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石巻沖海戦 その三

南部側船団


「敵船団が混乱して船足が落ちたぞ!!櫂を取れ!!前進だ!!」


「オオオオ!!!!」


◆◆◆


「若、味方船団が動き出しました。」


「よし!風下から半包囲すればもはや逃げ場は無い!我々はゆっくり旋回しつつ中型船を排除していく。」


……船戦で風下から半包囲とか常識外れも良いところなんだけどね、混乱して船足を落とした船を接近包囲すれば何処にも逃げられない。


「まだだ!!まだ負けたわけではないぞ!!敵船に乗り移れ!!船を奪うんだ!!」


……そんな事許す訳がないでしょ、この時点で高所を取って囲んでいる我々が圧倒的に有利なんだから、逃げるか降伏かの二択だっつーの。


「仕方ないな爺、信号用閃光弾を上げろ“火矢一斉射”だ」


「はっ!」


バリスタの矢に炮烙玉がくくり付けられ導火線に火を着ける。


「放て!!」


シューー  パッ!


放たれた矢から閃光が発せられる!!


「信号があがったぞ!火矢の用意だ急げ!!」


既に至近距離で包囲完了していた船団にポッポッと無数の火矢が灯っていく。


周囲の敵船団に赤い火が灯っていく、この状況を理解した者は唖然として動く事ができない、既に逃げ場はなかった。


新南部丸から二度目の信号弾が打ち上げられる。


シューー  パッ!!


「放て!!」


船団から大量の火矢が一斉に降り注ぐ!!


矢は火の雨となり敵船団に尽きる事無く降り注いでいく。


小型船、中型船を問わず無数の火矢が突き刺さっていく。


「ほらよ!これはおまけだ!!」


トドメとばかりに油壷が投げ付けられ一気に火の勢いが上がっていく。


混乱の中、密集していた船から船に燃え移り、阿鼻叫喚の地獄と化していった。


◆◆◆


新南部丸


「逆に赤壁を起こしてしまったのう。」


「火の勢いがあり過ぎるな、手旗信号で距離を空けるよう伝令を!海に落ちた者は拾える奴は拾って縛っておけ!」


……やれやれ降伏してしまえば良いものを、いやここは情け無用、心を鬼にして全ての船を焼いてしまわんとな。


「まだ終わってないぞ!!攻撃続行!!一隻も逃がすな!!」


「オオオオ!!!!」


既に勝敗は決していた……南部側が手を緩める事無く全ての船を焼き殲滅し終えたのはそれから、二刻ほどたった後だった。


◆◆◆


久慈丸


「見事な戦だったのう。」


「弥四郎様、まだ戦は終わっておりませぬ、中にお入り下され。」


「大丈夫、あそこに見えている城に攻め入るつもりなのだろうが、この光景をみていれば逃げださん訳が無い、城は既に空っぽさ。」


……遠くから見れば一方的に囲んで火を付けた様にしか見えないだろうがな。


船縁を掴む手が震えているのに気付く。


……手が震えてる?そうか興奮しているんだな、いや目の前出来事を見て興奮しない方がおかしいよな。


……風上を取られて潮目も不利の中、あれほど自在に船を操り敵船団を混乱させるとは、三本帆柱船の力恐るべしだな。


「戦神八幡太郎義家の生まれ変わりか。」


……戦の神に愛されてるとはこういう事なのかもな。


新南部丸を見つめるその顔には憧憬の表情が浮かんでいた。


◆◆◆


新南部丸


「皆呆けるなよ!まだ戦は終ってないぞ、石巻港を占拠して日和山城を攻め落とす!!」


「オオオオ!!!!」


「完勝じゃのう、海戦も制したといったところかの。」


「そんなわけないでしょ、今回は意表を突くことが出来たのと、相手が火矢を使わなかったからですよ。理由は想像できますがね。」


「欲をかきすぎたんじゃな。」


「若、石巻港に船団が突入します。」


「おっと忘れていた改めて全軍に通達!略奪行為は厳禁!要らなく殺さぬよう念押ししておけ!!」


「ははっ!!」


敵船団を殲滅した勢いのまま石巻港に侵入し高台にあった日和山城に攻め寄せたのだったが、沖で味方船団が燃やされ港を埋め尽くす大軍で押し寄せた状況を見ていた城主代官は既に逃げ出した後であり、城内はもぬけの殻であった。


◆◆◆


翌日 日和山城


「勢いのまま石巻を占領したが、今は飛び地なんだよな。」


「贅沢な悩みじゃのう、居座ったらどうじゃ。」


「鶏肋ってね。貧弱だけど旨みはあるから棄てがたい、だからと言って判断を誤るとろくな事にならないさ。」


「ならどうする?燃やすのか?」


「報復攻撃は恨みが加速していくからやめておこう、城の物資を回収して引き上げるさ、いずれ南部の城になるんだから今は貸しておくさ。」


「他の港には攻め込まんのか?」


「それは他の水軍が既にやってる、これ以上は必要ないかな。」


「他の連中が納得するかね。」


「指揮権は俺にあるからね、略奪行為は一切禁止、命令は絶対よ!破ったら誰であろうとも死刑ね。」


「それは厳しいのう、じゃが点数稼ぎにはなるかのう。」


「何年後かには南部領なんだから、必要以上の事はしないさ、爺!近くの村長むらおさを集めてくれ」


「はっ!ただちに!」


「どうする気じゃ?」


「代官が戻ってくるまで城を預けるのさ、野盗とかの根城にされたらたまらんからな。」


「ほっとけば良いものを。」


「まあまあ、鉄槌は下したんだからこれ以上は遺恨を残すしね、孤児とかは村で預かるよう念押ししとく位はするさ。」


「どうにもならんと思うがの。」


「それも含めてさ、後で南部丸で回収するつもり。」


「親の敵じゃろう、本気か?」


「どうしても嫌なら仕方ないさ、あー偽善じゃないぞ治安維持と有効活用だからな。」


「まあ、そう言う事にしておくかのう。」


◆◆◆


情報収集の為相馬、小名浜に改装した南部丸を一隻ずつ向かわせ、三陸の船には即金で報奨金を支払い、残りは八戸港に戻ってから支払った後解散する事となった。


赤字だ!(泣)と誰かの嘆きがこだましていた。


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