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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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20 魔法使い総団長の治療

「モンシェール様、私は平民で忌み子だけどいいの?」


 私は彼に確認する。


「問題ないです。魔法使いは実力主義であり、忌み子など今更です」

「わかった。引き受けるよ」

「クロエ殿、感謝します」


「身体が辛いよね。モンシェール様、今、治療をするから。とりあえず術式の準備をする間、こっちのカウチソファで足を伸ばして休んでて」


 私は彼を浮かせてソファへ運んでいるところ、ちょうどいいタイミングでラルドさんが部屋に戻ってきた。


「総団長! 大丈夫でしょうかっ!? 魔女殿、ここで何をなさるんですっ」

「ラルド、よい。この方はな、これから儂の代わりにこの魔法使い総団長になる人だ。彼女の魔法をよく見ておくんだ」

「!? はい」


 ラルドさんはオレンジの髪に細身で金色の目をしている。だが、よく見ると、魔力の質が他の人たちと全く違い、ユーグ師匠に近い。


 彼はきっと王族なのだろう。オレンジの髪は染めているのかもしれない。


 私はモンシェール様をソファに寝かせた後、執務室の椅子や机を除け、床に魔法円を描き始める。


 知識が定着していても魔法円を上手く描けるようになるには練度がものをいうのだ。私は師匠に拾われてからずっと練習しているけれど、まだまだだ。


「……総団長、これは?」

「黙って見ておけ」


 ラルド様はじっと魔法円を見ていた。それは複雑な魔法円に驚いているようにも見える。


「モンシェール様、準備が出来ました。移動しますよ」

「ああ、ラルド。彼女の補佐をしておくれ」

「はい」


 私はまたモンシェール様を浮かせた後、床に描かれた魔法円の上に寝かせた。


「ラルドさんにも手伝ってもらおうかな。モンシェール様の寿命を伸ばす術を施すの。大量の魔力が必要になるから貴方は魔法円に魔力を流し続けてちょうだい」

「!? わかりましたっ」


 ラルドさんは私の言葉に驚いたようだが、素直に従ってくれるようだ。


 私は長い詠唱をはじめ、魔力を流し始めるとラルドさんも合わせるように魔法円に魔力を流しはじめた。


 ― 我が手に宿る魔力よ、この身体を包み込み、時の流れを遅らせよ。蒼穹の彼方へと続く魔力門を開き、深淵なる運命の門を遠ざけよ ―


 淡い緑の光が魔法円から滲みだし、魔法円の中央にいる彼を包み込んでいく。


 モンシェール様は痛みがあるのか少し苦しい表情をみせている。寿命が尽きようとしている彼に無理やり魔力で寿命を継ぎ足しているのだから、痛みはあるのかもしれない。


 しばらく魔力を魔法円に流し込んだあと、ゆっくりと緑色の光は消え去っていった。


「モンシェール様、限界まで魔力は注いだよ。あとはモンシェール様次第かな」


 モンシェール様はゆっくりと起き上がり、手の感触や身体の感触を確かめているようだ。


「相変わらずユーグ様の魔法は素晴らしい。ラルド、儂はこれから魔法使い総団長を引退し、顧問に就く。お前が一人前に育つまでの間、クロエ殿が魔法使い総団長の座に就任する。いいな」


「えっ? モンシェール様。どういうことですか!? 俺、聞いていません。彼女は俺よりもずっと子供でしょう?」

「クロエ殿はな、大魔法使いユーグ様の唯一の弟子だ。知識の継承も終えている」

「……まさか。本当に」


 ラルド様は疑うように私を凝視してくるけれど、私は気に留めることなくモンシェール様と話をする。


「モンシェール様、魔法使いは実力主義だと言っていたけど、私の実力を見せる必要があるんじゃない?」

「そうですな。忌み子と言って馬鹿にしている奴もいますから」


 モンシェール様はカウチソファに座り、茶器を浮かせながら面白そうだと不敵な笑みを浮かべている。


 その横でラルド様はあまり私のことを信用していないようだ。


「クロエ嬢、本当に君は大魔法使いユーグ様の弟子なのか?」

「ラルド様、私は一介の平民で令嬢じゃないから呼び捨てでいいよ。残念ながら私は彼の唯一かな。なんなら今から証明してみせてもいいよ」


「え? さっき魔法を使ったばかりですが、いいんですか?」

「うん、構わないよ」


 私がそう言うと、ラルドさんは驚いたようだ。


「なら訓練場に出るか。棟内にいる魔法使いたちを全て呼び、見せつければいいだろう。ラルド、頼んだ」

「分かりました」


 ラルドさんは一礼した後、部屋を出て魔法使いたちに知らせに行った。


 私はその姿を見てふっと笑う。だって魔法で一言「今から訓練場に全員出よ」って言えばいいのに。


 モンシェール様も私の考えていることに気づいているようで苦笑している。


「モンシェール様、では私たちも向かおうか」

「身体が軽くなりました。これならあと数年は保ちそうだ。クロエ殿ありがとうございます」


 私はモンシェール様の手を取り、訓練場までゆっくりと飛んで向かった。




 私たちが訓練場で立っていると、魔法使い棟からぞろぞろと魔法使いや魔女たちが歩いてきた。


 そしてモンシェール様の姿を見て一気に緊張感が走っているのが見て取れた。


 彼はやはり長年総団長を務めているだけあってみんなからの支持は厚いのだろう。


 ユーグ様ほどではないが、彼は大魔法使いには変わりないのだ。


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