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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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22 クロエ魔法使い総団長になる

「ま、参りました。降参です」


 オルク様は足を取られ動けないと判断し、魔獣人の攻撃を避けなければならない状況を理解し、降参を願い出た。


 私は即座にいくつもの魔法円を解除すると、全ての攻撃も魔獣人も消えた。


 ただし、毒だけは体内に残っているため、解毒魔法が必要だ。


 その辺りはオルク様も理解しているようで拘束から解放されてホッとした後、解毒魔法を唱えている。


「ふむ。あれは私が初めて魔法使い総団長になった時にユーグ様が対人戦の実演時に使った魔法だな。またあの魔法を目にすることが出来たのは感慨深いものがある」


 モンシェール様はそう言いながら私の前に立った。


「オルクよ、彼女は総団長に相応しいな?」

「……はい。モンシェール様の言葉通りです。圧倒的な実力差。クロエ殿こそ魔法使い総団長に相応しい実力を持っています」


 オルク様は礼を執りモンシェール様の意に従うようだ。


「ふむ。他の者も異論はないな?」


 モンシェール様の言葉を聞いた他の魔法使いたちもオルク様同様に礼を執った。


「魔女クロエ、モンシェール様の後を継ぎ、魔法使い総団長として魔法使いの質の向上を目指していくね。これからよろしく」


 私は彼らに向けて挨拶をした後、モンシェール様と共に部屋へと戻っていった。


 魔法使い総団長室に入ると、ラルド様が慌ただしく書類を片づけはじめた。


「さて、モンシェール様。私は何をすればいいのかな?」


 私はソファに勢いよく座り、魔法でお茶を淹れて飲み始める。


 モンシェール様にもお茶を渡すと喜んで口にする。が、口にした途端に渋い顔になった。


「クロエ殿……これ、は、お茶ですかな?」

「我が家で取れた薬草茶なの。美味しいでしょう? 飲めば魔力が回復できるし一石二鳥なんだよね」

「美味しいかは別として、確かに大幅に魔力回復していますな」


 モンシェール様は手のひらを見つめ魔力を確認しているようだ。


「クロエ様、どうぞこちらへ」


 そうしているうちにラルド様は机を綺麗に片づけ終わったようだ。


 私は薬草茶を持ったまま立派な椅子に座り、総団長の気分を味わう。


「どれどれ、ラルド君! 今日から我が奴隷となり、しっかりと奉仕したまえ」


 私がそう口にすると、ラルドさんは息を吹き出し笑った。


「クロエ総団長、かしこまりました」

「で、私はこれからどうすればいいの?」

「そうですな。大方の書類はラルドがするだろうし、総団長は特にすることがないし、魔法の研究を行っていただきたいです」


 ラルドさんの代わりにモンシェール様が答えた。


「わかった。私はまだ記憶の定着が終わったばっかりだけど、研究をしていけばいいのね!」


 モンシェール様が亡くなられるまでの間にラルドさんに魔法の技術をしっかりと教えることだろう。


 知識が足りない分は私が補えばいいのだと思う。


「頼みました」


 私とモンシェール様がそう話をしていると、ラルドさんが話しかけてきた。


「あの、クロエ総団長はどこに住まわれますか?」

「ラルドさん、私は転移魔法が使えるし、戻る家があるのでいらないよ」

「畏まりました」


 さて、まさかここで仕事をするとは思っていなかったけれど、長い人生を過ごすことを考えればこれも経験のうちの一つよね。


 椅子に座っていると、ふと記憶の片隅にあった魔法円を思い出した。


 さすがに今は引き継ぎ途中なので自重しようと思ったけれど、今出しておかないと忘れてしまう気がする。


 私は思い立ち、自分の周りに五個の魔法円を浮かび上がらせた。


 空中に浮かんだ魔法円は赤色や白色の光を帯びた魔法円だった。


 自分で出しておきながらなんだが、改めて魔法円をじっくり見て机の上に置かれてあったメモ帳に魔法円を書き写しはじめた。


「クロエ殿、これはまた古い魔法円ですね。それにかなり特徴的な……」


 モンシェール様はこの魔法円に興味を持ったようでしげしげと眺め始めた。


「わかる? これはね、ユーグ師匠の師匠であるエルティーヌ師匠が使っていた魔法円なの」

「エルティーヌ師匠はね、不死じゃなかったけど、不老だったんだ。若返りの研究をしていて術に失敗して亡くなるまでの間、若いままだったんだ」


 私がそう言うと、モンシェール様は驚いた表情をしている。


「も、もしや……クロエ様は知識の継承で過去の記憶を……?」

「うん。ユーグ師匠が私に《《思い出す》》ように知識の継承の魔法円と詠唱を弄ってたみたい。そのおかげで何日も眠りに付くことになったんだけどね!」


「なんということだ。この魔法使い棟には知識の継承という言葉すら忘れかけているほど滅多にできないのです。それをさらに進化させて使っているとは」


 ユーグ師匠がそうしたのはクロエディッタさんへの愛ゆえのことだと思う。


 目覚めてから気づいたけれど、記憶を見たけれど、全ての記憶を追体験したわけじゃない。


 それはユーグ師匠の感情に由来しているのか、見せたいと思った場面だけなのかは分からない。だけど技術の知識はしっかりとある。


 師匠は天才だったとしか言いようがない。


「モンシェール様もその魔法を使う? それとも一般的な知識の継承を行う?」


 私はあえて転生術の魔法は口にしなかった。さすがにあれは不安定なものだし、私には知識は継承されていなかった。そう思えば意味はないのだろうと思ったからだ。


「いや、私は一般的な知識の継承だけでいいです。長い人生を送る身としては墓場まで持っていかねばならぬ話も多いですから」


 モンシェール様はお茶をグイっと飲み干し、不味そうにしながらも笑顔になった。


「知識の継承は魔法使い棟の魔法使い全員に行うの?」

「いや、ラルドだけにしようと思っております」


「わかった。その時は私が責任を持ってモンシェール様を送るね」

「ラルド、それまでの間、しっかり学ぶんだぞ」

「はい」


 私は魔法円の書き取りを終えて立ち上がった。


「さて……私は一旦家に戻るかな。今日は思ったより魔力を使ったし、回復するまで家にいる」

「クロエ殿、では次回来られる時までに服などの準備を勧めておきます」

「はーい。じゃあ、モンシェール様、ラルドさんまたね」


 私は転移魔法を使い家に戻ってきた。


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