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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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48 魔女がいなくなった理由

 私たちは牢屋まで歩きながら雑談をする。


「クロエ様は長い時間を生きてきたと言っていましたが、大変ではなかったですか?」

「大変? 貴族が攻めて来たり、国が変わったり、魔女の村がなくなったりしたことは大変だったね。でも、それも運命だよ」


「魔女の村がなくなる時に守ろうとはしなかったのか?」


 ジルディット殿下がなぜだという表情で疑問を口にした。


「……魔女の中にはね、占いを得意とする人や薬草を扱って薬を作る人、呪術に長けた人もいたんだ。


 その人たちをまとめ上げるほどの実力者が村長になるんだけど、その魔女がね、私に知らせを寄越したんだ。家から出るなってね。


 魔女の村がなくなることを予期していたんだ。私は村長の言いつけを守り、魔女の村には行かなかった」


 フィンさんも不思議そうな顔をしている。


「でも、事前に把握していたならなんとか手を打てたんじゃないでしょうか?」

「打てる手は打っていた。それでも、魔女の村はなくなった。村長と一部の魔女の犠牲が必要だった。


 逃げ出した魔女の大半も大罪の水の影響を受け、他の平民と変わらなくなった。村は燃やされ、資料は全て燃やされた。村長からしたら私は後世に情報をもたらす唯一の存在だったんだよ。だから私には家から出るなって言われたの」


 二人とも理解したようで深刻そうに頷いた。




「さっ、到着したね。誰に飲ませればいいのかな?」


 牢屋の前にたどり着き、階段を上がっていく。どうやらロシュフォードという人は最上階の貴族牢に入れられているらしい。


 彼が貴族ということと、まだ罪が確定したわけではないらしいのでここに入れられているのだとか。


「ロシュフォード、元気そうか?」


 ジルディット殿下は低い声でそう話しながら牢へ入った。


「ジルディット殿下、どうされましたか?」


 ロシュフォードという男は生成りのシャツに麻のズボンという姿でベッドに座っていた。

 均整の取れた体格、きっと彼は武官だったのだろう。


 ジルディット殿下の盾になるものを陥れる者はきっと殿下の命を狙う者なのかもしれない。


「ロシュフォード、この薬を一日一回、毎日飲んでみて欲しいんだ」

「……これは?」


 彼はジルディット殿下が差し出した小瓶を受け取る。


「本来の魔力量に戻るための治療薬だそうだ」

「? 本来の?」

「ああ、そうだ。三百年前に魔法使いがいなくなった話は知っているだろう?」

「もちろんです」


「我々はまだその影響を受けているようなんだ。この薬をひと月服用すれば本来の魔法が使えるようになるかもしれない。ロシュフォード、お前は魔力持ちだったから飲んで効果が出るかどうか調べたい」

「なるほど。わかりました」


「ロシュフォードさん、ちょっと手を貸して」


 私は彼の前に立ち、手を取り魔力を流して現在の状態を確認してみる。


 うん、やっぱり半分くらいは詰まっている感じがするかな。これがひと月の間にどれくらい効果が出るか気になる。


「この薬を一日一瓶飲んでちょうだい。三日に一度体調を見に来るよ。とりあえず今、飲んでちょうだい」

「わかりました」


 彼は迷うことなく薬を一気に飲み干した。


「味はどうだ?」

「……草の香りと苦みが少しありますが、飲めなくはないです」

「でしょう? 私特製の治療薬だもん!」


 しばらく様子を見ていたけれど、特に変わった様子はないようだ。


「じゃあ、そろそろ戻るかな。ロシュフォードさんまた来るね」

「はい」


 そうして私たちはフィンさんの執務室の部屋に戻った。


「クロエ様、隣にクロエ様の部屋を用意したのでどうぞお使いください」

「ん? わかったー」


 私はジルディット殿下たちと隣の部屋に入ってみる。


 入り口には「王宮魔術師顧問執務室」と大きく書かれていた。


 私、顧問になったんだね。


 部屋に入ってみると、隣のフィンさんと同じような作りで立派な机と椅子が設置されていて来客用のソファとローテーブルが置かれている。書棚にはこの国の歴史と法律に関する本だけが置かれていた。


「さて、治療薬も渡したし、ジルディット殿下の課題だったね」


 私がそう言うと、ジルディット殿下はピクリと反応し嬉しそうだ。


 鞄から小さな小箱を出して殿下に渡す。


「クロエ様、これは?」

「これは魔力操作の練習だよ。この間よりも難しい。時間がある時にやってみて」


 ジルディット殿下は不思議そうに箱を持ち、魔力を流している。魔力を流した部分だけほわりと光った後、光の線が伸びている。魔力でその線を追っていくんだけど、それが中々に難しい。


「これは面白い」

「そうでしょう? 箱が開いたら教えてちょうだい」

「わかった」


 こうして私はみんなに課題を出し終わり、やることがなくなったので家に戻った。


 久々にたくさん歩いて疲れた。

 早く寝よう。


 ベッドに入り、今日のことを思い出す。未来視は難しい魔法の一つとされている。一つ違えば全く違う未来になるのだ。


 けれどあの時、どの未来も魔女の村が無くなることが確定していたのだろう。


 だから村長は一人でも生かすために若い魔女や魔法使いたちを村から出した。それでも半数は殺された。生き残った人たちは、街や村に入り他の人たちと変わらない生活を送り溶け込んでいった。


 村長の言いつけは間違っていなかったと今なら思える。


 私の存在意義ってなんだろうなんて悩んだこともあったけど、今はもう悩まない。


 悩んでたって仕方がない。


 それに未来を見つけた。


 私の未来はもうすぐ来る。


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