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鉱物はEになる

 洞窟は広々としていて、下も上も横も黒い固まった溶岩のような岩石でできていて、鍾乳石や石筍がいくつもはえている。


 蛇のようにうねる洞窟を進んで行くと、その一番奥に大きな石?土?の巨大な塊があった。


「他の場所と色が違う。うっすら光沢があるし、何かありそうだな」


 その塊は黄色っぽく明らかに周りの岩とは異彩を放っている。そして大きさも鯨くらいはありそうで、そんなものが洞窟の奥にあるのだ。何もないわけがない。


 しばらく眺めたり、触ったり、爪でカリカリしたりして調べていると、あっと思った。


 俺はストーンメイスを両手で振りかぶり……黄色い塊に振り下ろす。


 カン! と高い音を立てて塊の一部が割れ、手のひらサイズの黄色く光沢のある結晶が転がる。


 それをスキャンすると、[バディン銅]と名前が表示される。


「やっぱり鉱石だ」


 ダンジョンに鉱床があり、そこから採掘することで鉱石が手に入り、その鉱石を使って武具を作ったり強化したり、というのはゲームでもよくあることだ。

 そしてこのダンジョンは超技術を持った何者かがゲームを参考に作ったと思われるのだから、ゲームによくある要素があるのは想像に難くない。

 いずれこれで武器とか強化できるとしたら、その時のためにいくらか採っておこう。


 バディン銅の結晶を拾ってインベントリに収納する。


 ――しようとした瞬間、その結晶に異変が起きた。


 橙色の光を放ち始めたのだ。 

 太陽のような光をしばらく放つとそれは時間とともに徐々に弱まっていき、やがて光が消えると、光沢のある黄色い結晶から灰色のぼそぼそとした塊に変化してしまったのだ。

 しかもインベントリにしまうことができない。


 どういうことだ? もう一度スキャンだ。

 って、何も表示されない? 本当にどういうことだ、スキャンの効果がないなんて、それじゃまるでその辺の石をスキャンした時と同じだ。


 その時、疑問に首を傾げる俺の体の周囲をプリズムな光が螺旋を描いて昇り、シャキーン!といういかにもな効果音が洞窟に反響した。


 これはレベルアップの演出……まさか!


───────────────────

[名前] 灰崎はいさき 楓真ふうま

[レベル] 10 

 NextEXP 130 / 3000

[所持スキル]

・耐久力C ・自然治癒E sp3

[クラス] E 

[装備]

・ストーンメイス

・鉄の指輪

───────────────────


 実際にレベルが上がっている。

 経験値が増えている。


 ここに来る前に確認した時のレベルの欄の表示は


[レベル] 9 

 NextEXP 1730 / 1800


 だった。

 つまり、経験値200増えている。それでレベルアップしたってことだ。


 しかし今はモンスターを倒したわけでもポーションを飲んだわけでもない。唯一レベルアップの前後で起きた出来事と言えば――。


「この結晶か?」


 鉱石が光を放ってただの石ころに変化した。

 その直後にレベルアップ。

 となれば、この現象が経験値を増やした原因と考えるのが自然だろう。


 確かめてみればはっきりするな。

 幸い、洞窟壁から突き出た鉱床は鯨のように大きい。もう一回掘ってみればいいだけのこと。


 再びハンマーでカンカンと叩くと、さっきと同じくらいの大きさの結晶がとれた。再び手に乗せると、


「あっ、光を放って……色が消えた」


 さっきと同じように発光した後、魂が抜けたみたいに灰色のぼそぼそした石になった。

 明らかに俺が触れた影響だよな。

 そうだ、ステータスは。


───────────────────

[名前] 灰崎はいさき 楓真ふうま

[レベル] 10 

 NextEXP 330 / 3000

[所持スキル]

・耐久力C ・自然治癒E sp3

[クラス] E 

[装備]

・ストーンメイス

・鉄の指輪

───────────────────


 またEXPが200増えてる。

 確定だ。


 この鉱床を掘ると経験値の鉱石が手に入るんだ。

 そして経験値を抜かれた鉱石はただの何も効果のない石ころになる。

 装備や道具だけでなく、こんな鉱石みたいなものすら経験値にしてしまうとは。

 【E】おそるべし。


 ……ん?

 でも待てよ?

 これだと、元の[バディン鉱]は手に入らないのでは?


 それってすなわち武器を作ったり強化したりができないってことになる。

 少し残念だな、武器製作や強化もダンジョンでは楽しい要素だから。


「だけどま、経験値がその分手に入るんだから贅沢な悩みってやつか。それよりも、武器を強く出来ない分、レベルでカバーできるようにここでガッッツリ稼いでおこう」


 おあつらえ向きに俺のもってる武器はハンマーだし。

 ここで一生カンカンやっちゃいますか。


 俺は両手で高くハンマーを振り上げた。




「はーっ! 疲れたーーー」


 大の字になって洞窟に寝転ぶと、ひんやりした岩肌を背中に感じて気持ちいい。

 経験値鉱石を見つけてから、ずっと鉱石を掘り続けていた。


 一番先端の部分こそパリっと簡単に剥がれてくれたけど、そこから先はしっかりがっちり固まった岩で、採掘するのになかなか苦戦した。

 ハンマーで何回も叩かないと塊から鉱石を採れなかったんで、もう背中がピキってる。

 

「でも、めちゃくちゃ経験値は稼げたな」


───────────────────

[名前] 灰崎はいさき 楓真ふうま

[レベル] 11 

 NextEXP 3240 / 6000

[所持スキル]

・耐久力C ・自然治癒E sp4

[クラス] E 

[装備]

・ストーンメイス

・鉄の指輪

───────────────────


 見ての通り、おおよそ6000EXPも稼ぐことができた。

 1レベルあがった上に次のレベルまでも、すでに半分以上経験値がチャージされてる。

 もちろん過去最高記録だ、いえい。


 結局のところ地道な労働が大事なんだよ、世の中って。


 しかも、まだまだ鉱床はどでかく残ってる。

 いったいどこまでレベル上げられるんだ?ちょっと想像の範疇を超えている。


「ふ、ふへへ。明日からが楽しみだ……が……」


 疲れた。

 まじで。


 これ帰るまで体力持つかなー。

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