コボルトキラーその後
いったん家に帰った俺の手元には、無限に電気を帯びる毛皮がしっかり残っていた。
ダンジョンから持ち出せる性質をもったアイテム、間違いなくレアドロップだ。
まさか俺がこんなすごいものを手に入れられるなんて。ビギナーズラックってやつは本当にあるんだな。
「さて、これどうしよう」
売る、っていうのももちろん一つだけど。
でもせっかく手に入れた逸品を金になるからってすぐ手放すのももったいないような。
あとで売ることはできても、売ったあとで買い戻すことはできないし、しばらく手元に持っておく方がいいよな。そしてたまに眺めて悦に入るのだ、ふふ。
レアドロを眺めながら俺はベッドでしばらく休憩する。スタミナも回復しないといけないし。
明確に数値化されているわけではないけど、ダンジョンでしばらく行動した後は数時間はダンジョン外にいないと体がベストな動きをできなくなってしまう。
もどかしいけど、しかたない。
これはダンジョンの先人も皆言っているダンジョン内スタミナのせいだし。
スタミナ増やせれば、もっと長いことダンジョン内にいられる=レベル稼ぎ長時間できるだし、そのうちなんとかしたいな。
「でもまあ、優先度は低いか。どうせ平日は学校あるからスタミナあろうと長時間入れるわけでもないしな。影響あるのは今日みたいな朝から晩まで予定ない休日くらいだ。たしか俺が取得できるスキルにそれらしいのもあったけど、平日でも意味あるスキルから取る方がいいよなあ」
ベッドの上でぶつぶつ言いながら、日曜の午後がすぎていく――。
週が明けると当然高校があるので、起きて即ダンジョンというわけにはいかない。
授業中は逸る気持ちを我慢して、放課後は即部屋からダンジョンへ。
植物の侵食された遺跡を見ると、気が落ち着く。もうここがホームグラウンドのようだ。
今日どうしていくかは、もう数学の授業中に考えてある。
しばらくはコボルトの大群を倒した大広間、あれとは逆方向を探索する。
あれは経験値もレアドロもおいしかった。だからまた見つけたいわけだけど、ああいうボス部屋っていうのは普通ダンジョンでは離れて配置されてるものだよね。ボスがいる場所の隣にまたボスがいる場所、なんてダンジョン見たことないし。
ということは、スタート地点から見てあの大広間と反対方向を探索すれば、別のおいしいボス部屋に突き当たるということになるわけ。
「となると方角を考える必要があるけど、基準がないとわかりづらいな。……そこはかとなく植物の伸びていってる方向に偏りがある気がする。意識して見なきゃ全部同じくらいだけど、例の大広間の方向に向いてる花とかが少し多いかな。なら、そっちの方角を便宜的に南にしよう」
そうやって基準を設定すると、俺の使用してるゲートから見て南にコボルトの大広間があり、逆にコボルトの大広間から見てゲートは北にあるってことになる。
その基準では、これから俺はゲートから北方面を開拓していく、ということだ。
「これで今週の目標は決まった。北へ!」
とはいえ逆方向だからモンスターが違うということもなく、ダンジョンの構造も似たようなものだったので、ゲート北方面の探索も順調に進めることができた。
階段も見つけ、二階、三階と次々とのぼっていく。
「お、またポーションだ」
三階の小部屋で宝箱を見つけ、そこからポーション五本を手に入れた。
「今度はなくさないようにしないと」
この前最後にとっておいたライフポーション一本、どこかに置き忘れちゃったみたいなんだよなー。一応見当はついてるんだけど。
多分、あのコボルトの広間。ちょうどレアドロに気を取られた時じゃないかなと。
でも経験値50くらいならわざわざ取りに行かないでもモンスターを倒しても稼げるので、わざわざ広間に確認に行くほどじゃない。
普通に予定通りに探索を進めるだけだ。
「でももったいないことしちゃったよな……」
実際の数値以上に、飲むだけの経験値を失ってしまったという事実がショックだ。手に入るはずのものをミスで取り逃す、これほど萎えることはない。
だから今度は忘れないうちに飲んでしまおう。
すぐに飲めば置き忘れることもないし。
ってことで、俺は五本のポーションをぐびぐびと飲み干した。
……うむ、経験値50の味はうまい。
それから俺は北部探索を続けていった。
月曜、火曜、水曜と時が過ぎ、俺も二階、五階、七階と進んで行った。
そして木曜日には八階までの道順を記憶し金曜日。俺はいよいよ八階の探索を開始した。
「もう八階か」
八階まで来るとダンジョンの様子も変わってきていた。
植物に侵食された遺跡を上に上に進むうちに、より遺跡は朽ちていき、床や壁の石が剥がれ、土が露わになっている。ということは地下に埋まった遺跡なんだろう。
さらに壁が崩れて瓦礫となって道を塞いでいたりもして、植物に瓦礫に朽ちた回廊にとどんどんと入り組んだ様子になってきている。
だが幸いなことにモンスターには対処できていた。
この辺りには、石の鱗をもつオオトカゲや、鱗粉で視界を奪って、ストローのような口で突き刺して体液を吸おうとしてくるエグい蝶々のモンスターなどが出てきたが、大広間でたっぷりレベルアップしたこともあり倒すことができている。
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[名前] 灰崎 楓真
[レベル] 9
NextEXP 1730 / 1800
[所持スキル]
・耐久力C ・自然治癒E sp2
[クラス] E
[装備]
・ストーンメイス
・鉄の指輪
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さらにそれから今までの探索でも経験値を得てレベルアップして、無事レベルは9に到達。スキルポイントを次のレベルアップでそろそろためてた分使おうかな、とか思ったりもしている。
モンスターを倒して得られる経験値も増えてきたし、そろそろ第二層も近くなって来たし、この調子で進んでいきたい。
「ところだ……なっ!?」
パラ、パラとひび割れた天井から石のかけらが落ちてきた。
地震?
否、地響き。
巨大なモンスターが徘徊するその足踏みが回廊を揺らしていた。
これはやばい。
情報を得るためにスマホを向ける。
映し出されたモンスターの名前は。
[龍頭のゴーレム]




