47 伝説のオーガだっ!
「ク、クロエ様。水の中に赤い魔法円と炎が見えています」
「うん。この炎が毒を焼いて中和しているんだ。さて、他の井戸もこの調子でやるよ」
「これはこのままで大丈夫なのですか?」
「うん。このまま三か月間燃え続けると思う。大罪の水の大元が無くなれば火も消える」
「ということは毎日魔法円の様子を確認すればよいのですね」
「うん。その辺りはフィルさん、お願いね」
「畏まりました」
こうして街の中にある全ての井戸に中和剤を入れてみた。最後に入れた井戸は炎の大きさが尋常ではなかった。
汚染源はきっとここなのだと思う。
ここは中和剤がすぐに無くなるかもしれない。
因みに毒を使って中和しているけれど、ジッグの毒は人間の体内に入ると、嘔吐と下痢を引き起こすが、死に至ることはない。ジッグの毒が人間に出ればそこは中和されたということだ。ジッグの毒は熱に弱い。
汲んだままの水を口にしなければ嘔吐と下痢も引き起こすことはない。
三か月経てば効果は無くなるけれど、途中で井戸から取り出しても数日のうちに井戸はジッグの毒が無くなるので問題は出ないだろう。
「上手くいってよかった。あとは井戸の様子を見ないとね。毎日毒物の検査もする予定なんだよね?」
「そうですね。クロエ様を疑っているわけではありませんが、体に影響を及ぼすものであってはいけませんから」
「ここの井戸で試してみて問題なければ王宮の井戸も試すよね?」
「であればすぐにでも南側の一つに中和剤を入れても良いかと」
フィルさんがそう提案している。殿下はいまいちわかっていないようだ。
「フィル、南側の井戸は誰が使っているのだ?」
「主に下級のメイドや従者、騎士、罪人たちの食事などに使われております」
「そうか。罪人たちの食事なら問題ないな。この井戸の様子を数日見て問題ないようなら南側も行う。その後全ての井戸に広げていく」
殿下の話ではここの王都の飲み水は井戸水が使われることがほとんどだが、平民でも貧しい人たちが住む場所には井戸がない。
そのためわざわざ遠くまで水を汲みに来るか、川の水を直接使っているのだという。
大罪の水は川には適さないため、中和剤も川に使うことはないだろう。
「今日は中和剤も井戸に入れられたし、魔術師棟へ戻ろっか。課題の出来具合も見てみたいし」
「そうですね」
私たちは一緒に王宮の魔術師棟へと戻っていく。二週間前に出した課題はみんなできていると思いたい。
「みんな、久しぶりー。どう?課題は終わったかな?」
私の声を聞いて魔術師たちは私を見て立ち上がり、礼をした。
「「「クロエ様、おはようございます」」」
フィルさんは代表して答えてくれる。
「クロエ様、先日の課題は全員問解くことができました」
「よかったよ。解けないとどうしようかと思ってた」
私が笑って言ったんだけど、魔術師たちは笑っていない。どうやら相当苦労したのかもしれない。
「で、一番遅い人で何日ほどかかったの?」
「早い者で三日、遅い者で十日ほどかかりました」
「結構かかったね。じゃあ、次の課題も出そうかな」
「次はどのようなものなのでしょうか……」
一週間以上手が重くて大変だったと見える。
私はうーんと少し考えた後、また彼らの手の甲に魔法円を刻む。
フィルさんはまた不思議そうに聞いてきた。
「クロエ様、今回はどのような魔法なのでしょうか?」
「これは魔力を放出する魔法円で、一定の魔力を常に放出させる練習ね!結界や補助魔法を使う時に一定の魔力を長時間使い続けることがあるんだけど、魔力が安定していないとムラがでて使えない魔法になるん……」
私が言い終わらないうちに魔術師たちは手を搔き始めた。
「クロエ様! かゆいですっっ」
「うん。ちゃんと魔力を流せていないと手がかゆくなる魔法だからね」
「オーガだ! 伝説のオーガがここにいるっっ」
「ふふっ。なんとでも言いたまえ」
「クロエ様、この魔法はいつ頃まで続くのでしょうか」
「さあ? 魔力放出が三日間ほど安定すれば消えるんだ。みんなはまだ基礎の基礎ってところにいるからね?この課題が出来たら魔術師として基礎の魔法を使えるようになるから頑張って」
ジルディット殿下はホッと胸を撫でおろしていた。あとで殿下には別の課題を出しておこう。
「さて、ジルディット殿下、フィルさん。治療薬を飲ませる人のところへ案内してくれるかな?あ、その前に井戸だったね」
「わかりました」
私たちは使用人たちが使用する井戸の前まで歩き、先ほどと同じように中和剤を投げ入れて魔法を唱えた。
「これでよし。あとはロシュフォードって人のところへ行けばいいんだっけ?」
「はい」




