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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト50  犬甘幸の陰謀

 林間学校が終わり、休日。

 犬甘家には普段と変わらぬ日常が流れていた。

 日曜日の今日は、敬は外出せずに自宅でのんびり。

 そんな兄に対して、妹の幸は敏感に変化を感じ取っていた。


「ねぇ、お兄ちゃん......林間学校でなんかあった?」


 敬がソファで本を読んでいると、ドアの近くに立つ幸が不意にそんなことを聞いてきた。

 その質問に、敬は反射的にビクッと体を震わせる。

 というのも、脳裏に林間学校の時の天子の姿が過ったからだ。


 キャンプファイヤーのあの時、敬は確かに天子に距離を詰められた。

 自分が何度も何度もセーフティラインを示してきたが、余裕で飛び越えてきた。


 それが少し恐ろしい。

 近づけば近づくほど、自分は彼女に対して愛着を抱いてしまう。

 そしてそれを失った時、その悲しみは測り知れないから。


「何もないよ、マイシスター。僕はいつも通りカッコいい僕のままさ」


「ダウト。さすがにそれぐらいわかるよ~。

 こちとら一体何年お兄ちゃんのp顔を見てきてると思ってるの?

 いくら表情が一枚絵になってしまったとしても、それはわかる」


「......どうやら兄検定の階級を見直さなきゃいけなさそうだな。

 それで? 具体的にこの僕がどう変わったと?

 少なからず、この表情からは見て分からないと思うけど」


 敬がそう聞くと、幸は腕を組んで兄を見始めた。

 そしてその状態のまま、スススと移動してソファに座る。

 すると今度は、顎に手を当ててじっくりと見てくるではないか。


「そうだねぇ......自分にとって良くないことが起きたでしょ?」


「.......っ!」


「当たりだぁ。ふふん、どうやら妹の祝福がお兄ちゃんにも届いたようだね」


「その祝福って呼び方、『呪い』って言葉のルビじゃないよね?」


 妹の的確過ぎる指摘に、敬は内心苦笑いを浮かべた。

 やはり妹だけあって、自分のことはよーく見てきているようだ。

 特に、自分の現状に関しては確実に察知されている。

 となれば、目下一番注意すべきは妹になるのか。


「......そういや、林間学校に行く前、どうして幸はあんなことを言ったんだ?

 まさか兄が不幸な目に遭ってるのに興奮する特殊性癖持ちとかじゃないよな!?」


「さすがにそれは......ないとも言い切れないかもしれない。

 仮に、お兄ちゃんがギャル達に囲まれた逆NTRビデオレターみたいなのが来たとしたら、愉悦部部長としてはニマニマして見そうな気がする」


「それは十分に特殊性癖持ちだろ。

 というか、どういう状況を想定しているんだ。

 何がどうなったら俺がそういう状況になると?」


「少なからず、お兄ちゃんの場合は女性優位で攻められてるのが容易に想像つくね」


「やめようか。朝からこのディープな話は」


 会話の方向が段々とおかしな方向に行っている気がする。

 というか、もはや幸の方からそっち方向に寄せている感じすらある。

 これは兄としては、是非とも避けなければいけないことだ。

 というか、なぜ妹と猥談しなければいけないのか。


「それはそうと、お兄ちゃんは金曜日はちゃんと寝れた?」


 敬が話を止めた途端に、幸はしっかりと話題を変えた、

 そしてリモコンでテレビの電源を入れながら、そんなことを聞いてくる。

 なので、敬は目を話していた本に視線を向け、答え始めた。


「僕はいつも通りだったよ。

 幸が僕を抱き枕にしない世界線の休眠が出来た。

 まぁ、ちょっと寝不足感はあったけど、日頃鍛えてるおかげだね。

 その後も特に問題なく普通に動けた」


「鍛えてる意味はよくわかんないけど......ふむふむそうか。

 つまり、快眠はできなかったと。

 となると、お兄ちゃんはまだまだ私という快眠グッズ必要だね。

 聞いて称えよ! 見て崇めよ! そして私を崇拝しろ!」


「自分の押し売りがすごいが、結局快眠グッズ認識でいいのか?

 というか、幸が単にびくに対して甘えたがりというだけの話では」


「そうとも言う。だがしかーし、妹とこうも仲良くできる兄はそうはいないよ。

 逆に言えば、お兄ちゃんに対してかまちょする妹もね。

 そうつまり! お兄ちゃんは今ファンタジー妹に触れているといっても過言ではない!」


「どうした? 今日はやたらテンション高いな」


 敬は幸のテンションに若干困惑していた。

 というのも、幸はこんなに休日に積極的に話しかけるタイプではない。


 いつもは互いに好きなように時間を潰し、昼時ぐらいにたまに顔を合わせる程度。

 なので、幸がここまで話しかけてくるのは、珍しい部類と言える。


 ということは、これは自分でも言っていたように本当に構ってもらいたいということ?

 それはつまり――


「なぁ、もしかしてだけど、幸は僕がいない間寂しかったのか?」


 敬は率直に聞いてみることした。

 すると、幸は一瞬キョトンとするも、みるみるうちに顔を赤くさせていく。

 その状態のまま、彼女は目線を泳がせながら言い訳し始めた。


「そ、そんなわけないじゃ~ん。休日で暇そうにしているお兄ちゃんを見つけたから、同じく暇しているこの私が、せっかくだからお兄ちゃんの休日に彩を与えようとしているわけで!」


「めっちゃ早口になるじゃん。それに、それを世間一般的に『かまちょ』と言うんだぞ。

 というか、自分で自覚しておきながら、指摘されて恥ずかしがるんじゃないよ」


「自分で言うのはいいの! わかるこの気持ち!? わかれ!!」


「こんなに必死な理解要求初めてだよ」


 もはや怒っているかのような圧で訴える幸に、敬は僅かに目を細めた。

 我が妹ながら何を考えているのか全く分からない。

 しかし、それでもわかることはある。妹は可愛いということだ。

 そして、ターンが回って来たとなれば、攻撃するが兄の務め。


「なんだよ~、寂しかったなら素直にそう言えばいいのに。

 ほら、マイブラザーが今にも胸を貸してあげるよ?

 この鍛え抜かれた大胸筋に抱かれるがいい」


「なーに急に調子乗ってんのさ。まだ私のターンだし。

 てか、ずっと私のターンだし。お兄ちゃんにターンなんてやらないし。

 今に見てろよ、ボッコボコのメッタメタにしてやる!」


「HAHAHA☆ やれるものがやってみるがいい!」


「お兄ちゃんが林間学校から思い詰めてる理由は、大撫先輩に距離を詰められたからでしょ!」


「っ!」


 刺された。一発で刺された。幸に的確に急所を一突きで。

 その瞬間、一気に敬の形勢は不利となり、なんだったら一瞬にして沈黙した。

 図星で何も言えなくなったからだ。


「あり? 当たり? えぇ~、マジで~~~?」


 兄の弱点を見つけ、幸は途端に顔を悪魔的にニヤケさせる。

 もはやわからせたい類の顔つきだ。

 されど、今の敬には反撃できる力はない。


「え、なになに? 何があったのぉ?」


「そのウザい聞き方はやめなさい。

 それに言っておくけど、別に俺は普通にしてだだけだよ。

 そしたら、なんか急に......正直、アレは俺も予想外だった」


「そのアレを教えんかい。ほら、はよ」


 幸に妙な催促をされつつ、敬は林間学校の出来事を話した。

 すると、妹からは「そっちでも相変わらずそんなテンションなんだね」と呆れられつつも、話した内容に関しては随分と興味津々のようであった。


「へぇ~、なるほどね~.......そんなことが。それは普通にアレじゃない?

 大撫先輩にとってお兄ちゃんが初の友達枠ってことで特別視してる感じ」


「ヒナの刷り込みみたいなものか」


「その例えはどうかと思うけど.......まぁ、そんな感じ。

 けどまぁ、たぶんあっち側の心の変化だと思うけど......」


「ん? どういう意味だ?」


「ううん、なんでもないよ。こっちの話。

 だから、気にするな。話題にするな。私の言うことに従え」


「自分のターンで不利になりそうな時の圧凄すぎだろ。

 わかったよ、聞かないよ。めっちゃ気になるけど」


 敬はそう言いながら、読んでいた本を閉じた。

 そして立ち上がると、入り口に向かって歩き始める。

 そんな兄の動向を伺いながら、幸は話しかけた。


「お兄ちゃん、どったの? もしかして、なんか気に障ることでも言った?」


「いんや、単純に小腹が空いたからコンビニに行って来るだけだよ。

 安心しろ、兄はそう簡単なことじゃ腹を立てない。

 可愛い妹のためだ、ついでに何か買って来てやる。

 あ、今の兄的にポイント高い」


「それを自分で言うから妹的にポイント低い。

 それはそうと、なんか適当におかし買ってきてー。

 ラングドシャとあと適当になんかつまめるやつ」


「へいへい、おまかせあれ」


 そして、敬はドアノブに手をかけると、リビングから出ていった。


****


 壁越しに聞こえたドアが閉まる音を聞いた幸は、ふとポケットからスマホを取り出しポチポチ。

 その目的はSNSの巡回ではなく、とある熱量の高いガチ恋の方に向けたものであった。


『アサナン、突然だけど林間学校に関してなんか聞いてる?』


 幸が話しかけた相手は、友達の朝奈。涼峰夕妃の妹だ。

 そして、兄の敬に対して珍しくガチ恋を抱いている人物でもある。


 そんな人物にとって、好きな人は些細なことでも集めたい。

 となれば、当然姉から林間学校のことを根掘り葉掘りと聞いていてもおかしくないのだ。


 幸の目的は、その情報を朝奈から仕入れること。

 そんな悪だくみをしていると、幸のスマホが通知音を鳴らした。


『当然聞いてる。隅々まで話させた。羨ましい』


「わ~お、ジェラってんじゃん。相変わらず物好きだねぇ」


 スマホ越しから伝わる湿った気配に、幸は苦笑いを浮かべる。

 もし近くにいたらしばらく湿気で息苦しくなりそうだ。

 しかし、そういう人物の情報収集能力は非常に頼りになる。


 というわけで、幸は早速朝奈から話をもとに、兄の話とすり合わせる。

 いわゆる、「答え合わせ」というやつだ。

 いやもっと言えば、兄が言わなかった部分の情報集めというべきか。

 ちなみに、メールを打つのがめんどうになったので、電話で話すことにした。


「それじゃあ、お兄ちゃんは大撫先輩を庇って足を怪我して、それを隠していたと」


『うん、そうみたい。皆にも口裏合わせてもらうように頼んでね。

 だけど、2日目にその話をしてたのをたまたま聞かれてたみたいで。

 結果、お兄さんと大撫先輩は距離が近づく羽目に......』


「めっちゃ苦々しい声出すじゃん。悔しい感情がだだ漏れよ。

 にしても、そうか......足を怪我してたのね。

 っていうか、たぶんまだ痛むんじゃ.......」


 その情報に関しては初耳の幸。

 先ほどの兄の話からでは聞いてない部分だ。

 つまり、意図的に隠していた情報という意味でもある。


 話を整理すると、1日目に敬は天子の窮地を救った。

 ただし、その代償として足を怪我してしまった。

 

 敬は天子に気を遣って、足を怪我したことを隠すことに。

 周囲へと協力してもらい、1日目はそれで凌ぐことができた。


 しかし、2日目には夕妃達の話が盗み聞きされていてバレる。

 すると、あの大人しそうな小動物が牙を向けることを決意した。


 結果、敬は女子と名前呼びし合うという距離感の近い関係性を気付くことになってしまった。


(お兄ちゃんは友達という距離感にこだわっていた。

 それはまぁ、まず間違いなく過去の出来事を引きずってのことだろうけど。

 しかし、あのお兄ちゃんに対してあそこまで強気にでるなんて.......)


「大撫先輩って見た目とは裏腹に案外行動的か......?」


『幸、なにブツブツと呟いてるの?』


「あ、ごめんごめん。大撫先輩、案外やるな~って思ってただけ」


 幸にとって、天子がそこまで行動的であることは思わぬ収穫だ。

 天子は大人しい人物だと思っていたので、友達でも踏み込んだ行動は出来ないと思っていた。


 しかし、どうやらそうではないらしい。

 そういう行動が出来るのは、もとからそういう素質も持っている人間だけだ。

 天子の場合は、周りと関わらなかった分、成長しなかっただけ。


「これはまた伸びしろがありそうな逸材発見ってところだね」


『また悪だくみしてる。幸は私の味方じゃないの?』


「味方? 友達ではあるけど、味方ではないよ。

 私はあくまでオブザーバー。強いて言うなら、ゲームマスター。

 そして、アサナンはプレイヤー。攻略対象は我が兄の犬甘敬。

 それ以上でも以下でもない。それを踏まえて頑張ってね」


『む、意地が悪い。けど、どうこう言ったところで変わらなそうね。

 だったら、望むところ。あのちびっこ先輩に負けてられない』


「そうそう、その息その息♪ んじゃ、待ったねぇ~~~~」


 そう言って幸は通話を切った。

 そして、スマホを口元に当てそっとほくそ笑む。


「さてさて、これからどうなることやら♪」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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