57 彼の目覚め
「クロエ。よく頑張ってくれた」
光に包まれたままのユーグ王子はベッドから起き上がり、床に倒れているクロエを愛おしむようにそっと抱き上げて彼女にキスを落とす。
そして抱えたまま、ベッドへと寝かせた。
彼は他に目を向けることなく、クロエの手の甲に小さな魔法円を描き、限界まで吸い取った魔力を抜いていく。
「ユーグ、大丈夫か?」
ジルディット陛下が心配そうにゆっくりと歩み寄ってきた。
「ジルディット王よ、儂はしばらく眠りにつく。クロエに害を及ぼそうとする者を排除しろ」
「!?」
彼はそう言うと、指を鳴らし、自分とクロエを包むように結界を張った。そしてゆっくりとベッドに入り眠りについた。
ーー 夢の中 ーー
「クロエ、待たせたな」
「師匠!師匠の馬鹿!ずっと待ってたんだからね!何が五十年なの。五百年も待ったんだから」
私は涙を流しながらユーグ師匠の胸板をトントンと叩いた。師匠はすまないと謝りながら私の頭をポンポンと撫でている。
「師匠、私の役目はちゃんと果たしたよ。師匠の身体を守った。だから安心して」
「ああ、クロエ。よく頑張ったな。あとはゆっくりしていて大丈夫だ」
「師匠、ユーグ王子はどうなるの?」
「さあな?今、記憶を移している最中だ。目覚めた時、儂なのか俺なのか。楽しみだな」
師匠は機嫌が良さそうに笑っている。
「ああ、そうだ。クロエ、そろそろその姿を元に戻すんだ。邪魔が入るからな」
「邪魔? 魔獣? この世界に私の敵なんていないよ?」
「まあ、追々分かる。そろそろ限界だ。また会おう」
「師匠、私、待ってるね」
――〇
私はゆっくりと目を開けて起き上がった。




