再戦
スキルを習得した俺は、鉱床を後にしてダンジョン一層八階の回廊を歩いた。
もちろん以前ゴーレムに出くわした場所へと向かったが、しかしそこにはいなかった。
どうやら徘徊しているタイプのようだ。
だったらとその周辺の回廊を歩き回って探す。
これまで出会わないようにこそこそしていたのとは逆に、こちらから見つけに行く。
そして。
「……いた」
長い石の腕と足を持ち、円柱の胴体の上に龍頭の彫刻が乗っているモンスター。
龍頭のゴーレムが回廊を向こうから歩いてきているのを発見した。
近くには他のモンスターはいないな。
乱入されて厄介なことになる恐れはなし。
それじゃあ……。
「ボス戦開始だ」
俺は使い込んだハンマーを手に、ゴーレムへと駆け寄っていく。
ゴーレムも戦闘態勢に入り俺を迎え撃ちパンチを放ってきた。石の柱のような腕が振り下ろされる。
俺はあの時よりレベルも上がって耐久力スキルもとった、防御力は大幅に高くなっている、ならこの攻撃も――。
いや、やっぱ無理だって!
俺は横っ飛びにハンマーパンチをかわした。
自分の体と同じ大きさの石がぶんっ……と来るのを正面から受けるのはさすがに怖すぎる、もし耐えきれなかったらぺしゃんこになるんだぞ、無理無理。
耐えられるとしても何も避けられる時にわざわざ当たりにいく必要なんてないんだから、常識的に考えて。
それに避けた方が攻撃に移行しやすいしな!
ストーンメイスを振り抜くと、ゴーレムの腕の石が欠けて破片が飛び散った。
大ダメージとはいかないが、間違いなく効いている。
それなら倒せないことはない!
ゴーレムは次は右腕をハンマーのように振り回してくる。
距離をとってかわして、伸びきった右腕に再びメイスで殴りつける。
うん、石が割れるいい音。鉱床を叩いてたのを思い出すね、あの経験が生きている。ゴーレムも石だし、カンカンやってればいずれ全部砕けるはずだ。
ゴーレムのパンチを回避しつつメイスで石の体を少しずつ、しかし着実に削っていく。ゴーレムの体のあちこちに欠けと亀裂が入っていく。
このままいけば――。
だが、そのまま終わるわけがない。
ついにあれをやってきた。
龍頭の口が赤熱した。
――来る、火球が!
しかもお互いの直接攻撃が届くような至近距離でだ。
一度見ていたから口が赤くなった時点で避難態勢に入れたが、それでも完全回避には距離が足りない。
爆風が巻き起こり、俺の左半身を熱が襲い、吹き飛ばされた俺は右半身を石の壁にしたたかに打ち付けた。
「ぐあっっ!!!」
………………あれ?
「え、まじか、思ったより……平気なんだけど」
壁に打ち付けられた右腕は問題なく動く。
爆発の熱を感じた左腕も、同じく動作に問題なし。
両肩をぐるぐるいくらでも回せる。
前回はあの爆発一発でまともに動けなくなっていたけれど、今はこのまま戦い続けられるくらいのダメージしか受けてない。
レベル15と耐久力Bの効果、完璧に出てるじゃないか。
火球の爆発が致命的じゃないなら、あとは落ち着いて腕の攻撃をかわしながら打撃を加えていくだけだ。火球は必要経費としてライフで受けて、ダメージレースに勝つ。
そのプラン通りに戦闘を続け、追加で二度火球の爆発を受けつつ、四度目に龍頭が赤熱し始めたとき、
「正面から何度も受けてれば、だいたいタイミングもわかってくるものなんだな!」
度重なる攻撃により破損し動きの鈍ったゴーレムの腕を踏み台に俺は跳び、赤熱している龍頭へと、ストーンメイスのフルスイングをぶち込んだ。
パキィィィ……ンンン……と、甲高い音がした。
龍頭の口元からヒビが広がり、顎の上から崩れるように砕けていく。
石柱のような胴体と手足は糸がきれた人形のように重々しい音を立てて地面にくずおれ、その後は沈黙だけがダンジョンに残った。
「派手な爆発より地道な稼ぎ。人生それが大事」
俺は崩れた龍頭のゴーレムに目を向ける。
今となっては倒れた石の柱にしか見えないが、俺は知っている。これが紛れもないボスだったことを。
石の彫刻である頭が真っ赤に赤熱しているということは、その時脆くなっているはずと思ったけど予想通りだった。危険なタイミングこそが倒すための鍵だったんだ。
モンスターが倒された時のお約束通りゴーレムの体だった石柱が光に包まれていく。
……けど、いつもより豪華版だな。
鈴を鳴らすような音とともに虹色の光が不規則に浮遊して、それが膨張しくっつき一つになってり、うおっまぶしっ!
……最後に一際輝いて消えた、そしてゴーレムの体もまた消えていた。
いつもと違う豪華な消滅の仕方、やはりこいつはボスだったか。
ボスがその辺を普通に歩いてるのやめて欲しいわー。
そりゃゲームならいいアクセントかもしれないけど、これはガチなんだからさ。やばい奴歩いてて草じゃすまないんだよ。
……ん? ゴーレムが消えた跡に何かあるな。
そこには手のひらサイズの青色の丸い玉と朱色の丸い玉が転がっていた。アイテムをドロップしたらしい。
手に取って解析すると。
[スキルメモリー:心眼] 使用すると獲得可能スキルに、[心眼]を追加する。
[スキルメモリー:釣り] 使用すると獲得可能スキルに、[釣り]を追加する。
「おおおおおお!!」
新スキルを覚えられるアイテムだって!?
早速使ってみるしかないだろう。
宝玉を手のひらに乗せてぐっと力を入れると、玉が光の粒となって俺の体に吸収されていった。
スキル習得画面を開くと。
─────────────
獲得可能スキル 現在sp 1
・持久力C 必要3p ・クラフトE 必要1p
・自然治癒D 必要2p ・耐久力A 必要5p(LV条件未達)
・心眼E 必要1p ・釣りE 必要1p
─────────────
おおー。
ちゃんと習得できるスキルが増えている。
クラスに応じて元々持っているスキル以外は、こうやってアイテムでスキルを増やすのか。
強いボスだったけど戦ってよかった。
これでダンジョンでやれることが広がって行く。
「心眼と釣り、どっちも楽しみだな。さてと。ボスも排除したし、俺のレベルも上がったし、久しぶりにダンジョンを先に進もうか」
ここのところずーっと鉱石を掘ってたし、またダンジョン探索が恋しくなってきたところだ。




