第一層完
第一層の8階から探索を再開。
より崩れより植物に侵食された回廊を進んでいくと、モンスターの数まで増えてきた。
でもモンスターは俺の相手にならない。
当然といえば当然か、あのゴーレムのボスを倒せたんだから雑魚に苦戦するわけがない。
寄ってくるモンスターを倒しながら、階段を探しあっさりと9階へ。
そして9階でも同じで、モンスターに苦戦することなく探索でも問題なく10階に到達。
もしかしてこのまま一気に行けちゃうのか?
と思いつつ10階の探索を開始したのだが、しかし。
……一気に行けちゃった。
盾と斧で武装したコボルトチャンピオンや、角で突進してくる巨大カブトムシ・マグナムビートルなどのモンスターがいたが、それらも鉱石レベル上げをした俺の敵ではなく、簡単に倒してどんどん先に進んで行けた。
「でもレベルが上がらないのは残念だな。一体で経験値50くらい手に入ってかなり1階や5階に比べたら多いは多いんだけど、鉱床で稼ぎすぎた今ではなんだか小さく見えるよ……ん? あれは……」
回廊を行く俺は白亜の円形の台座を目にした。
足首くらいの高さの低い台座は滑らかで光沢のある白い石でできていて、そこからは白い霧が立ち上っている。
ちょうど、ダンジョン入り口のゲートの色違いみたいな霧だ。
ということは、ここに入ればどこかにワープできるのかな。
……もしや。
「きりのいい10階で始めて出てきた色の違うワープゲート。ときたら、これは第二層へいけるゲートなのでは?」
白い霧に近づいていくと、霧のゆらめきは俺を誘っているように見えてくる。
こうして見つめていてもしかたがないな、腹をくくって入ろう。
俺は意を決して霧をくぐり抜けた。
霧の白色が視界から晴れたと同時に目に映ったのは、真っ青な空。
「空?」
頭上に青い空が広がっている。これまで一度もダンジョンで見ていない空が。
ということはやっぱりワープしたんだ、いったいどんなところに――。
「っ!? うわあああ!? 落ち、落ちる!!」
空を見ていたら地面から足を踏み外しかけて、あわてて後ろに後ずさりした。
一歩進んだ先にあるのは、底の見えない断崖絶壁。
そう、ここははるか高い崖の上。
赤茶けた巨大な岩山に俺はやってきたのだ。
「これが二層……」
赤茶けた地肌が剥き出しの高い山、それがダンジョン二層だった。
俺がいるのは山の中腹らしい。ゲートの右手に十数メートルいったところは急峻な岩壁になっていて、遥か上までとても登れない壁は続いていて、山の頂上は見えないほどだ。
そしてゲートの左手に少し進んだとところは逆に垂直な断崖になっている。崖下は雲海に覆われていて山の下は見えないほど、足を踏み外せば真っ逆さまだ。
とてつもなく高くて大きい山の山腹、その中でわずかにある――といっても山の巨大さから比べるとわずかなだけで、人間から見たら上への崖から下への崖までの幅が二十メートルはゆうにあって広々としているけれど――平らなところがダンジョン2層の舞台らしい。
まさか、って感じだ。
ダンジョンっていうと屋内のイメージなのにこんな青々とした空を見られるとは。
1層の序盤はともかく2層までくると情報はネットにあがってきてなかったので、まったく知らなかった。
「すごいなー。こっわ」
崖際まで歩いて行き下を覗くと、高すぎて高さの感覚がバグる。
助かるとか助からないとかのレベルじゃない、そもそも底があるのか? 普通の山じゃなくダンジョン内に作られた場所だし、永遠に落ち続けるかも。
何気なく蹴っ飛ばした石ころは、小さくなり雲の合間に消えていった。
落ちないように気をつけないとな。
幸い、広さは十分あるから崖際を歩かないようにすれば落ちることはない。
でも怖いからなるべく岩壁に近い場所を歩こ。
「じゃあ探索始めようか。……それにしても、ゲートの出口が崖のすぐ側にあるのって悪意しか感じないな、性格悪い配置だわー」
しばらくは何もない、地肌が剥き出しの山を歩いているだけで登山気分を満喫できたが、十五分ほどするとやつが現われた。
「来たな、二層のモンスター」
『コッコッコッゴッ』
現われたのは、巨大なニワトリ……いやダチョウ?
ダチョウのような長い足を持っていて、胴体から上は巨大ニワトリのような鳥のモンスターだった。
サイズ感もダチョウ並、そしていかにも強靭そうな足と蹴爪を持っている。
スマホを向けて名前を調べると、『ディアトリマ』と出てきた。
このディアトリマは、明らかに走って蹴るのがメインウェポンだな。
『コッコーーー!!』
きた! ディアトリマが土煙を上げて駆けてくる!
この突進の速度を回避しきるのは厳しいか、だったらメイスで受ける!
瞬きする間に俺に接近したディアトリマは風を唸らせ蹴りを繰り出してきた。
俺はメイスを両手で構えて蹴りをガードするが、強制的に踏ん張った足元が後ずさるほどの脚力だ。
ディアトリマはさらに蹴りを繰り出す。
今度はガードするには角度が悪い、回避する!
なんとか直撃は免れたが蹴爪が俺の腿を切り裂いた。
「くっ!! あれ?」
――と思ったのだけれど、蹴爪に引っかかれところはたいした傷はついてなかった。
あんな鋭い爪なら肉が深く裂けたかと思ったんだけど、意外だ。
「鉱石のレベル上げ、めちゃくちゃ効果あったんだな」
正直いって、こいつの攻撃はゴーレムの攻撃に比べたら全然効いてない。
やっぱりあの龍頭のゴーレムバランスおかしかっただろ、めちゃ稼いだのにそれでも結構ダメージ受けたし、弱点以外はめちゃくちゃ固いし。
それに比べたらこの巨大鳥は……よし、ここで足を狙う!
低い体勢になって軸足を狙ってハンマーで叩いてよろめかせ、そこでトサカの上から思いっきりスタンプ。
『コー!?!?』
「よし、倒し……ってまだなのか!」
頭を叩きつけてもまだ倒れない。
だったら倒れるまでやるのみ、そこからさらに首を叩いたり、再び脚を狙って体勢を崩し、相手の攻撃を受け、何度か攻撃をして、そして最後にもう一度頭をスタンプするとディアトリマはついに倒れた。
ふぅ、なかなかタフなやつだった。さすが二層のモンスター。
でもなんとか倒せて……ああ経験値の光が出ていってるな、これは一層のモンスターと同じだな。
経験値はどれくらい入ったかな………………え?
俺はステータスを二度見した。
「間違いじゃない。EXPが+700もされてる」
そう、まさかの+700である。一層終盤のコボルトチャンピオンが経験値70とかそこらだったのに、こいつは700。十倍だぞ十倍!
インフレえっぐい。
もう一層のモンスター倒してる場合じゃないわこれ、このインフレの波に乗るしかない。
「と考えてたら早速またモンスターが。狩らせていただこう!」
ぴこぴことやってきた動くはにわみたいなモンスターも倒して、一稼ぎだ!




