知らない爺さん
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八戸領の内政関連はほぼ指示を出したかな、対大浦戦略も久慈側は全く問題ない、とち狂って奇襲してきたら地図から消しちゃうだけだ、難題なのは弘前に入った大浦本家の方か、浅虫と小笠原信浄の交換みたいな感じでちょっとだけ不利になってしまったが野辺地と七戸城のラインを強化(街道整備)することで対応するしかないか。まあ大軍をおこしても山と海に囲まれた囲地である野辺地に侵攻する程度の連中なら苦労しないんだがね。
本命は八甲田山から三本木原野に抜けて五戸を急襲する形だろうがね、石川殿や七戸殿がやられた轍は踏まんからね、冬でも機能する哨戒網を作って迎撃してやる。
とまあ、ここまでやっといても津軽為信や沼田祐光なら読んでその上を行く策を練るんだろうね。相手が先手を取るんだからやってらんないよ全く!
と言っても二人ともまだ大浦本家にいない訳で、直接手が出せない以上、今は搦め手で対応するしかないか。
初手は野辺地に造船所だな経済で強制連結して半植民地化してやろーっと。人手と食糧を吸い上げたる。
関所でも食糧だけ規制して武器となる鉄製品や皮なんかは素通りさせたろ。
よーしついでに陸奥湾内の貿易を密にして、干貨の密貿易もやっちゃうか、大浦領の食糧をギリギリにして置いて飢饉の時は恩を売るとクククうちの領の隣になったことを後悔するのだハッハッハ。
やっぱり俺が悪役なんだろうか?なんかむなしいな。
まあいい、備蓄が無ければ戦争は出来んからね、せいぜい上手くコントロールするとしよう。
万が一に備えて小笠原を七戸城に置いたのだし、籠城して二週間持たせれば必ずうちが勝つからね。
とりあえず八戸領に関しては今やれることはやったかな。
残りの指示をだして、そろそろアレの開発と京に外交にでかけないとな。
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「殿、もうすぐ根城です。」
「うん、ご苦労さん。」
山岳訓練という名の山賊殲滅も上手くいってるようだし、領内を自由に行き来出来ないと経済を回すことなど出来んからね。
このまま定期的に山岳訓練と斎藤衆による食糧の流れを監視させよう。
さて、モリブデンの精製と新しい合金炉鋳物の鋳型か……これを作れば後々までかなり安全に作業を進める事ができるからな、しかし臨界まで炉の温度を上げにゃならんからなー 一発気合を入れて臨まんとね。順調にいけば一ヶ月位でMo合金炉の完成かMo高炉を二つ作れば、次はお待ちかねの武器製造だな、鍛造用のプレスはないからしばらくは鋳物の武器だが細身で従来の武器と渡り合えるのは魅力だよな。
「………うん?如何した泰造ぐったりして?」
「あのジジイ強すぎ、ゲフっ……」
ふむ?泰造を伸せるのは爺だけだが?俺の後ろに控えてるし?
とりあえず道場かな?刀傷とか血がでてる訳じゃないし。
「泰造を伸すとは、ちょっくら見にいくかな。」
「若、とりあえず後へ、泰造はアホウですが腕は確かです。」
自分の孫をアホウと言うのね、まあ泰造は紛れもないアホウだが。
「うむ、安全第一、任せるよ。」
根城 鍛錬道場
ベンチプレス等、明らかに可笑しな器具が置いてあったりする。
近未来志向な道場、オーパーツ認定か?
「ほう、工藤達も伸されたか、何者だろう。」
道場の中にはいると死屍累々と伸された人の山ができていた。
「すみません、やられました。」
「訓練で負けるのは構わんさ、収穫はあったのか?」
「いえ、自分が未熟だというのは分かったのですが。」
「それが分かるなら十分でしょ焦らず鍛錬さ。」
中央では、鈴と綾が二人掛かりで、知らない爺さんと組手?をしていた。(木刀と木製の薙刀だが)
「見事で御座いますな。」
爺が賞賛している、上半身の動きは理解できないほど速いが足元だけを見ていると確かに達人の域だというのが分かる。
「鍛錬用の兜をくれ。」
「若!危険です。」
「大丈夫だ、ほれ手加減をしてくれているだろ、まともな人物だ。」
薙刀を弾き飛ばすとか膂力がおかしい気もするがね、何かの技なのかな。
「勝負あり!そこまで。」
「まだ、負けてない。」
「鈴が薙刀を払われた時点で勝負あったでしょ、続かない以上終わりね。」
「くっ。」
「御老人、私にも一手御指南願えますかな。」
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夏の思い出
私が大学に入った頃、大河ドラマで坂本龍馬をやっていて、それでなのか大学に北辰一刀流のサークルがあった。
モーションキャプチャをつけて、科学的に一刀流の動きを研究するとか武術オタクの教授が有り余る知識で無意味な研究に大金を使うと悪評のサークルだがドラマ人気にあやかってか私が在籍していた当時は百人を超える人気のサークルだった……
夏合宿まではね……
霞ヶ浦で夏合宿とかいって、場所が教授の奥さんの実家の剣道場だとかほとんど詐欺だよね。
俺を含め、剣道経験者はなんとか練習についていけたが、素人が素振りだけを続けろとか言われたらねえ。
そりゃ辞めるでしょ大学生には楽しい事がいっぱいあるんだからね。
剣道経験者なら分かると思うが、試合をするまで長くて二年程ちゃんとした道場なら三年間は素振りだけをひたすらやらされる。
促成栽培ですぐに試合をする道場の方が良いように見えるが、試合をしてみれば圧倒的に素振りだけをしてきた方が強いのだ。
竹刀を振ってもブレなく振れ、足運びが完璧にできるまで一切試合はさせてもらえないけどね。
子供の頃なら週一の三年間は遊び感覚で我慢できるかもしれないが、大学生には……ねえ。
だが、このサークルの四年間で実生活では全く役にたたない、中国武術の奥義の足運びとか、沖縄空手や古武術の縮地、一刀流の奥義を、教授の科学的データ収集のついでに学ぶことができた。
もちろんその後の人生では一度も使う事はなかったがね。




