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なんだこれは ★

 風早かざはや玲奈れな篠倉しのくらりょう景山かげやまれん


 新人探索者3人パーティは、ダンジョン一層四階を攻略していた。


「昨日、一昨日はだめだったけど、今日はいける予感をびんびんに感じてるよ私は」

「そう簡単ではないと思いますけど。レアドロップは多くの探索者が追い求めてるもの。おいそれと見つかるようなものは、もう誰かに発見されているでしょうし」

「一言一句同じ台詞を前も聞いたよ景山くん」

「まあ景山ちゃんの言うことは正論だけど、その条件なら今日は(・・・)俺たちが発見する可能性もなくはないんじゃないかい?」


 ダンジョン内でも日曜日でもワイシャツを着ている篠山が玲奈の味方につくと、玲奈は勝ち誇った笑みで、スポーツウェア姿の景山の肩に手を乗せる。


「そうそう、そのために普段と違ってこっちに来たんじゃない。私達のゲートよりさらに北、最果ての方面へね」


 玲奈は静かな回廊をゆっくりと見渡す。


「私達が出入りしてるゲートの南には他の探索者も多少はいたけど、この辺はほんっとうに誰もいないよね」

「俺たちのゲートはダンジョンの中でも最北端にあるゲートだからねぇ。パーティ組んだころに会ったギルドのスカウトさんも、こんなとこにゲートあったのかって驚いてたもんなぁ、ははは」


 三人は当時を思い出す。

 ここまでのダンジョン攻略の中で自分達以外のプレイヤーと出会うこともあった。

 有名なギルドに所属している人と出会ったこともある。


 そのギルド所属の人から地図を見せてもらったことがあるが、驚いたことにダンジョン内にも方角があった。太陽も北極星もないため地球の方角とは別物だが、何かしら方角の基準を作らなければ地図を作ることもできないので、探索者達がダンジョン内で便宜的に東西南北を決めて、それに基づいて地図を作ったり情報をやりとりしている。


 そして、三人が使っているゲートはまだほとんど探索されてない北の外れの領域にあるらしかった。


「安全性を考えるなら、他プレイヤーがすでに開拓した場所の方がいいんですけどね。これまでみたいに、あの人に勧められたゲートから南の方を探索していた方が」

「勝手がわかってる場所の方が安全だもんねー。初心者なら尚更。他プレイヤーと会って色々教えてもらったり助けてもらったりもできるし」


 景山の言葉に玲奈も頷く。

 ダンジョン内のモンスターと戦って傷を負ったこともすでに何度もあるから、尚更そう思っていた。


「しかぁし! 他の人が探索してるってことは、おいしい宝も少ないというデメリットがあるのだ。レアドロが欲しければ私たち以外に誰も来てない場所に行くしかない。一回はレアドロ見つけたいもんね、行こ行こ!」


 玲奈は足を早めた……が、すぐに足を止めて怪訝な表情を見せ始めた。


「ねえ、何か変じゃない?」


 彼女は異変に気がついた。

 植物に侵食された回廊、それが赤っぽく錆びたようになり、茶色く枯れた葉が地面に散っているようになってきているのだ。


「見たことなくない? こんな様子の回廊」

「ええ、何かありそうですね。警戒を深めて進むべきかと思います」


 三人は歩調を少し緩め、慎重に進んでいく。

 そして意味ありげな入り口を見つけ、入ると。


「うっわー、おっきい!」


 そこは広大なドームのような空間になっていた。


「こんな広大な空間は初めてですね」


 しかし中は空っぽで、がらんとしている。


「なんなんでしょうここは? 特に何もなさそうですが……」

「あ! アレ見て景山くん! ポーションあるよ!」

「え? えーー………………あれ、ですか? 玲奈さん目いいですね」

「ふふん、両目2.0だから私。とりあえずアイテムゲット!」


 目ざとくアイテムを見つけた玲奈は、広間中央部にいくつかある石の台の上にぽつんと取り残されたポーションの元へ走っていった。


「私のインベントリに入れとくねー。…………ん?」


 玲奈のゆで卵の如き眉間に皺がよった。


「んん? んん~~~?!」

「どうしたんですか、そんな唸って」

「ん~、なんか変なんだよこのポーション。ライフポーションっていってるのに、効果がさ」


 玲奈がインベントリ画面を景山に見せるとそこには。


・ライフポーション 4

・ライフポーション 1


「同じアイテムが二つの項目に分かれてる?」

「ね! 変だよね。名前は同じだけど何か違うのかなあ?」


 そして1の方、今見つけたポーションの説明をインベントリから二人は閲覧した――瞬間「えっ」と同時に声が漏れた。


・ライフポーション 使用により経験値が増加する


「経験値が増えるポーションなんてあるの!? 知ってる景山くん?」

「聞いたことあるわけありません。これ、どういうことでしょうか」

「そうだよね、こんなのないよね! ひょっとしてレアアイテム?」

「かもしれませんね……篠倉さん、あなたは何か知りませんか?」


 問いかけられた篠倉はしかしそれには答えず、ぼさぼさの頭をかきながら、地面に落ちていた毛や石の刃の破片をつまみ上げて二人に見せた。


「これ、コボルトとかコボルトエリートだ。二人とも気付いてたかい? こんな残骸がこの大広間中に落ちてたことにさ」

「え、この広間空っぽじゃないんですか?」

今は(・・)空っぽさ。だがこの痕跡を見るに、元はモンスターがみっしりと――」

「おい! お前達無事!?」


 その時、第三者の声が会話を遮った。


 それは大広間の入り口から放たれた怒声。がらんとした大広間にやまびこのように反響する声に、玲奈達三人は入り口の一つに目を向ける。


「あ、諸葉さーん! どうしたんですか血相かえて?」

「どうしたじゃない! 何こんなところにノコノコ来てんのよ!?」


 烏の濡れ羽のような艶やかな長髪を揺らして駆けつけてきたのは、北畑きたはた諸葉もろは

 玲奈や景山よりは年上で、篠倉と同じくらいの年格好のその女は、全力疾走で三人の元へやってきた。



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