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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト59 初めての恋の相談#3

 「恋のキューピッド」と聞けば、想像するのは赤ん坊ぐらいの白い翼を生やした天使が、ハートの矢じりをした矢を手にし、弓に番える存在。


 その矢で射抜くのは、人間のハートであり、この場合は現物ではなく、精神性を指す。

 そして、その矢で射抜かれた人間が目の前の異性に恋をすることで、人間という種の繁栄を促す......といった感じで天子は解釈していた。


「――っ」


 もちろん、その単語を聞いただけで、天子が息を呑むことはない。

 問題はその役割を、目の前のお嬢様――百合から与えられたことが問題なのだ。

 それも、恋愛に「れ」の字も知らない自分に。


「それは......」


 ふと「どうして?」と問いかけたくなる疑問を口に含むも、閉ざして出さない。

 百合を知ったのが今日が初めてだ。なんだったら、数時間前。

 それで百合の人となりを知れるとは、天子とて思っていない。


 しかし、それでも人の感情がどうい感じか、それぐらいの察しはつく。

 皮肉にも、ずっとボッチで過ごし、周りの空気に染まってことながれ主義で生きてきたおかげだ。

 そんな自分の歩んできた道が告げている。


(これは冗談で言っているんじゃない)


 根拠としては乏しい。しかし、その根拠は誰かに提示するわけでもなし。

 それを元に判断するのは自分だ。それでいて、それに伴う責任も自分。

 であれば、根拠はそれで十分だ。


「......具体的に私に何をさせたいんですか?」


 口の中の疑問を飲み込み、違う疑問にして口に出した。

 そんな天子の言葉の変化に、百合は目を細め、わずかに緩めた口角のままあえて投げかける。


「言葉を変えるのね」


「私の中の百合さんがそれを冗談としなかったので。

 それに、百合さんの『面白い』の類にそういうのは含まれないのでは、と」


「えぇ、そうね。それを面白おかしくしようとすれば、さすがにわたくしでも白けるかもしれないわ。

 もっとも、あのふざけた道化師なら平然とおどけて見せると思うけど」


 と、告げ、その後に「まぁ、それはそれで面白そうだけど」と言葉をまとめると、左手に皿を持ち、右手にカップを持って優雅に飲み始めた。


 直後、「道化師」という単語に天子は一瞬首を傾げるも、すぐに脳裏に一人の人物が浮かぶ。

 表情筋をどこかに捨てていったような男子生徒――敬のことだ。


 確かに、自分の場所に敬がいれば、それもやりかねないと思えてしまう。

 とはいえ、ああ見えても、敬は誠実であり、思ったよりも先を見据えている。


 あいにく何を見ているかはわからないが、それが周りを助けようとしているのは確かだ。

 だからといって、足の傷を我慢して、挙句に周囲の協力を得て自分を騙そうとしたのはいただけないが。


 おかしい。自分はあまり怒らない質であり、腹を立てることすら稀だ。

 それは自責的思考による結果なのだが、それを考慮しても、今でもちょっとムカムカする。

 と、それはともかく――


「それで、改めてなんですが、私は何を?」


 そう、天子が問いかけると、百合がテーブルに置いた皿にカップを乗せる。

 陶器同士がぶつかり合い、カチャと鳴る音を少し冷たい風が攫って行く。


 僅かに緊張を孕んだ空気が、この場に静寂を作り出す。

 その雰囲気を作り出すお嬢様は、カップから手を離すと――


「もう何考えてもわっかんなぁ~い。一緒に作戦考えて~......」


 シリアスさんを一瞬にして置き去りにして目を点にさせるような、緊張の空気を一刀両断する砕けた口調で、百合が頬杖をついてだれる。


 状況に置いてかれたのは何もシリアスさんだけではない。

 目の前にいる天子も同じく何が起こったかわからず、何度目かのNowLoadingを始めた。


 しかし、先ほどに比べれば脳のスペックに対する負荷は圧倒的に少なく、百合のそばにいる幸音が口元を手で隠すようにして上品に笑う姿を見て、意識が再稼働する。


「え、えーっと、今のは......?」


 とはいえ、脳は機械的に動かすことは出来ても、機械ではない。

 加えて、人間には感情があり、それを排除してすぐさま立て直せる人は稀だ。


 そういう意味では、対極に位置する天子は当然、声に困惑を含む。

 そんな彼女の質問に、百合は依然としてお嬢様としてはやや品性に欠ける体勢のまま――


「だってぇ、あの堅物メガネにして鬼畜なドS調教が映えそうで、平然と主を裏切っておきながら何も事も無かったように戻ってきて、それでいてやっぱり隠れて鬼畜な所業が似合いそうな男よ~?

 理知的で業務に真面目なのはいいけど、もう少し下心出してもいいと思うのにぃ」


「な、なんだか大変お悩みの様子ですね......」


 なんとツッコめば良かったのか。自分は敬ではないのでわからない。

 だから、凄くあっさりとした感想になってしまった。

 とはいえ、思考の中では当然そうではなく――


(なんかとんでもない肩書が増えてませんか、相沢さん)


 最初も「堅物メガネ」と少し口悪く言っていたが、まさかあればジャブどころかテコピン程度とは思わなんだ。


 加えて、先の言い回しはとても敬らしいとさえ感じる。

 良くも悪くも百合が敬を気に入る一端を知ったような気がした。


「ちなみに、お嬢様はこう言いながらもその手のジャンルの慰み本をいくつか所有しています」


 想い人に想いが伝わらず溶けている主人の後ろで、幸音がとんでもない内容を暴露。

 その衝撃的な発言に、天子の表情が固まる。


 つまり、口悪く言いながらも存在まんざらでもないということだろうか。

 うん、あまり主べきではないかもだけど、全っ然いらない情報!


(か、顔には出さないようにしないと......)


 どう反応すればいいかも困るので、イメージするは敬の鉄壁仮面だ。

 もちろん、ただの無表情ではダメだと思うので、被るべきは笑顔の仮面。


「大丈夫ですよ。この手の話題に関しては盛大にお嬢様を笑っても」


 とは、幸音からのフォローだ。いや、フォローか?

 イマイチ距離感が掴み切れない主従関係だが、百合が否定しない辺り、言っても大丈夫なのだろう。

 だからといって、笑える気は全然しないが。


 ともかく、状況はわかった。

 端的に言えば、お気に入りの執事――宗次に対して、暖簾に腕押しの状況が続いていることにやきもきしているのだ。


 確かに、話した回数は多いとは言えないが、宗次が堅物なのは見ててもわかる。

 学校の昼食の時間、決まって百合の場所へ向かってる辺りも、生徒という立場でありながら職務を全うする姿勢は生真面目と評価してもいいだろう。


 それを考えれば、お嬢様と執事という関係性から見ても、宗次からのアプローチはまずないと考えられる。


 ちなみに、その考えの元になった引き出しは、異世界恋愛系のラノベから来るものだ。

 なんせ、天子も恋愛に関しては素人で毛すら生えていないのだから。


「百合さんは、その......相沢さんをぎゃふんと言わせたいのですか?」


 言葉が上手く思い浮かばず、何とも幼稚な言葉になってしまった。

 だが、言いたいことは正しくそれだ。

 振り向かない相手に、意識しない相手に、見ようとしない相手に一泡吹かせる。

 それ自体は、天子自身もつい最近経験したことだ。


 林間学校で、浮かれていた自分の不注意により斜面に足を滑らし、それを庇って怪我をした敬。

 しかしあろうことに、その怪我人は自分が怪我している事実を伏せて、林間学校を全うしようとした。


 その目的は、全て自分に林間学校という行事を楽しんでもらうため。

 これまでボッチでロクな学校行事の思い出が無いと知っているから。

 だからといって、怪我した傷を放置していい理由にはならないが。


 そんな敬に対して、天子は怒った。

 それこそ人生で何年振りかの激しい感情を露わにして。

 だって、彼は見ていないのだ。

 周りを目敏く見ているくせに、自分に対して一切顧みない。

 そんな敬に対して、天子は説教してみせた。


(まぁ、アレで改善できたとは到底思えませんが......)


 敬に関しては、きっと自分が知らない根深い何かがある。そんな気がする。

 そして、今はまだそれに触れさせてもらう距離感でもなければ、きっと胸の内を明かすつもりはないのだろうとも思う。


 でも、いつかは聞いてみたい。聞かせて欲しい。

 それが、どうしてはわからないけど、きっと自分を助けてくれた恩返しになると思うから。


 それに、一度は激しく昂り、未だ胸に宿る妙な熱にもきっと答えが出るだろうから。

 だからこそ、この百合の頼み事は、それの最初の前哨戦。


「......えぇ、何か策があるの?」


 百合に問いかける質問、それを投げかける天子の強い意思を見て、百合が崩れた姿勢を正す。

 と同時に、その瞳の真意を尋ねた。

 その質問に対し、天子はゆっくり首を横に振ると、


「いいえ、現時点では具体的な作戦は何も。

 それに、少し前に百合さんが問いかけた質問に振り返るなら」


 そう言葉にし、天子は脳裏に百合から問いかけられた言葉を思い出す。

 真っすぐとした瞳で、彼女は――


『時に、好きな人がいるのでいいのよね?』


 あまりにも断言的な言葉に、聞いた時は目を白黒させたものだ。

 しかし、落ち着いた今なら、その言葉も意味も飲み込むことができる。


 きっと彼女は知っているのだ、この熱の答えを。自分でも知らない事実を。

 しかし、それを答えるは彼女であってはいけない。


 この答えは自分で見つけなければいけない。なぜか、強くそう思う。

 そのためにも、今はただ偽らざる本音で――


「私には好きな人はいません」


「.......」


「ただ、気になっている人はいます」


 真っ直ぐと正面を見つめる双眸に、言葉と同じ熱を乗せる。

 その言葉以上に雄弁に語る瞳に、百合は「そう」と呟き、頬を緩ませた。

 

「なら、あなたは何をしてくれるの?」


「もちろん、作戦を考えます。

 ですが、あいにく恋愛経験は乏しいので、周りの方にご協力してもらおうと思いますが。

 そして、この経験を得て、自分の心の答えを探ろうと思います」


 その回答は真っ直ぐだ。いや、真っ直ぐ過ぎた。

 なぜなら、その発言は、簡単に言えば、「自分の気持ちを整理するためにあなたの悩みを利用する」と言っているようなものなのだ。


 もちろん、天子の言葉にそこまでの悪意的側面は無い。むしろ、純粋だ。

 真っ白すぎるぐらい真っ白で、そのキャンパスに手形をつけようとしている。

 未だ何を描けばいいかわからないキャンパスに、悩みに悩んで色と形を作ろうと。


 それが対人経験の乏しい故に口からポロッと出てしまっただけで。

 協力はしてくれるのだから、その事実に早々怒る人はいないだろう。

 もちろん、だからといって発言には人を選ぶべきであるが。

 ともあれ、こと百合に限ってはその限りではない。


 もちろん、お嬢様という立場で英才教育を受けた彼女がその言葉を客観的に捉えられないはずがないが、それを踏まえても百合は変わらないだろう。

 なぜなら、彼女が好むのは「おもしれー奴」だから。


「ふふっ、まさかこの機に乗じて自分の目的果たそうだなんて。面白いわね、あなた。

 ま、いいわ。こちらとしても、協力者を得られるなら是非も無いから」


「わかりました。といっても、未だ何ができるかはわからないですが」


 その言葉に、百合は「そうね」と困った様子でため息を吐き、


「この場に恋愛経験者皆無のメンツが揃っているものね」


「お嬢様、失礼ながら私にも彼氏はいました」


「現実にいない男を彼氏と認めるには、わたくしには抵抗がわるわ。わからないとは言わないけど」


 恋愛経験がないという事実に幸音が素早く否定するが、それすらも百合に否定され、幸音は口を曲げた。


 幸音の言っていることは、ヲタク男子が「コイツ、俺の嫁!」と主張している類の妄言だ。

 対して、百合が求めているのは現実の恋愛。

 2Dではなく、3Dの話をしているのだ。もっと言えば、ニオイも感じるので4Dか。


 ともかく、現実に即して言えば、2Dの異性などこの場では何の説得力も生まれない。

 どれだけギャルゲーに詳しい男がいても、その知識を使ったとて現実にパートナーができないように。


「ちなみに、周囲に協力を得るとかって言っていたけれど、わたくし的にはあまり公にして欲しくないわ。

 ほら、協力者が増えると、どこかしらでバレるかもわかったもんじゃないし」


 「人の口に戸は立てられない」といった言葉があるように、どれだけ徹底しようとも情報は些細な会話から漏れる可能性がある。


 その可能性を極力減らすのならば、当然、協力者を減らすのが一番手っ取り早い。

 とはいえ、恋愛経験ゼロ集団でどうにかできるはずもなく。


 出来れば恋愛経験者を望むが、そうでなくても感情の機微に目敏い人。

 加えて、宗次と他愛のない距離感で接することができる人物が一番望ましい。

 となれば――


「私から話してみます。それから具体的な作戦を考えましょう」


 そう言って、天子は頭の中に思い浮かべた心当たりに向かうことを決心した。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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