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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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2クロエの過去

 私は黒髪の『忌み子』だ。


 人間達の世界では王族など位が高いほど白色に近い金髪をしていてほとんどの平民は濃い茶色の髪をしている。


 そんな中でも私は黒い髪と黒い瞳を持っていた。町の人から『忌み子』と罵られ、両親はいつも私を庇ってくれていた。


 だけどある日を境に両親は変わってしまった。


 ……妹が生まれたの。


 妹は両親と同じ茶色い髪に茶色い目をしていたのだ。


「可愛い。お母さん、妹の名前は何にしたの?」


 私は妹を覗き込み、小さな手にそっと指を差し出すと、妹はぎゅっと掴んだ。


 なんて可愛いんだろう。


「……私の可愛いラナに触らないでちょうだい!」


 !!


 私はその言葉に驚いて慌てて手を離した。


「……シャル、お前は私達とは違うからな。母さんは出産したばかりで気が立っている。さあ、向こうへいこうか」


 父は何かを感じとったようでそれ以上口にすることはなかったけれど、私は別の部屋に入れられ、その日以降一人で過ごすことが多くなった。


 両親は妹を守るように、次第に私は家族からも冷たくされるようになった。



 私は何回目の誕生日がきただろう……。


 隣の部屋では妹が生まれてから四回目の誕生日を祝われている。


 多分、私は今年で八歳になる。

 もうずっと外にも出してもらえない。


 ボロボロの絵本を抱え、一日一回の食事をただ静かに待つだけの生活だ。


 外へ出ても村の人からは忌み子として追いかけまわされる。


 家にいても家族からはいないものとされているし……。


 やっぱり私はこの家には要らないんじゃないかな。


 居なくなればきっとお父さんもお母さんも喜ぶと思う。

 きっと町から出て森を歩いていれば狼や熊が私を食べてくれるよね。


 私はそう考え、ぎゅっと手に力を入れて決意をする。


 ……家を出よう。


 私は家族が寝静まった後、家の扉を開いて外に出た。


 部屋の中からは私を呼ぶ声なんてない。


 何年かぶりに家から出ると、不安で身体が強張った。


 大丈夫かな。

 石を投げられないかな。


 私は辺りを注意深く見回し、慎重に歩き出す。今日は月明かりで外は明るく歩きやすい。


 以前とはさほど町の外観は変わっていないみたいなので問題なく外に出られそうだ。


 私は音を極力立てないようにしながら歩いて町の入口までやってきた。


「おい、お前!」


 突然の声にドキリと心臓が跳ね、鼓動は早くなる。


 誰にも会わないと思ったのに。

 町を出られると思ったのに。


 緊張と何をされるか分からない不安で泣きそうになる。


「おい、お前。俺が呼んでいるんだ。こっちを向けよ」


 私はゆっくりと振り返ると、そこにいたのはこの町を警備している男だった。

 警備の男は面倒そうに声を掛けてくる。


「こんな夜更けになにしているんだ。……ってお前。忌み子か。お前、なんで外にでているんだ?」

「……」


 どう答えよう。

 どうすれば見逃してくれるんだろう。

 叩かれるのかな。

 それとも石を投げられるのかな。


 必死に答えを探したけれど、口は乾き上手く言葉にならない。


 だって、もう、何年も誰とも話をしていなかったから……。


「お前、その恰好。酷いな。それに臭い。俺の所へこいよ。風呂くらいはいれてやる」


 一歩、また一歩と男は近づいてくる。また私の家族のように家に閉じ込められてしまうかもしれない。


 逃げなければ……。


 私は男が私の手を取ろうとした時、一歩後ろへ下がり、くるりと村の外へ身体を向けて走った。


「おい! お前! 逃げるな」


 男は私が逃げるとは思っていなかったようで距離が少し開いた。


 ……早く。早く逃げないと。


 私は必死に町の外へと走った。


 足音は私を少し追いかけてはいたみたいだけど、町の外に出て森の中へ入った時には既に足音は消え、追いかけてはこなかったようだ。


 途中で大きな石を踏み、裸足は血で汚れていた。

 でも、私にはどうすることもできない。森の中は月明かりが入らず、暗闇の中、葉を掻き分けて歩くしかなかった。

 バサバサと枝や葉が身体を擦っていく。


 それでも私は遠くへ、遠くへ。その一心で歩く。


 どうせ町に戻ったところで私は石を投げられるだけだもん。

 父さんや母さんにとっても私はいらない子。


 今頃、私が居ないと気付けば安堵していると思う。


 もう家に石を投げられることもないし、落書きをされることだってもう起こらない。


 ……これからどうしよう。


 フクロウや虫の声が至る所から聞こえてくる。この辺で狼や熊の被害が出たと聞いたことはないけれど、突然現れたらどうしよう。


 急に不安になってきた。


 はあはあと息が上がる音だけが耳に残る。


「……ここまでくれば大丈夫かな」


 私は不安を抱え、大木の根元に腰を下ろし、一休みすることにした。私は夜も遅くてお腹も減り、疲れて座ったままいつの間にか眠ってしまったようだ。




 翌朝、ぶるりと震える寒さで目を覚ました。


「お腹減ったな……」


 私は空腹を抱えながら少しでも町から離れようと歩き始めた。


「これって食べられるかな」


 草むらをかき分けているうちに小さな赤い実が生っているのを見つけた。


 一口食べてみると少し酸っぱい。

 でも食べれそう!

 私は赤い実を夢中で食べ空腹をしのぐ。


「ふぅ。少しだけマシになったかな」


 そういえば昨日の男の人は私を臭いと言っていた。川は近くにないかな。なんとなく川を探して彷徨ことを決めて再び歩き出す。


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