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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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35 祝いの品

「どうぞ、これを使って下さい。王宮魔法使いは騎士団に同行し、よく怪我をすると聞きました。まだ、リディンナ師匠ほど上手に作れないんですけど……」


 アリアさんが言い終わるかどうかという時にジェイド副官が手を伸ばした。


「ありがとうございます!! いやー本当に助かります!」

「こらっ、ジェイド。そんなにがっつくもんじゃない」

「だって、魔女の薬は私たち魔法使いにとっても貴重なものですよ? ここまで優れた回復薬を作れるのは魔女の村に住む魔女だけですから」


「そうか。アリア嬢とラルド総団長が婚姻すればこの問題は解決されますね」

「おいおい、そんな急な話。私は構わないが、アリア嬢だって困るだろう」

「わ、私ですか。私も殿下のお役に立てるのなら……」


 アリアさんは顔を真っ赤にしながらも答えている。見た感じ二人はやはり上手くいきそうな気がする。


「よかったね。さて、私は用も済んだし家に戻るね」

「「「えっ!?」」」


「ん? だってラルド総団長のお嫁さんも見つけたし、もう大丈夫でしょう? アリアさんなら転移魔法を使えるから嫌なら家に帰るといいよ。侯爵令嬢なんだからラルド総団長が全部手続きしてくれるし、ちゃんと決まるまでここの魔法使いとして生活しても問題ないと思うよ」

「そ、それはそうですが……」


 ジェイド副官が困った顔をしながらラルド総団長の言葉に頷いている。


「なら問題ないんじゃないかな? 大丈夫リディンナさんには私から連絡しておくから。結婚したら連絡ちょうだいね! じゃあね~」


 私はさっと立ち上がって引き留められる前に家に転移する。


 面倒ごとには極力関わらないことが一番なのだよ。ここからずるずると残るようなことを言われそうな気がしたんだよね。




 さて、私は気を取り直して研究をしていかないと。師匠が生まれ変わるまでの間にいろいろとやらないといけないことは沢山ある。


 まず、エティ師匠の見た目、だよね。私だって一応、女だもん。この若い見た目のままで過ごしたい。


 それとユーグ師匠は年齢を魔法で引き上げていた。時を止める魔法? いや、そんなことをすれば世界の時間が止まってしまうし、魔力は全然足りない。


 エティ師匠はどうやって見た目の年齢を止めたんだろう。


 まずはそこからだ。


 私は薄れているエティ師匠の知識と残してくれている紙を頼りにエティ師匠のやろうとしたことを追っていく。


 何十もの薬草を一つの液体にし、六つの魔法円を構築していく。魔法使いたちに見せたユーグ師匠の魔法円とは違い、一つ一つが難易度の高い魔法円だ。


 同時に起動させるのは私でも困難を極める。


 きっとエティ師匠は魔法円を構築する時に失敗して見た目が若いままになったのだと思う。大雑把にみた感じは若返りの魔法円だからエティ師匠はどこかで間違い、若返ったままの状態となったのだろう。


 どこを間違えたの?


 今の私に若返りはまだ必要ない。全ての魔法円をまずは読み解いていかないといけない。これは途方もない作業だ。


 でもやるしかないよね。


 私は一つずつ魔法円を目の前に浮かび上がらせて一文字一文字読み解いてメモを残していく。


 読み解く面白さについつい寝食を忘れてしまう。きっとエティ師匠の師匠から魔法円を引き継いだものなのだと思う。代々こうして引き継がれてきたんだろうなぁ。


 眠さに負けて気づいたら寝ていたり、パンを齧りながら魔法円をにらめっこしたりしているうちに日は経っていたらしい。


 ―チリンチリン


 音と共に一枚の手紙が送られてきた。どうやらラルド総団長とアリアさんの結婚式の日程が決まったらしい。


 二人からは泣き言のような感謝の手紙が同封されていた。


 うん、仲が良さそうでなによりだね。


 貴族の結婚式はとても大がかりなものだと思うし、平民でしかも忌み子の私は参加できないのでお祝いの品だけ持っていくことにしようかな。何がいいだろう。


 新しい魔法なんてどうかな?

 んーでも喜ぶのは魔法使い棟の魔法使いだけか。


 そうだ、いいことを思いついた。



 私は久々にローブを纏って王都の街に出た。


 いつぶりだっけ。魔法使い総団長の時は何度か街に出たことはあったけど、それ以来きてなかった気がする。


 確か、ここの角に商会があったよね。

 私は歩いて角地にある商会を訪ねた。


「いらっしゃいませ。おや、クロエ元総団長様。今日はどういった物をお求めですか?」

「ジルさん、今度ラルド殿下が結婚するって聞いてお祝いの品を送ろうと何かいいものないかなーって探しているんだ」

「いい物がありますよ」


 ジルさんはこの店の会長でいつもは店の奥にいるのだけど、今日はたまたま店内にいたようだ。笑顔でお勧めの商品を出してくる。


 魔法使いや魔女に最適な品物がテーブルに所狭しと置かれていて見ているだけで興奮してくる。そうした中、一つの木箱を見つけた。


 白く塗られた中に金字の細かい装飾がなされていてとても華やかに見える。


「ジルさん、この木箱は?」

「これはですね、箱を開けてもらって、ここです。この底に魔法円を彫ってもらうんです。そうすれば箱を開けるたびに魔力で音を鳴らしたり、雪を出したりと様々なものが出るような仕組みなんですよ」


「いいね!これ、一つ下さい。あと、これとこれを。私が普段使いするから」

「畏まりました」


 私は小袋に入った金貨を出して支払いをする。


 師匠から譲り受けたお金もあるけど、私も総団長の時の給料は沢山もってるからね!


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