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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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11 ユーグの記憶 魔女の呪い

「誰かっ、誰かっ、この子を助けてやっておくれよ!! ここは魔女の村なんだろう!?」


 一人の老婆らしき声が魔女を呼んでいる。


「なんだい? なにごとさね」


 エティ師匠は面倒そうに扉を開けて外へ出ていく。ユーグ師匠もその後を追った。


 視界に飛び込んで来たのは髪の毛を振り乱した老婆と荷車に乗せられた黒い髪の長い女だった。


 その瞬間、エティ師匠が大声で叫んだ。


「ユーグ、後ろへ下がりなっ! お前たちも下がれっ!」


 何か良くないことがあったのかもしれない。ユーグ師匠は指示通り後ろへ下がり、他の魔女達も悲鳴をあげながら距離をとった。


「ちっ、そこの老婆、この女は何だい。なぜここへ連れてきたんだ!」


 エティ師匠は荷車の女を気にしながら老婆に聞いている。


「この子はシャナ。私の孫だ。忌み子でずっと迫害されてきた。私がずっと守ってきたんだ。それなのにっ、貴族のお偉いさんが来て、娘を、娘をこんな風にさせちまったんだよ! 助けておくれよ! 可愛い孫なんだっ」


 老婆は膝を突き、頭を地面に付けてエティ師匠に願っている。


 エティ師匠は何も言わず、突然老婆に向けて大きな火の球をぶつけた。


「ぎゃぁぁぁ。お、おのれぇぇぇぇぇ。ゆ、ゆるさんぞぉぉぉ」


 老婆は先ほどとは打って変わり、魔物のようなぎらついた目でエティ師匠に襲い掛かろうとしていた。


 だが、距離をとっていた魔女たちは一斉に老婆に向けて攻撃をする。


 ユーグ師匠は訳もわからず、状況を見守っているだけだった。


 魔女たちの攻撃で老婆は地面から出てくる槍で貫かれ、風で切られ、火で最後の消し炭になるまで燃やされた。


 他の魔法使いや魔女たちは口を開くことなく荷車の女を遠くから眺めている。ある者は彼女を見て恐怖で顔を引きつらせたり、家に逃げ帰ったりしている。


「エティ師匠、どう、なっているんですか?」

「ああ、これはこの村に災いが呼びこまれたのさ」

「災いが呼びこまれた?」


「ああそうだ。この村は襲撃や侵略者が来られないように特殊な結界が張ってある。それを越えてきた。その意味はわかるね?」

「結界を通れる魔法使いか魔女、ですね」


 エティ師匠は厳しい目をしたまま頷いた。


「その通り。あの荷車に乗っている女をよく見ておきな。あの黒髪。相当な魔力を持っているんだろう。腕に入れ墨のような模様が浮かび上がっている。あれに触れてはならんし、近づいてもならん」

「なぜですか?」


「呪いが移るからさね。仕方がないがあの娘を殺すしかない」

「え……。でも、彼女は生きているじゃ」

「……けて。たす、けて。死にたく、ない。なんで、もするから……」


 か細く荷車から声が聞こえてくる。その声を聞いた一部の魔女からはまた悲鳴があがる。


 彼女たちはこの呪いの怖さを知っているようだ。


「一刻も早く、殺さねばならん」


 エティ師匠は真剣な顔で魔女や魔法使いに向かって叫ぶ。


「あの呪いに向けて魔法をかけるさね」


 その言葉を聞いた魔女や魔法使いたちはまた一斉に呪文の詠唱をはじめ、荷車の女に向かって魔法を掛け始める。


 女を閉じ込めるようにいくつもの魔法円が浮かび上がった。


 エティ師匠も他の人たちと同じように魔法をかけて女とともに呪いを閉じ込めようとしている。


 黒髪の女は苦しいようで悲鳴を上げ、助けてと何度も叫んでいて聞いているこちらの胸が苦しくなってくる。


「皆の者、一気に畳みかけるんだ」

「「はい」」

「きゃぁぁぁっ。痛いっ、痛いっ。助けてっ」 


 出力を上げると、魔法円はより一層光が強くなる。


 それと同時に女は大声をあげ、彼女から魔力が噴き出してきた。


「気を付けろっ!!」


 そう叫んでエティ師匠は魔法の出力を上げていくが、女から噴き出した魔力は抑えきれないようだ。


 悲鳴を上げながらもだえ苦しむ女はユーグ師匠に助けを求めるように視線を送る。


 だが、今のユーグ師匠では何もできず、ただ見守るしかできなかった。


 パチンッ。


 女の魔力に耐えきれず魔法円がはじけ飛んでしまった。


「まずい!! お前たち避難しな! 私が行く」


 エティ師匠はそう言うと、呪文を唱え始めた。


 エティ師匠の身体は燃えるように赤い光に包まれて黒髪の女と似たような模様が顔や腕など体中に刻み込まれていく。


「長老!」

「エティ様!」


 魔女や魔法使いたちは後ろへ下がり、距離を取りながらもエティ師匠を心配し、声を掛けている。


 その魔法が私にはどんなものかはわからないけれど、確実に悪い物だとは分かる。


 エティ師匠はそのまま女の腕を取り、詠唱を続ける。


 すると先ほどまで悲鳴を上げていた黒髪の女は魔力を抜き取られるように静かになり、入れ墨のように体中に入っていた模様が徐々に消えていく。


 それと同時にエティ師匠は地面に崩れ落ちた。


「エティ師匠!!」


 ユーグ師匠が声をあげて駆け寄ろうとした時、一人の高齢の魔女が止めに入った。


「触るんじゃない!」

「ですがっ」

「いいか、よくお聞き。エティ様は自ら呪いを掛け、この女の呪いを吸い取り、消し去った。エティ様のことだ、我々に影響を及ぼさないように自分自身への呪いだろう。だが、誰が触れるにしてもどのような呪いかを確認してからにせねばならん」

「は、い」


 ユーグ師匠はその魔女の言葉に従うしかなかった。


 きっと彼女はエティ師匠の次に偉い人なのだろう。


 その魔女は黒髪の女を放置し、エティ様に魔法を掛け、調べていく。


 魔女の魔法を嫌うかのように時折パチンと弾ける音がしている。


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