36 祝福
ホクホク笑顔になりながら家に戻って木の箱を手にする。
きっと国中から沢山の贈り物が贈られると思う。
二人が長く使うもの、幸せを願うもの。
そんな中には呪いを掛けてくる輩も出てくる。
よし、私は浄化の魔法を送ろう。
浄化魔法は一般的なんだけど、とても古い記憶の中にあるオリジナルと言ってもいいものだ。きっとこの魔法円はみんな知らないよね。
今の魔法円に比べてとても簡単な造りをしているため、呪いから毒から汚れまで全て浄化できてしまう優れもの。
強力で周囲のもの全て浄化してしまう優れものなの。優しい光をつけて効果が見てわかるようにしようかな。
魔法で木箱の底を彫り、完成させていく。
何度か開け閉めして確認したけれど、これは素敵だと思う。
私は贈り物を完成させ、二人が開けることを想像しながら結婚式の日を楽しみ過ごした。
えっと、ここの場所は……。
私はまた魔法円とにらめっこしていると、ジェイド副官から緊急の手紙が送られてきた。
「クロエ様、今日はお二人の結婚式ですよ!早くお越しください」
え? ああ! 忘れてた!
私は慌てて正装して王宮魔法使い棟へと転移する。一応、これでも元魔法使い総団長なので正装は持っている。
「ジェイド副官、久しぶり!」
「クロエ様、遅い。待っていましたよ! 式が始まります。急いで」
私はジェイド副官に手を引かれ、急いで会場へと向かった。
会場はすでに沢山の貴族でにぎやかな状態だった。
「えっと、私は一番後ろの席だよね?」
「何を言っているんですか? クロエ様は通路左側の前から二番目の席ですよ。新婦の親族席です。リディンナ様は高齢のため欠席です」
「そうなんだ。分かった」
私は促されるまま席に着いた。
前にいるのは侯爵とアリアさんの義兄弟だ。彼らからアリアさんを祝福どころか侮蔑する言葉が聞こえてきた。
アリアさんはずっと家でこの状況だったのかな。親族はバツが悪いのか誰一人口を開こうとしていないようだ。
私が座って間もなく式が始まった。
間に合ってよかったよ。
新郎新婦が入場し、神官から神の祝福を受けて誓いのキスをしている。その瞬間に歓声が起こった。
アリアさんは顔を赤らめながらもラルド総団長と手を取りとても嬉しそうだ。
私はその姿をみてどこか肩の荷がおりたような、嬉しい感覚になった。
でもその想いの中に素敵だな、いいなって思った気持ちにも気づいたの。
忌み子の私には生涯経験しないもの。
理解はしている。
でも、それでも少し、悲しいと思う自分がここにいる。もしかして無意識に自分は逃げていただけかもしれない。
自分の気持ちをそっと隠すように小さく息を吐いてラルド総団長とアリアさんを祝福する。
式が終わるのを見届けてから魔法使い棟に戻り、ジェイド副官にお茶を淹れてもらう。
「素敵だったね。これからあの二人はこの国を長く支えてくれるだろうね」
「ええ、本当に。王太子にはまだ子供がいないからもしかしたらお二人の子供が養子になる可能性もありますしね」
「そっかぁ。ジェイド副官も彼女とのこれからを占ってあげようか?」
ジェイド副官は自分に話が行くと思っていなかったようでブッと噴き出し、目が泳ぎ始める。
なんだかおもしろい。
私はクスクスと笑い、鞄に入れていた道具をローテーブルの上に出してみる。
ここに来る時は魔法使いとして来るので魔女の活動はしていないんだよね。私自身ユーグ師匠の研究を引き継いではいるけれど、エティ師匠の知識もあるので魔女の仕事もできるの。
「えっ、今、ここで、ですか?」
「いいよー。元魔法使い総団長の私が無料で占ってあげるよ?」
「ううっ。なんて貴重な体験。いや、でも彼女とは……」
「じゃぁ、彼女かどうかは置いておいて、将来ジェイド副官がどうなるか見てみようか?ただ、これはあくまで一つの未来でしかないし、これを知ったことで大きく変わる可能性があるけどね」
「本当ですか!? 聞いてみたいです」
私は水晶を片手に取り、もう片方の手でジェイド副官の魔力を感じ取り、水晶に流し込んで詠唱を始める。
―星々の謎に導かれ、その未来の輝きをここに映し、彼の未来への道を照らせ―
水晶はふわりと光り、これから起こる出来事の一部を映し出しはじめた。
「うん、ジェイド副官。見えたよ。近々三人の女性が結婚しろって迫ってくるね。そのうちの一人は妊娠している。でもね、その人と結婚しちゃだめ。
子供は別の人の子だからね。そうだねー。多分、見た感じだと一番退屈だって思ってる女性が将来の伴侶として上手くいきそう、かな。
その人と結婚出来れば安泰。それ以外だと魔法使い棟に入り浸ることになりそう」
ジェイド副官は思う部分があるのか遠い目をしている。
未来は一つじゃない。
本人が変わろうと思えばいくらでも変えることができる。
選択一つで違う未来になる。
まぁ、彼を見た感じではここ数年の間に女性問題で痛い目にあうことは間違いないね。
私は彼を横目にクスクスと笑いながらお茶を飲んだ。
「さて、お茶も飲んだことだし、私は帰ろうかな」
「もう帰るのですか? ラルド総団長とアリア様に会っていってはいかがですか?」
「んーいいよ。二人の幸せな姿を見られたし。それに今は魔法円を読み解いている途中なんだよね。ちゃんと会場の入り口で二人が喜ぶ贈り物もしたし、いいかなー。ジェイド副官から二人によろしく言っといて」
「畏まりました」
「じゃあね!」
私はそう言って家に戻った。
アリアさんの花嫁姿は綺麗だったな。
私はさっきのことを思い出しながら魔法円をまた浮き上がらせる。心痛む現実から目を背けるように、私はまた解読を始めた。
何か月読み込んだだろう。
一年は過ぎたかな? もう少し掛かったような気もする。
私はそう考えながら解読できた喜びに悦に入っていた。




