外交 相馬 その二
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フム、そう来ましたか。
怪しいとは睨んでいましたがあちらから接触してくるとは。
「新南部丸に移動してもよろしいですかな。」
「見学という事にして許可をもらうわ。」
見学で外に出られる姫って……
「……んっんでは、正門の外でお待ちしております。」
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新南部丸
「クレーンで吊り上げて乗り込むのね。」
「この辺は新南部丸で接岸出来る場所が少ないてすからね。」
「鉄をこんなに使って、相馬じゃ鍬を調達するのにも半年はかかるのに。」
……でしょうね、馬淵川河口で南部の物資の集積地だった八戸と比べるのは酷だろうなあ。
「いえいえ、農地の配分とか見事です、ただ肥料は殆ど使ってないようでしたが。」
「肥料ね……畑に馬糞を混ぜてみたんだけど苗が腐るのよ、人糞は寄生虫が多くて使えないのは知ってるけど。」
「肥料は安全重視なら発酵させてから二年は寝かさないと、人糞は肥溜めにためておくなら最低十年ですかね。」
「そんなに?、今からだと馬糞で二年かかるの?」
「近代的な機械も薬品も使わない素人の発酵ですからね熟すまで二年は待たないと、馬糞や牛糞を藁やおが屑と混ぜて発酵させるんですが、時々かき混ぜる必要もありますからかなりの重労働ですよ、うちは最初からクレーンでかき混ぜてましたがね。」
「私の十年っていったい。」
「領地に行き渡る量の肥料をつくるなら専用の工場を作って安全管理しないと疫病の元ですよ。」
「くっ、コンポストで肥料を作るのとは訳がちがうのよね。」
「肥料作りは実際は工業の分野なんですから、素人には大量生産は無理ですって。」
「ハァ、食料の増産には肥料が絶対条件なのはわかるんだけどね。」
「ところで貴方は前世で何してたんですか?」
「普通の事務職よ結婚してからはスーパーでパートしてたわ。」
……主婦って、俺にどうせいっちゅうねん。
「つかぬ事をききますが前世も女の方ですよね。」
「そうよ、前世も女よ。」
中身が男とか考えたくないならな、主夫じゃ無くて良かった。
「なにか、役に立つ知識はもってないんですか?」
「知識?料理は一通りできたけど、こちらでは温々と暮らしていたから、お米もここでは炊いたこともないし。」
役に立つ知識があるなら実践しているか。
「姫様に生まれて良かったですね。」
「良くないわよ、政略結婚?で更に田舎に飛ばされる所だったのを村の近くを開拓して無理やり居残ったんだから。」
主命に逆らうとか、自由すぎ……盛胤殿も大変だな。
「政略結婚?因みにどこに。」
「三春って言ってたかな?まあ蹴った話しだし覚えてないわ。」
三春?田村家かな、あの辺は行ったことが無いから詳しくはわからないな。
「それで話なんだけど、ひどいじゃないうちの港を全滅させて、復興まで何年かかると思ってるのよ。」
……平和ボケ?何言ってるのこの人
「先に手を出したのはそちらさんですよ、こちらは防衛しただけ、相馬の港を襲ったのは鹿島の水軍ですよ。」
「は?相馬の港を襲ったのは南部の水軍ではないの?」
「そこからですか?うちは石巻を占拠してすぐに引きましたよ取っても美味しくありませんからね。」
……まあ、鹿島の水軍をけしかけたのは私ですがね。
「せっかく上方との貿易ができるようになったから、いろいろ種とか取り寄せようと思ってたのに、計画が滅茶苦茶だわ。」
「人んちの港を襲おうとした報いですよ。」
「それよ!誰なのうちの水軍を勝手に連れ出して……気付いたら港は火の海だし。」
……このおばはんどう考えてみても腹芸ができるタイプじゃ無いよな、ならやはり首謀者は相馬とは別の所にいるのか。
「それは、災難でしたね(笑)。」
せっかく転生者が見つかったのに期待外れも良いとこだな。
「他に転生者に会ったことは?」
「無いわ、あんたがあの間抜けな立て札を立てるまでは南部が粋がってる位にしか思ってなかったし。」
「間抜けとはひどいし、南部の最大版図越えてるから、明らかに歴史が変わってるから。」
「中央から見たら、片田舎の大名が領地をちょっと広げた程度にしか思ってないでしょ。」
まあそうなんですけどね、相馬のあんたが言うなよ腹が立つ。
「……で、菊さんはこれから如何するの?」
「姫を付けなさいよ、菊姫!気にしてるんだから、如何するって何の話?」
「あと数年以内に相馬は滅ぼされちゃうよ、うちに。」
「……え?」
「え?、じゃ無くて今のままだと首が飛ぶよ物理的に。」
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「馬鹿言わないでよ、南部はまだ大崎と小競り合いしてるって聞いてるわよ、後ろに伊達も控えてるんだから、数年って何年よ、うちに攻めてこれる訳ないでしょ。」
「うちが一関を抜いた情報は入ってないの?」
「入ってるわよ、地方都市を落としたからってそれがなに?」
あーダメだこの人、戦国時代の重要拠点とか知らないんだな。
「一昨年までは南部領で小競り合いしてたんだけどね、今は大崎領や伊達領で小競り合いしてるの、言っている意味わかる?」
「どういう意味よ。」
「古川の都は後で接収するから攻め込む予定は無いけど、他の地域はボロボロになるかな。」
「古川が都って、仙台じゃないの?」
「仙台は今は青葉山に山城があるだけの小さな村ですよ、この時代あの辺は古川を中心に回ってるんです。」
「知らなかった……」
「菊姫は前世はどこに住んでいたの?」
「東京、23区では無いけど。」
「じゃあ東北の風土記述関連を読んだ事は?」
「全く無いわ、風土記って日本書紀の中の?」
「それは奈良時代の話でしょ鎌倉時代から江戸時代までの東北の細かな事を書いた本の総称の方です。」
「いや、あたし選択地理だったし、大学も専攻は語学だったから。」
「むっ、この辺りの鉱山の位置正確にわかるか?」
「サッパリ、わかってたら開発してるわよ。」
「フー、そう旨い話は無いかまあそんな物だよね、話を戻すけど次の戦で陸前側の伊達領は南部領になる予定だから、お隣さんだね。」
「そう上手くいくのかしら。」
「正直負けても構わないんだけど、まあ負けないでしょうね。」
「自信があるのね。」
俺もこちらの暮らしに慣れてきて贅沢とか不便の境目があやふやになってきてる、できれば不便を口にしてくれる人がいるのは……
「どうです、相馬家を滅ぼす気はないんで、相馬が戦に負けた時の事を決めておきません。」
「うちが負ける前提なのね……肥料の事は感謝するけど一応こちらで出来た家族を裏切るようなまねは出来ないわよ。」
「相馬家が戦で負けた時に実行する策です、後で私が一筆したためて貴方宛に贈り物にまぜて送りますから。その時がきたらその策の通りにすれば相馬家の皆生き残れますよ。」
……当主は助かるか微妙だけどね。
「負けた時にね悪魔の囁きにしか聞こえないんだけと、まあ良いわよ保険と思って貰っておくわ、ただうちが簡単に負けるとか思わない事ね。」
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