アノマリー[龍頭のゴーレム]
「名は体をあらわすか、まさにだな」
[龍頭のゴーレム]、そいつは一目で格が違うとわかった。
黄土色の岩でできたような巨体で、高さは5m近くありそうだ。
腕も足も長く太く、一方で胴体は細い円柱。
そして特徴的なのが、頭が龍の頭の彫刻のようだってことだ。
見た目だけじゃなく、発する威圧感でこれはもう絶対に強いっていうのがわかる。
だが幸い今のところこっちは見てな……げ。
ゴーレムの顔がぐるりと90度回転し、俺を視界に捕らえた。
「気付いたか! だったらもうやってやる!」
この階層の他のモンスターは倒せてるんだ、こいつだって絶対無理ってことはないはずだ。
……多分!
俺はストーンメイスを振りかぶり、ゴーレムに向かって行く。
こういうのは大抵動きが遅いって相場が決まってるし、せんせいこう――。
ヒュドッ……
風を切る音がして石柱のような腕が打ち下ろされ、石畳を砕いた。
「えっ……」
ヒュドッ……
さらに左腕も打ち下ろされる。
「やっっっっっばっっっっ!!!!」
再び爆音とともに石畳が砕けて飛び散る。
俺の体が砕けなかったのは単なる幸運だ。
意識するより早く体が自然に動いて、紙一重でヒットしなかったけれど、ほんのちょっと角度が違っていれば石畳は俺だった。
「いや、だが俺も耐久力スキルをあげてきた。案外耐えられる可能性も……?」
『キュルキュるるる……侵入者……センめつ……』
ドゴッドゴッドゴッ。
龍頭のゴーレムは威嚇するかのように壁を石の拳で何度も叩く。
石壁が砕け剥がれ土が剥き出しになるのを見て、俺は理解った。
「無理だろ! 耐えるの! 絶対!」
あれに耐えられるか一か八かのチャレンジするのはさすがにない!
逃げだ逃げっ。
俺は反転して一目散に駆け出した。
だがもちろん龍頭のゴーレムも追いかけてくる。
しかも見た目に似合わず足が速い。
「足の長さの差が出たか……でも、それなら逆に……」
俺は回廊の数十メートル先にある、瓦礫がつもり木の幹が絡みあうところに目をつけた。その植物と瓦礫には人間ならなんとか通れる隙間があるが、しかしこの龍頭のゴーレムの大きさじゃ通れない。
ここの遺跡の木の根は石に負けず劣らず硬いから、このゴーレムも砕いて通るのはすぐにはできないはず。
そこに逃げ込めば安全だ!
一気に穴にむけて走り抜ける。
だが俺は忘れていた、あのゴーレムの頭がドラゴンだということに。
何かが燃え上がり爆ぜるような音が背後から聞こえ、俺は振り返った。
そこではゴーレムの頭部である龍頭の彫刻の口の中が燃え上がり、火球がまさに発射されようとしているところだった。
「そんな芸当もできるのかよ!」
という魂の叫びと同時に、火球が発射された。
俺はなんとかかわそうと身をよじる。
火球は俺に向かってくる。
――至近距離で爆音が鳴り響いた。
「ぐあっ! あっ……つっ……」
火球は俺に接近すると膨らみ破裂したのだ。
火球自体をギリギリ避けてもその爆発は俺を巻き込み、衝撃と熱が襲いかかってきた。
左腕左肩左腿が熱い、壁に打ち付けた右肩右腕右骨盤が痛い。
防御力鍛えたはずだけど、それでも、こんなにか!
これほどはっきりとダメージを受けたのはダンジョンに入ってから始めてのことだ。
これはまずい、このまま戦い続けたらただじゃすまない。
「だけど、なんとかゴールまで走りきった」
攻撃に巻き込まれつつも、俺は木の根や幹と瓦礫の絡み合う地点まで到達した。
追撃を食らう前に隙間を四つん這いで通り抜ける。
ゴッ ゴッ
直後に、そこをゴーレムが叩きつけた。
瓦礫と木の皮が舞い散る。
ふぅ。
欠片はまってるけど簡単には折れたり崩れたりはしなさそうだな。
とはいえのんびりしてるのはリスクでしかない、さっさとこの場を離れよう。
ゴッゴッと執拗に壁を殴る龍頭のゴーレムをその場に残し、俺は回廊をダッシュしていった。
「ふーーっ」
いやあ、とんでもなかった。
まさかあんなレベチなモンスターが何の前触れもなくうろついてるとは。
やっぱりボスクラスのモンスターだよな。
他のオオトカゲなんかとは明らかに強さの格が違ったし。
ボスはボス部屋にいてくれよ、あれか? オープンワールドなゲームの序盤にいてうっかり近付くと瞬殺してくる系ボスか?
爆風を受けた体の右側は熱くてヒリヒリするし、石壁に激突した左側は痛くて痺れている。相当なダメージだ。
耐久力を上げてたのにこんなダメージを受けるとは、まだまだレベル上げが足りなかったな。最近サクサク階を進めていたから初心を忘れていた。
何はともあれ地道にこつこつ稼ぐ。それが一番大事。
「ん、そろそろ左手がまともに動かせるようになってきたか」
自然治癒スキルのおかげで徐々に治療され、ある程度は動くようになってきた。
やっぱり役に立つな自然治癒スキル。
それに耐久力スキルも、とってても大ダメージを受けたというよりもあのスキルがなければもっと大ダメージを受けてたと考えるべきだろう。
それこそ複雑骨折ものだったかもしれない。ヒーラーがいないのにそんなことなったら、ゲートまで帰ることもおぼつかなくなるし、耐久&回復の方針は維持でいいかな。
その上で今よりさらにレベリングをしていく。そのためにちょうどいい弱さのモンスターいないかな、もちろん経験値ポーションでも可、飲むだけで楽だし。
「……あれ?」
探していたモンスターでもポーションでもないが、気になることを俺は発見した。
始めてだ、回廊が途切れてるの。
これまで回廊が幾重にも重なるダンジョンを進んで来たが、それが途切れて屋外に繋がっているところがあったのだ。
屋外、といってもこの遺跡は地中に埋もれているので、地中の洞窟に回廊が繋がっているという具合だが。
「洞窟か、何があるんだ?」
さっきのことがあるので、突然の強モンスターに警戒しつつも、初めての景色に興味津々で俺は進んでいった。




