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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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55 ユーグ王子の気持ち

「クロエ様、どうして笑っているんだ?」

「いや、ジルディッド殿下も若い頃に王都にいた私を見つけて教えて欲しいって言っていたなって」


「父にもそんな時代があったのか。今は頭が固くて困る。俺はもっと自由に生きたい。兄上が将来王になることも決まっているし、妹も王族に残り、兄を支えると言っていた。俺が魔術師になってもなんの問題ないだろう」


「魔術師でも結婚はできるんじゃない?」


 私がそう言うと、ユーグ王子は口を開いては閉じて何かを言いにくそうにした後、真剣な表情で私を見て言葉にする。


「……それは違う。俺は、俺はだな。クロエ様、貴女の傍にいたい。貴女と同じ時を過ごしたい、そう思っている」


 彼の言葉に私が黙ってしまった。


 嘘偽りのない瞳。


 けれど彼はまた王族として生まれ変わった。


 ……このまま彼の望みを叶えるべきなのだろうか。


 私は少し考えた後、ユーグ王子に言葉を返した。


「ユーグ王子、きっと私への気持ちはその左肩にある封印魔法の影響だと思う」

「封印魔法? 変わった痣だと思っていたんだが。」

「うん」

「俺の肩に何が封印されているんだ?」


「正直なところ分からない。前世の記憶かもしれないし、知識が封印されているのかもしれない」

「なんだ。魔獣が封印されているのかと思ったが、違うんだな」


「魔獣の気配はないから生きているものじゃないよ」

「なら封印を解いても大丈夫だろう。なぜもっと前に封印を解かなかったんだ?」


「それはね、幼い頃に大人の記憶が蘇ると人格に大きな影響が出るからね。成人になるまではそのままにしておくことにしたんだ。


 でも、年々ユーグ王子の魔力が成長と共に増えていくにつれて封印の力も弱くなってきている。もしかしたら少しずつ影響を受けているのかもしれない」

「どんな影響を受けているんだ?」


「さあ? 封印されたものの予測はできるけど、私にはどう影響しているのか分からない。要らないのであればその封印を取り除くこともできるよ」


「成人、ということはあと半年後には封印を解く予定だったのか」

「本人の希望があれば、だったけどね」


 ユーグ王子は何か考え事をしているようだ。私はしばらく黙って見ていたが、考えごとから意識が戻ってこない様子だ。


「ロシュフォードさん、ユーグ王子を部屋に。もしかしたら成人するまでの間に魔力暴走を起こすかもしれないからロシュフォードさんがなるべく傍に付いていてもらえるかな」

「クロエ様、分かりました」


 後ろで控えていたロシュフォードさんにそう話をして彼はユーグ王子を部屋へと連れていった。


 ユーグ王子はきっと半年を待たずに自分で左肩の封印を解こうとするだろう。


 その時にユーグ師匠の生きた二百年分の記憶などが流れてくることを考えれば魔力の暴走や記憶の混濁など様々なことが起こるかもしれない。


 もし、記憶が呼び起されたらユーグ師匠となるのか、それともユーグ王子のままなのだろうか。


 私はジルディット陛下に伝言魔法を飛ばすと、すぐ執務室に来て欲しいと返事が返ってきた。


 王宮の一番奥にある国王陛下の執務室へとやってきた。


 ジルディット殿下は、数年前に陛下が病で隠居したため、国王陛下となった。そこからは公務や執務で忙しくなり、滅多に会うことはなくなっていた。


「ジルディット陛下、来たよ」

「クロエ様、こうして話をするのは久しぶりだな。早速だがユーグが魔力暴走を起こすかもしれないとはどういうことだ?」


 ジルディット陛下は立ち上がり、ローテーブルが置かれているソファへ移動し、私に向かいに座るよう促す。


「ユーグ王子は王族籍を抜け、魔術師になりたいのは知っているよね?」

「ええ。レティシア嬢との婚姻を婚約当初から嫌がり、クロエ様と結婚したいと言い続けている」

「そう。だから私は左肩の封印魔法の影響かもしれないと伝えたんだ」


「伝えたのか。そもそも、あの肩は何が封印されているのだ?」

「……あれは、私の待ち人の記憶なんだ」

「待ち人?」


「彼は私の師匠であり、前世での夫でもある。彼が亡くなる時に転生の秘術を使ったの」

「転生の秘術……。まさかそんな魔法が存在するのか」


「師匠の話では五十年後に生まれ変わるって言ってたのに私は五百年も待ったけどね」

「……五百年。途方もない。それにしてもなぜ今なのだ?」


「ユーグ王子には封印のことは知らせず、彼を見守ることこそが私の願いでもある。でも、ユーグ王子が成長するにつれて魔力量が増えていき、封印の力が弱まっていたの」

「封印の力が弱まっている……」


 ジルディット陛下は眉間に皺を寄せ、今後起こりうる出来事に考えを巡らせているようだ。


「彼は無意識に封印の影響を受け、私を慕っている。私の予想では何もしなくても来年には封印が解ける。彼も成長し、人格もしっかりと持っていると判断して、ユーグ王子に『私を慕う気持ちは封印の影響を受けているからだ』と話をしたんだ」


「ユーグに話をしたのだな。それで今、ユーグは?」

「自室に戻っている」


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