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10/28

0×100=0

 本当に大群だ、10や20じゃない。

 コボルト達は少なく見積もっても100……へたすりゃ200匹いるかもしれない。


 内訳は大量の通常コボルトにコボルトエリートが一部。

 どちらも雑魚モンスターではあるが、これだけの数がいればもはや雑魚じゃない。集団でボコボコにされてあっという間にやられる。


 ……っていうのは、普通に育成した場合の話。


 俺は大群がいる大広間に足を踏み入れられた。

 すぐさま入り口近くにいたコボルトが気付き、鳴き声をあげて殴りかかってくる。


 うん、横に棍棒を振って、俺の顔をひったたこうとしてるね。

 うん、頬に当たったね。

 うん、ノーダメージ。


 その近くにいた他のコボルトも気付いて俺を棍棒で殴ってくるが、いずれも無駄に終わった。


 そう、俺の耐久育成なら、囲まれてボコボコに殴られても何も問題ない。

 耐久スキルをCまで育て防具も装備した今では、コボルトの攻撃はまったく通用しないのはここまでのダンジョン攻略で証明済み。

 0には何をかけても0。

 100匹だろうが1000匹だろうが、コボルトがコボルトである限りは俺にダメージを与えることはできないってことだ。


 コボルトAに腕を殴られた、こっちもストーンメイスで殴り返して1匹撃破。コボルトBが足を狙ってきた、まずは機動力を奪う作戦か? でも効かないんだよね、胸にフルスイングして2匹撃破。コボルトCが後頭部を殴ろうとしてるな、でも考えてみたらわざわざ殴られるの待つ必要もないか、こっちが先に頭を攻撃して3匹撃破。


 とまあ、こんな調子でコボルトの群れを倒して行ったんだよ。

 コボルトエリートもある程度紛れているが、それでもダメージ量より自然治癒スキルの回復量の方が上回っているので、実質的には俺にはまったくダメージは蓄積しない。


 ということは、つまり。


「最高の経験値稼ぎ場発見」


 歩きながら武器を振り、コボルト達を次々と光の粒に還元していく。

 大勢のコボルトが一挙に光になっていくせいで、広間の中は眩しいくらいの輝きに満たされる。


 この光全てが俺のレベルアップの礎になるんだなあ。

 最高効率の狩り場を見つけた時、これが一番楽しくて、そこでレベルアップする瞬間、これが一番気持ちいいんだよ。


 最高の十数分が過ぎた後。

 俺は振り返って大広間を見た。

 モンスターでひしめいていたそこは、今はもう一切何もいないガランとした空虚な空間になっていた。


 その虚無な空間を見ていると、冷静になっていく。

 考えてみたら、耐久重視のスキル習得をしてなかったら普通に危ないところだったよな。コボルトを倒せるとしても、あれだけ数がいたらダメージがかさんで詰んでただろう。

 そう思えば、今のは実は薄氷の完勝だった。


 浮かれるな、灰崎。

 ここはダンジョン。

 気を引き締めて、慎重に進もう。


 ここからも安全に進めるためには、まずは現状把握だ。


───────────────────

[名前] 灰崎はいさき 楓真ふうま

[レベル] 8 

 NextEXP 983 / 1000

[所持スキル]

・耐久力C ・自然治癒E sp1

[クラス] E 

[装備]

・ストーンメイス

・鉄の指輪

───────────────────


 よし、レベルが7から上がった上にさらに経験値も大量獲得。


 しかしこの経験値、もうあとちょっとでレベルアップだな。

 それならいっそ今上げてしまいたい、そうすればさらに盤石になる。


「……そうだ! ちょうど経験値ポーションが残ってたじゃないか」


 1本飲めばうまい具合にレベルアップする。ちょうどいいな。

 インベントリからポーションを出して、と……。


「……って、あれはなんだ?」


 ちょうどその時、俺は大広間に輝きを放つものが存在していることに気付いた。

 広間の真ん中には台のようになっている石がいくつもあり、その石のうちの一つにそれはのっていた。


 正体を確かめようと駆け寄ると、そこにあったのは波打つような輝きを放つ毛皮だった。

 毛皮が揺れるとともに色を変えてプリズムのように輝くそれは、俺の脳内の記憶を呼び覚ました。

 俺はこれを知っている。いや、誰もが知っている。

 ダンジョンの象徴、ダンジョンブームを引き起こした最初のアイテム。


「これ、レアドロップだ。この波打つ光、無限電池の材料になったやつだよ」


 レアドロップ。

 ダンジョンでごく稀に見つかるアイテム。

 それこそが人々をダンジョンに駆り立て、また各国がダンジョンに人が入ることを認めざるを得なくなった原因のもの。


 その最初の一つは世界的に話題になったので、誰もが一度はメディアを通じて見たことがあるはずだ。

 だから俺もこれがそれだと見てすぐわかる。


 俺は毛皮を両手でとって穴が開くほどに見つめる。

 撫でてみると、しっとりなめらかいい手触りだが、しかし撫でるたびにピリピリと静電気が伝わり、音まで聞こえてくる。


 まさか俺がレアドロをこんな早く手に入れられるなんて、思ってもみなかった。

 レベルも上がってレアドロも手に入れて、俺のダンジョンライフはうまく推移しているようだ。これは明日からも楽しみだな。


「……いやいや、違う。これはまずい。気を引き締めて慎重に行こうって思ったばかりなのに、これじゃあ調子に乗ってしまうぞ。気を引き締めろ灰崎楓真。いい気になるな灰崎楓真……よし!」


 本当にこれで良いのか怪しいが、ともかく気合いは入れなおした。

 これからもダンジョンに真剣に向き合っていく所存です。


 でも、少しくらいはレアドロを堪能してもいいよな。うん。 


 俺は戦利品のなめらかな感触を何度も確かめ、波打つプリズムの色に目を奪われつつ、コボルトの大広間から出て、今日のダンジョン探索を終えるために1階のゲートへと帰って行った。



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