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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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41 奴隷契約

 ―コンコンコンコン。


「魔女クロエ様をお連れしました」

「入れ」


 執務室に入ると、そこには金髪に白髪の混じったこの国の王が書類と向き合っていた。

 陛下は執務をする手を休め、私を見ている。


「君が魔女様なのか?」

「うん、残念ながらね! こんなに子供の姿だと思わなかった?」

「いえ、本当に存在するのかと」


「まあ、そうだよね。信じられないと思う」


 魔女だという印は無いから仕方がない。


 ああ、私には一つ証明できるものがあった。


 私は思い出したように陛下の護衛をしている騎士に剣を貸してもらった。


「私が魔女だと見せる方法は一つある。私は不老不死の状態だからね。本当は痛いからいやなんだけど、信じてもらうにはこれが一番かな」


 そう言うと、私はその場で腕を切り落とした。


「!?」


 その場に居た人たちが私の行動に驚いている。


「ク、クロエ様、大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫だよ。痛いけどね」


 私はそう言った後、治癒魔法を使って腕を元に戻して見せた。清浄魔法も使い、血が垂れた床も綺麗に掃除する。


「……本物の魔女様なのか」


 陛下が驚いた表情のままそう口にした。


「そう言ったでしょう? クロエ様はこの国に必要な方なのですよ、父上」

「ふむ、では魔法のことについてはジルディット主導で続けよ。ああ、その前に。魔女様に契約をしてもらわねばならん」


 陛下は傍にいる執事に視線を送ると、執事は書棚の奥から一枚の紙を差し出した。


 私は契約書を受け取り、内容を確認する。


 ……これは奴隷契約じゃないか!


 しかも魔法契約だ。こんなのに契約できるわけがない。


 難しい言葉で書いているため、子供ならわからないと踏んだのかもしれない。


 あったまにきた!


 私は魔法契約書に手を翳し、内容を変更してからサインをし、陛下の机へ叩きつけるように置いた。


「サインしといたよ。子供姿だからと侮ったね。相手を考えた方がいい。私は長い時を生きてきた魔女だ。暇つぶしでジルディット殿下に協力するだけ。王家に盾突く気はないけれど、仕事をするならきっちりと報酬をもらうからね」


 まさか書類を書き換えることができるなんて知らなかったのか、目を見開いて驚いた表情のまま、書類に目を通している。


「……申し訳ありませんでした。この、契約で構いません。クロエ様、協力していただきありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」


 陛下は平伏し、そう言葉にした。


 陛下の行動に周囲は驚いていたが、陛下の決めたことだ。ジルディット殿下を始め、他の人たちも礼を執る。


「いいよ。許してあげる。でも、次はないからね」

「わかりました」


 私は上機嫌で髪を指に巻き付けた。


 契約書の文言は一般的な契約なんだけど、『いついかなる時にも王の呼び出しに応じ、全ての命令に命をかけても従う』なんて文言がこっそりと下に書かれていた。


 だから契約書を『全ては魔女クロエの気分次第で構わない。国は魔女クロエを魔術師最高顧問として迎える。給料もこの国で一番高い金額を払う。そしてこの書類を手にした国王は契約をする場合、魔女クロエに平身低頭で謝罪する』って書き換えた。


 まあ、また国の魔法使いに所属することになるとは思っていなかったけれど、たまにはいいかな。


 そこからの話はトントン拍子に進んでいった。


 陛下の話では私が魔術師の最高顧問になって魔術師たちに知識を与えてほしいということだった。


 もちろん私は快諾した。


 暇だったこともあるし、もし、師匠が生まれ変わった時に魔法が廃れていたなんて知ったら私が怒られそうだからね! やるだけやってできなかったらごめんねってことで!




 私は話をした後、一旦、自分の家に戻った。やっぱり我が家が一番落ち着く。


 それにしてもアーズワースって魔法使いは本当に魔法のない世界を目指していたのだろう。もしかして黒色を持つ人だったのかな。


 世界で魔法を使った戦争をすると、被害は甚大だ。私はその頃も街にはたまに出ていたけれど、とても惨いものだった。


 でもそれは愚かな人たちが力の使い方を誤ったからだ。師匠が生きていた時代は魔獣も多かったけど、もっと魔法や魔法薬は人々のために使われていた。


 私も師匠がいた時代のように人々のためになる魔法が増えていけばいいなって思う。そのためにも協力したい。


 私は久々に増築した家の奥の部屋から書類を引っ張り出してきた。


 人に教えるなんて久しぶりだからどこから教えていいか確認しておかないとね。


 そう思いながら書類を整理していく。


 翌日、さっそくジルディット殿下の執務室へと書類を持って転移した。


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