33 アリアさんを迎えに
ラルド副官に小瓶を渡しても疑って飲むふりをするだけだと思う。
王宮の食事に混ぜることは難しい。となればやはり私の魔力で誤魔化して飲ませるしかないだろう。
何かいい魔法はあったかな……と、記憶の糸を必死に手繰り寄せた。
よし、これでいいか。
ラルド総団長が知らない魔法薬よね。私は窯に向かい、棚から薬草を取り出す。魔力回復薬を基に魔法薬を作ることにした。
詠唱を行いながら自身の魔力を注ぎ、リディンナさんからもらった薬を少しずつ混ぜていく。
―我が言葉を闇に変え、其の魔力を一時的に高め、欲する魂に与えよ、魔力の渦に巻き込み、力を託す
「ふぅ、できた」
私は完成した液体を瓶に注ぎ入れ、またラルド総団長の元へと転移する。
「ラルド総団長、ちょっと作ってみたからこれを飲んでみて?」
「は?」
私は怪しげな瓶を困惑するラルド総団長に手渡した。気ままに転移したせいかもう夜も遅くなっていた。
「……これは、見るからに怪しそうな液体ですね。これを飲めと?」
「うん。私の魔力を飲んでラルド総団長の魔力にする薬なんだ。さっき作ってみた。少しの間魔力の質が上がる代物だよ。怪しいと思うなら他の人に飲ませて確かめてもらってもいいよ」
ラルド総団長は匂いを嗅いだり、魔力を通したり、数滴試験管の中に入れて実験して確認している。もちろん毒、魅了の類は一切含まれていなかった。
「本当に大丈夫なのですか?」
「うん。私が飲んでもいいけど、自分自身の魔力だからね……」
「確かにそうですね。毒ではなさそうだし……」
不安そうにしながらもラルド総団長は小瓶を口にした。よし、ちゃんとリディンナさんの薬は飲めた。
「どう?」
「ほんのり甘い草の味ですね」
そんな感想を述べた後、ラルド総団長は驚き目を見開いて体中を確認し始めた。
「魔力が! これは凄い代物ですね。魔力が湧き上がってくる!」
「ふふっ。そうでしょう、そうでしょう! さて、ラルド総団長に飲ませたし、私は帰るね。また明日くるから」
「え!? 帰るんですか?」
「うん。もう夜遅いし。じゃ!」
「えええぇ!?」
魔力が格段に上がったラルド総団長を横目に私は自分の家に転移して眠りについた。
魔力の多い人にしか見えないけど、人には魔力の質がある。相性があると言っていい。
アリアさんもラルド総団長も魔力は豊富だし、柔らかい質を持っていて二人は相性が良さそうなんだよね。それにアリアさんは美人だし!
私はあの二人が上手くいくことを考えながらベッドで眠りについた。
翌日、朝の心地よい小鳥たちの囀りで目を覚ました。えっと、たしか、今日はアリアさんを迎えに行こうかと思ってたんだった!
おなかが減ったし、まずパンどこだっけ…。
のそのそと動き出して台所を漁り、パンを見つけた私はフライパンにベーコンと卵を落として焼いていく。
朝食を食べてようやく満足した私は着替えて魔女の村に転移した。
「リディンナさん、おはようございます」
「クロエ、おはよう。しっかりと薬は飲ませたのかぇ?」
「もちろんですよ! ではアリアさんを連れていきますね」
「くれぐれも無理はさせないようにねぇ。あの子、まだ心の傷は癒えてないからねぇ」
「分かりました。では」
私はアリアさんの家に向かい、扉をノックした。
「アリアさーん、いますか?」
「クロエ様。お久しぶりです」
扉を開けて出てきたアリアさんは柔らかい笑顔で出迎えてくれた。やはり魔女の村で安定して生活ができたことで幾分心は落ち着いてきたのだと思う。
数年ぶりに会ったけれど、彼女は変わらず美人なままだ。
もしかしてリディンナさんの薬草作りを手伝っているせいもあるのかな?
「リディンナさんから話は聞いたかな?」
「えっと、一応。これから王宮魔法使い棟に一緒に行けばいいんですよね?」
彼女は暗めの魔女服を着てローブを羽織っている。いかにも魔女ですと言わんばかりの服装だ。
「うん。じゃあ、行こうか」
私はアリアさんの手を取り、魔法使い棟へ転移する。
魔法使い棟の入り口から入っていくと、魔法使いたちは私に気づいて声を掛けてきた。
「クロエ様、お久しぶりです」
「久しぶり。みんな元気にしてたかな」
「もちろんです。クロエ様のおかげでこんなにも魔力の扱いが上達しました」
「よかったよかった」
「クロエ様、後ろの美しい女性は誰かお聞きしても?」
「うん。この人がラルド総団長のお嫁さん候補」
「「「えっ!!?」」」
「可愛いでしょう? 今から顔合わせだから静かにしていてね」
「わ、分かりましたっ」
スタスタと私は魔法使い総団長室へと歩いていく。その後ろを挙動不審な動きをしながらアリアさんが付いてくる。
「あ、あの。クロエ様?」
「どうしたの?」
「先ほど仰っていたラルド総団長のお嫁さん候補というのは……」
「ああ、リディンナさんは話をしてなかったんだ。アリアさんは侯爵令嬢でしょう? ちょうどいいと思ったんだ。ラルド総団長と会ったことある?」
「私が聞いていたのは、王宮に薬を下ろしに行ってほしいと言われていただけで……。えっと、ラルド殿下は一度だけお茶会でお会いしたくらいです。
でも私は一番端の席でしたし、殿下は私の存在自体知らないと思います。侯爵家から追い出された私がラルド殿下にお会いすること自体烏滸がましいです」
「まぁまぁ、そう言わずに。会ってみて」
話しながら歩いていたが、総団長室前で立ち止まった。




