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最後の魔法は、人を待つための魔法だった  作者: まるねこ


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10 ユーグの記憶 大罪の水

「ユーグ、そんなに心配な顔をするもんじゃないよ」

「エティ師匠、先ほど言っていた水とはなんのことですか?」

「ああ、あれかい。大罪の水のことだよ」

「……大罪の水、ですか?」


「王族なら耳にしたことがあるんじゃないのかい?」

「言葉は聞いたことがありますが、詳しくは教えてもらっていません」


「そうかい。大罪の水っていうのね、私たち魔女や魔法使いを殺す薬のようなもんさね」

「魔法使いを殺す?」


「魔力は神の祝福によって作られたとされていることは知っているね?

 モードフェルン国の王族は神から生まれたとされている。忌み子の話も口伝として魔女たちの間で語られているんだが、黒髪も金髪も元々同じ家族だったのさ。


 仲違いの末、黒髪の魔女はその地を去り、白に近い金髪をした魔法使いはその地に残り、国を造った。両者とも神の祝福を受けているから魔力を持ち、魔法が使えた。しかしいつの間にか、黒の色を持つ者を忌み嫌うようになっていったんだ。


 そして黒色を持つ者の魔法を使えなくする水が生まれた。だが、これは王族や貴族、魔力を持つ者全てに影響の出るものだったんだ。魔女も魔法使いも全て元を辿れば一つの王族に行きついてしまうからね」


「その大罪の水はどんなものなんですか?」

「これが結構厄介なもんでね。ヒャビクという動物の血さ。ヒャビクは数が少なく神使いと言われている動物だ。その血を凝固させ、特殊な術式で二年ほどかけて魔力を流し込み作る。その塊を井戸に投げ入れれば完成する。塊は徐々に水に溶けだし、魔法が使えなくなるのさ」


「恐ろしいですね」

「ああ、だが、魔力がなくなる訳ではないんだ。ただ使えなくなるだけさね。きっと大罪の水を取り込むと魔力を放出する器官が埋まっちまうんだろう」

「戻す方法はないのですか?」


「……今のところないね。数か月経てばまた魔法が使えるようになることもあるし、死ぬまで戻らないこともある」

「大罪の水に特徴はあるんですか?」


「……ない。無味無臭だ。だが、投げ込まれた井戸は魔力が放出されているから見つけることは可能さね。まあ、忌み子に魔法を使わせないようにする目的だろうから基本的に忌み子がいる街や村に入れるだろうねぇ」


「広まると一大事なんですね」

「そうさ。まあ、飲まなければ問題ないさね。さて、始めるか。ついておいで」


 エティ師匠はそう言って立ち上がり、部屋を出て薬草畑まで歩いてきた。


「まずは雑草取りと目掻きだよ。サーデルから少しは教わっただろう?」

「はい」


 ユーグ師匠は雑草を抜き始めた。最初は黙って見ていたエティ師匠は小さな雷をユーグ師匠に落として叱る。


「なんだい、そのへっぴり腰は。まともに草も抜けないのかい。それは雑草じゃないよ。まったくもう、仕方がないねぇ」


 そういいながらエティ師匠は一つひとつ丁寧に教えている。


「ほら、やってみな」

「はい」



「エティ様、その者は王族ではないですか?」

「ああ。元王族だ。何か問題でもあるのか?」

「……私たちと対称の存在。彼がいることでこの村が狙われませんか?」


「大丈夫さね。村には侵入者を防ぐように施してある。問題ないさね」

「だといいのですが」


 どうやら一部でユーグ師匠がいることで自分たちの安全が脅かされるのではないかという不安があるようだ。


 ユーグ師匠が悪いわけではないが、忌み子と言われて襲われる怖さは私も理解できる。


 何も起こらなければいいけど。


 エティ師匠はだからといって対応を変えることもなく、ユーグ師匠に丁寧に魔法使いとしての知識を与えてくれている。




 ユーグ師匠の穏やかな魔法使い見習いとしての日々が始まった。


 サーデル様の教え方も丁寧だったけれど、エティ師匠はもっときめ細やかな指導だと思う。ユーグ師匠を通して私は沢山のことを学ぶことができた。


 魔女の村は小さいながらも様々な人達が集まっている。村の人達はどこかしら黒い色を帯びているといっていい。


 例えば髪が一束黒だったり、片目が黒色だったりしている。中には明るい髪をしている元貴族の人もいるようだが、ごく僅かだ。



 ユーグ師匠が魔女の村に住むようになって一年が過ぎ、二年が過ぎようとしていた。ユーグ師匠も段々とエティ師匠に叱られなくなってきている。もともとの優秀さが出ているのだろう。




 そんなある日のこと。突然一人の少女が村に運ばれてきた。


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