34 顔合わせ
「ラルド総団長、ジェイド副官、いるかなー?」
声を掛けながら扉を開けると、そこには魔力が漏れ出しているラルド総団長とジェイド副官が何かを話しているところだったようだ。
「クロエ殿、どうか助けて下さいっ!」
ラルド総団長が今にも泣きそうな顔で言葉をかけて立ち上がった。
「どうしたの?」
「魔力が溢れすぎて自分では止められず、ジェイド副官に徐々に抜いてもらっている状態なんです。ところでき、君は……」
ラルド総団長はそう言いながら私の顔をみた後、アリアさんに気づいたようだ。
彼女もラルド総団長と目が合い、互いに時が止まったようにじっと見つめ合っている。
良かった。
薬は上手く作用しているみたい。
私はつい、笑顔が零れてしまい、ジェイド副官はそれを見逃さなかったようだ。
動けない二人を不信がって私の袖を引っ張り、耳元でささやいてきた。
「二人がああなったのはクロエ様のせいですか?」
「私のせいじゃないよ。あれは魔女の村に済むリディンナさんの薬のせい。お互いの魅力を気づかせるような薬を飲ませたの。ただ気づかせるだけだから好意となるかは別だけど、あの二人を見てると相性が良さそうだね。魔力の相性もよさそうだなって思ってたしよかったよ」
「魔女って恐ろしい」
ジェイド副官はぼそりと呟いた。
そんなに恐ろしいかな?
私が不思議そうにしていると、彼は眉間に皺を寄せながらまた聞いてくる。
「で、一体、彼女はどこの誰なのですか? どこの馬の骨とも分からないような女を王族に近づけていいんですか? 俺、知らないですよ?」
「さて、二人ともそろそろ見つめ合うのはお終いにしていいかな? 話をするけど」
私の言葉に二人はようやく我に返ったようでお互い動きがあわただしいことになっている。
「アリアさん、ここに座って」
「はい」
「ラルド総団長は向かいの席で、その隣はジェイド副官ね」
「畏まりました」
私の言葉にみんなはローテーブルをはさんで座り、こちらに視線を向けている。
「まず、彼女の名前はアリア・ザロア侯爵令嬢なの。わけがあって魔女の村で保護してたんだ。彼女は魔力も豊富だし、れっきとした侯爵令嬢だよ。ラルド総団長の相手にぴったりじゃない?」
私が笑顔でそう言うと、ジェイド副官が眉間の皺を延ばすようにした後、腕を組み考えながら口を開いた。
「アリア嬢? もしかして行方不明となっている令嬢ですか? 魔女の村にいたとは。今はザロア侯爵といえば夫人が問題を起こして回っていて大変なようですよ。跡取りも問題があるし、そのうち降格するんじゃないかって噂ですけどね。」
アリア嬢が侯爵家に居た頃はまだ大っぴらに後妻は動いていなかったのだろう。
「ラルド総団長、彼女はどう? 将来の伴侶として申し分ないと思うよ」
「そ、うですね。君がザロア侯爵令嬢だったのか」
「そうだ! 総団長、魔力が多くて大変だったんだよね。これを飲んで?」
私はポケットから小瓶を差し出した。
また怪しい物が出てきたぞと言わんばかりの顔をしているジェイド副官は小瓶を受け取り、匂いを嗅いで魔力を通してみているが反応はないようだ。
「ああ、これは魔法の解除薬だよ。みんなもたまに作るっているよね?」
「それを飲めば膨れ上がった魔力を抑えることができるんですね」
「うん。魔法薬で無理やり私の魔力をまとわせてるだけだから魔力を使い切るか解除薬を飲めば治るよ」
「なるほど。クロエ殿から譲り受けた魔力は桁違いに多いからジェイド副官が抜いても間に合わなかったのか。でも、せっかくの魔力を消すのは惜しい」
「大丈夫、薬はすぐに作れるから。これはね、魔獣討伐でどうしてもという時だけに飲んで使うものなの。疲労が凄いからね」
「ということは、私も疲労で倒れることになるということですか?」
「大丈夫。ラルド総団長は元々魔力が多いから多少纏っても疲労はそこまでじゃないと思うよ」
「だといいのですが……」
そう言って解除薬を飲むと纏っていた魔力がふわりと消えていくのが見える。
うん、大丈夫そうだね。
「クッ。やっぱり疲労が襲ってきた」
「疲労なら……」
ローテーブルに手を付いたラルド総団長にアリアさんが慌てて鞄の中を探り出した。
「あ、あの。私が作った回復薬で良ければどうぞ」
アリアさんは肩掛けのカバンから小瓶を取り出してテーブルの上に置いた。
リディンナさんから直接教わって作った回復薬は絶対いい物に決まってる。
ジェイド副官が毒見をすると、目を見開いた。
「ラルド総団長、これはすごい! 飛び切り良い回復薬です」
「……アリア嬢、さっそくいただくことにする。ありがとう」
ラルド総団長は回復薬を一気に飲み、立ちどころに体力は回復した。
「これは凄い。アリア嬢、ありがとう」
「いえ、私はこれくらいしかできないから……」
アリアさんは鞄に入れていた回復薬をそっと全部出した。




