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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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9 ユーグの記憶 師匠の師匠

「ユーグ、既に術式の理解はしているな」

「はい、師匠」

「ならここで作ってみろ」

「はい」


 サーデル魔法使い総団長のもとで、師匠は薬の作りを基礎から習っている。今は治療薬を作るところのようだ。


 師匠が材料を描いた魔法円の中に入れて詠唱を始めたところで、サーデル様が頭を叩いた。


 私から見ても材料が多すぎるし、雑に採ったようで薬草は傷み始めていた。


 師匠って意外と大雑把だったんだ。


「材料をきちっと計れと言わなかったか? それにこの薬草、引きちぎったのか? 傷みが激しい。もっと丁寧に収穫しなければならん」


 やっぱり叱られたようだ。


 師匠が叱られるなんてことがあるんだとくすりと笑ってしまった。いつもは私が師匠に叱られてばかりだったからなんだか新鮮だ。


「はい」


 何度かやり直して出来上がった治療薬は粗悪品といったところだろう。


 その後も合格が出るまで何度も治療薬を作り直した。上質な治療薬が安定して作れるようになるまでに二つ季節が過ぎていた。



 今は丁寧に薬草を扱っている。きっちりと薬草も計り、細かな発音にも気をつけながら詠唱をしている。


 出会った頃の師匠を思い起こさせる。


 その頃からだろうか。師匠の周りには様々な令嬢が訪れていた。


「ユーグ様、我が家に来ませんか?」

「ユーグ様、オペラは興味がありますか?一緒に行きたくて」

「すまない。私は魔法使いの勉強で手一杯なんだ」


 その度にユーグ師匠は笑顔で丁寧に断っている。確かにユーグ師匠は容姿端麗で魔法使いでありがながら王族であることには変わらない。


 令嬢たちにはとても人気だ。王太子から降りた時、レーシェル嬢に倣うように令嬢たちはユーグ様に目を向けなかった。


 シュティル様ばかりに声を掛けている姿を見かけたが、レーシェル様とシュティル様の結婚を機にユーグ師匠に乗り換えたようだ。


「ユーグの人気は凄いな」


 サーデル様は揶揄ように話をするけれど、ユーグ師匠は眉尻を下げ、口を開いた。


「師匠、すみません」

「なあ、ユーグ。ここでは令嬢たちがやってきて煩いだろう? 少し場所を変えようか」

「場所を変える?」

「ああ。もっと静かなところで魔法使いとして腕を磨くんだ」

「……はい」


 ユーグ師匠はあまり乗り気ではないようだ。


 サーデル様はそういうと、ユーグ師匠の手を取り、詠唱を始める。




 転移した先はどこかの小さな村のようだ。ユーグ師匠も不思議そうに周りを見回している。


「師匠、ここは?」

「ここは魔女の村だ。ここには俺の師匠がいる」

「サーデル師匠の師匠?」


「ああ、そうだ。お前には師匠の世話を頼む」

 サーデル様は言葉少なめに歩きながら説明し、一軒の家の前に立った。

「ばあさま、生きているか?」


 サーデル様がそう言った瞬間、轟音とともに扉が吹き飛び、サーデル様にぶつかってきた。


「誰がばあさまだ!!! サーデル!」


 後ろから付いて歩いていたユーグ師匠も流石に驚いていた。


 まさか扉が吹っ飛んでくるとは思わなかっただろうし、サーデル様の師匠となると相当な高齢だと考えられるからだ。


「ちっ、ばあさまは相変わらず元気だな」


 家から出てきたのは赤い色に黒の差し色が入った髪の女性だった。


 サーデル様よりも若い感じに見える。


 これは変身魔法を使っているのかな。


「お前にばあさまだと言われたくないわ! で、どうしたんだ? 人間が嫌になってここへ戻ってきたのか?」


 サーデル様も元王族だ。もしかして今のユーグ師匠と同じような感じだったのだろうか。


「俺は平気だ。むしろ生き生きしている。ユーグこっちへ来い」


 ユーグ師匠は緊張した様子でサーデル様の一歩前に出てサーデル様の師匠へ挨拶をする。


「サーデル師匠のお師匠様、はじめまして。ユーグといいます」

「ユーグ、か。よろしく。私はエルティーヌだ。エティ師匠と呼んでおくれ」

「ククッ。いつ聞いてもエルティーヌって感じがしないな」

「煩いわっ」


 エティ師匠はサーデル様に火球を投げつけるが、涼しい顔をしてサーデル様は消してみせた。


「エティ師匠、話がある。とにかく部屋に入ろう」

「ああ、そうだね。扉はしっかりと戻しておくんだよ」

「ハイハイ」


 エティ師匠とユーグ師匠は先に部屋に入り、サーデル様は吹き飛ばされた扉に修復魔法をかけて元に戻し、家の中へと入った。


 私にとって師匠だらけで少し面白いのは仕方がないよね。


「エティ師匠、しばらくの間、ユーグを預かってほしい」

「何故だね? お前が育てているんだろう?」

「俺は王宮の魔法使い総団長だから色々と忙しいんだ。それに師匠の方が教えるのが得意だろう?」


 サーデル様は気軽に答えているようだったけれど、エティ師匠はその様子を見て顔色を変えた。


「……水か」

「ああ。こればかりは仕方がない。ばあさん、頼んだ」


 サーデル様の言葉にエティ師匠の顔が曇る。


「仕方がないね。ちゃんと戻るんだよ?」

「もちろんだ」

「ユーグ、お前はここで一人前になるまで修行を積め。いいな?」


「はい。エティ師匠、これからよろしくお願いします」

「ユーグ、よろしく。サーデル、もういくのかい?」


「ああ、そこそこ広がっているらしいからな」

「これを持ってお行き。気を付けて行くんだよ」


 エティ師匠は戸棚の引き出しから青い指輪をサーデル様に渡すとサーデル様はすぐに指につけ、そのまま転移していった。


 二人の会話から察するに外ではとても悪いことが起こっているのだと思う。


 一体何が起こっているんだろう。


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