に圧倒的にこちらが有利だからな、兵数が少ないとはいえ小貫殿が遅れをとるとは思えんな、問題は……」
「結城家の方ですな、小田領の裏から援軍を送られると合流するのを防ぐ手段がありません、常陸国内の勢力を吸合しても結城小田の連合に兵数、練度で劣る事になるでしょうな。」
「ならば如何する最後にひっくり返されては意味が無いぞ。」
「岩城家の意趣返しではないですが、北条家に結城家の後背を突いて貰いましょう。」
「軍師殿それは、我々は河越合戦以来北条家との交流がほとんどなく伝手が全くありません。」
「ああ私は幻庵殿と茶飲み仲間なので伝手とかは問題なく、早馬より早く手紙を送る手段も知ってますから。」
風魔なら関東の主要な城に間者をいれているだろうからな泰造に密書を送って貰うように交渉させよう。
関東の地図を広げて、位置を指差して地理的条件を確認してもらう。
「北条家と手を結ぶのか……なるほど同盟を組めばいずれ結城、千葉、里見を挟撃できるか。」
「三国同盟で北条家の目は関東に向いています、佐竹家との同盟は望む所でしょうからな。」
「わかった当主代行として北条家との同盟を行い、援軍を要請しよう。」
「では後で幻庵殿に密書を送っておきます。結城家から援軍が小田家に向かった所で後背を襲って貰いましょう。」
「小田殿も気の毒に、期待の援軍が途中で帰っていくのですからな。」
「全くです、一連の流れと詰めは以上です、予想外の事態が起こらないとも限りませんが連絡を密にして状況を共有することで対応していきましょう。」
◆◆◆
「岡本殿、先ほどの軍議では度々の加勢ありがとうございます。」
「いえいえ、手助けになったならなにより、私は貴方に賭ける事にしましたのでね。フフ、まだ戦すら始まってないのに城を包んでいた悲愴感が無くなっています。……出来る限りとりあえず手紙や檄文を書くことで協力させていただきますよ。」
なるほど岡本禅哲、佐竹家の政の要か南部にもああいう人材がいればなあ、ヤンデレとはえらい違いだよ。
ブルブル、お、おう、なんか悪寒がした桑原桑原。
「協力ついでに、岡本殿にこんな事を頼むの申し訳ないのだが。」
「何かお役に立てる事がありますかな。」
「ええ、ここからは、徳寿丸様や他の皆さんには向いていない内容の仕事ですからね。」
「フフフ、怖い方ですね。あれだけの非道の策の後にまだ裏の仕事があると仰る。……伺いましょう。」
顔色一つ変えないあんたも相当だがね。
「では……」
深夜まで密談は続き、五通の手紙がとある武将達に届けられることになった。
内容は徳寿丸の名声と悪名いわゆる噂の管理の依頼である、噂を流して名声を高め、悪名は軍師の俺にと言った具合に評判に関する情報統制を行うのだ、常陸国内の勢力が味方になるのだから足場を固めるのは早い方が良いからね。
あざといやり口だが政略の裏面なんてこんな事ばかりなのよね。
鬼義重の伝説も作られたものであるのは明白だしね、岡本殿に人材の斡旋を頼んだらアッサリ了承された、もしかしたら俺がやらなくても岡本殿が既に準備あるいは、人物の目途をつけていたのかもしれない。
小田との戦ではギリギリ安全圏から前線指揮をさせ、小田結城戦では不利な状況の演出と結城軍撤退まで前線に留まり胆力をみせ味方を鼓舞させる予定なのです。前哨戦までの動きは軍師の汚い策ということにしてついでに俺の悪名も高めて(泣)、行動の迅速さ、神速の行軍などいくらでもマッチポンプ可能ですからね。
まだ徳寿丸様は歳が若いんだから鬼義重の伝説は次の機会にやって貰いましょ。
手紙の届け先?秘密に決まってるじゃない彼らにはこの事は墓場まで持っていって貰うのよ、そういう人物を岡本殿に紹介して貰ったんだし。




