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治療

しばらく不定期ですが<(_ _)>

◆◆◆


本丸の中とは言え、この時代の太田城は居住区は三ノ丸、狭いし水はないわで大変不便な環境なのよね、重篤なら諦めて三ノ丸に移るべきとか提案したくなるな。


「此方です、中へどうぞ。」


部屋の中へ入ると、真ん中に寝かされているのがおそらく佐竹義昭、右手に御典医だろう、左手に小姓が二人と、もう一人座っているのは誰だろう。


「危急の時故失礼します。御典医殿、面倒でしょうが説明をお願いします。」


「はい、薬師の御子柴と申します、容体は先の戦で左腕にうけた矢傷が悪化したものと、熱が激しくこのままでは。」


ふーん、ここからだと見えないけど、矢傷に感染症か……


「膿んでますか?替えた包帯等を見せて貰っても。」


「そちらにあります。」


……膿んでるが……色は普通ね、血の気が引いていて、発熱か。


「薬湯は何を。」


「解熱薬と強壮効果をもたらすものを煎じてすこし飲ませております。」


強壮薬か、体力が無いときは逆効果もあるが、砂糖も加えているのかな?


「甘草は使われてますかな。」


「はい、強壮薬用に足しておきました。」


「御典医殿は腕を落とすにも、左腕で心臓に近い事を懸念しておられるのかな?」


「ええ、血止め薬も飲めぬ状況では、体力が持つかどうか。」


俺も医療の知識を求めてかなり独学したが流石大名家に仕える薬師だね。この時代なら百点です。


「この症状なら私の持っている薬である程度改善できます、腕も落とさずにすむでしょう。」


「なんと!そんな薬が?」


「まあ、秘伝の薬ですからね、薬の名前も言えませんが私の名前をもって信用していただくしかありませんがね。」


「信用しよう、南部の者は約束を違えんとの噂だからな、今必要な薬がある、これだけで問題は無い。」


奥に座っていた御仁の鶴の一言で場は纏まったようだ、何者?


「では最初にこの薬を徳利から皿に取り、綿に染みこませて舌の下に含ませます、呑み込んでも問題はありませんが胃酸で薬効が下がります。」


「拒絶反応がでなかったら、多めに含ませて経過を診ましょう。」


できれば血管に適時注射か矢傷付近に筋肉注射をしたいんだが、無理だよなーそんなことをしたら俺が殺されかねん、さっきまで意識が有ったんだし舌下での投薬でも間に合うでしょ。


◆◆◆


二刻程で症状は劇的に改善した、とはいえ治った訳では無いから投薬は続け無いと如何のだがね。


「先程は名のらず失礼した。私は小野崎義昌、義昭の弟だ、八戸殿此度の事誠に感謝に絶えん。」


「症状が落ち着いただけで、治った訳ではありません礼を仰るにはまだ早いかと。」


「そうですか、ところで先程の薬は刀傷(破傷風)に効く薬なのか?アレが発症してから持ち直すなど初めて見たぞ。」


「万能薬には程遠い薬ですが、漢方薬と併用可なので使い勝手は良いですよ。」


「こんな時になんだが、その…幾らぐらいの値が、いや金が惜しいとかじゃ無くてな、ワシは既に佐竹家からは外れておるし徳寿丸は家督の継承が決まっておるがまだ元服前、そのあれだ……当主の許しも無しに……そのまあ、勝手に清算することはできんのでな。」


なんとなく、苦労人の匂いがする人だな。


「わかっております。それと値は聞かぬ方が良いでしょう(原価で同じ重さの金の五倍位だしね)足りない薬は既に早馬で新南部丸に必要な量取りに行かせてます治療に使用した分は、義昭殿に直接請求しますから。」


「治ると確信しておられるのだな、その言葉を聞いて安心というか、更に値段が気になってしまったよ。」


「ハッハッハ(笑って答えない)」


「御使者殿には悪いが容態が安定した以上ワシもそろそろ急いで戻らねば為らぬのでな、ここで失礼する。」


ハイハイ、当主の生死も確認したし居城が心配でしょうからね、ここまで残っていただけ情がある人なんでしょうが流石にここからの判断は誤りませんか。


さて乗りかかった佐竹丸、お代を貰うまでは潰されると困るんだがね、俺の打てる手はここまでだし巻き込まれる前にそろそろおいとましましょうかね。


◆◆◆


「殿!目が覚めましたか!御典医殿早く!」


「昭為か、耳元で大きな声を出すな……ワシは何日寝込んでいた?」


「二日と半日ほどで御座います。」


「そうか、矢傷が熱いと思っていたが、まさか倒れるとは。」


「殿!我慢するのも程々にしてくだされこの場合の我慢は美徳ではありませんぞ、南部家秘伝の薬が無かったら死んでおりましたのですぞ。」


「そうガミガミ申すな、しかしやせ我慢も今回は行き過ぎたか……大勝した後だ弱味を見せるわけには……しまった!配置はどうなっておる、徳寿丸と小姓連中は?」


◆◆◆


依頼


◆◆◆


「そうか、小姓(人質)で逃げ出した者は居らぬか。」


「徳寿丸様とは仲は悪く有りませんからな、裏切る事はないかと。」


「昭為、甘いのう彼等の家からみれば所詮人質、ここが機と見れば牙を剥き襲ってくるものだ人質とか関係なくな。」


「牙を剥きますか。」


「わざわざ兵を付けて配置しているオマケ付だ、ワシが倒れたと知られれば喜んで襲い掛かるだろうよ。」


「義昌様は城に戻り、人質と兵を送ってきております。」


「流石に早いな、ワシが死なないと判断して守りを固めたか。」


「義昌様は攻められると判断したと……」


「人質ではなく嫡男を逃がしたとも見えるがな、彼奴あやつらしい。」


「して、如何されます回復したことを大々的に公表しませんと。」


「無茶を言うな、起き上がれんのに馬に乗れる訳がなかろう、御典医の話しでは生きているのが奇跡らしいからな。」


「それでは……」


「噂を払拭出来ぬ以上いずれ誰かが兵を向けて来るだろう、時間の問題と言う奴だな。」


「如何されます、岩城家に助力を頼みますか?」


「水軍が襲ったばかりでそれはかなわんな、逆に侵攻されかねん。」


「では、如何に……」


「徳寿丸を呼んでくれ、この病はうつらぬと八戸殿のお墨付きだからな。」


「わかりました、しばしお待ちを。」


◆◆◆


コンコン! 窓を軽く叩いた後泰造が入ってくる。


「おう、ご苦労さん、さて逃げる算段をつけますか、城の警備は見てきたんだろう。」


「逃げるのか、常陸も飯が不味いままってことか。」


「ウーン、まあ策が無いわけでは無いんだがな。」


「あるのか?なら……」


「他家の事にしゃしゃり出る訳にもいかんのさ、常陸が荒れる原因も火が付きやすい状況も偶然とはいえ佐竹家の招いた事、運が無かったね。」


「政栄が言うんなら、そうなりそうな所が怖いんだよな。」


「俺は滅亡するとは言ってないぞ、せいぜい常陸の四分の一位までは削られるだろうがな。」


「統一寸前まで行ってたのになあ、諸行無常か。おっ」


扉の外で足音が、すかさず隠れる泰造。


「失礼いたす、入ってもよろしいか。」


「どうぞ、お入り下さい。」


さっと扉が開き、小姓達を連れて明らかに若君という服装をした少年が入ってくる。


……俺より年下って事はこいつが鬼義重かな。


「いきなり押しかけて失礼いたした、義昭が嫡男徳寿丸と申す。」


「これは丁寧な挨拶痛み入ります、南部家家臣八戸政栄で御座います、このような時間に何か御用ですかな。」


「父上より、しばらくのあいだ家督を任された、すこしの間で良いので軍師役を引き受けてくれぬか?」


「……ハイ?」





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