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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト23 「天子と愉快な仲間達」#1

 昼休み前の最後の授業である四限目。

 多くの生徒がそこはかとなく感じるお腹の減りを我慢しながら、体育館でバレーの授業に励む。


 といっても、ほとんどの生徒がバレーの授業を楽しんでおり、体育館を男女半分に分けたコートの中央では今まさに試合の真っ最中。


 特に男子に至っては、ネット越しから男子の試合をぼんやり眺める女子にカッコいい所をアピールしようと、全力でバレーしたり、逆に気だるさを演出したりしながら各々アピール合戦を行っていた。


 そんな思春期渦巻く中央コートから外れた一角。

 そこには試合を楽しむ生徒達とは違い、レシーブやトスでバレーボールを回しながら雑談する敬、悠馬、宗次の姿があった。


「なぁ、そういやいつだか誰かを紹介するとか言ってなかったか?」


 悠馬がボールをトスする。


「誰かとは失礼な奴だな。大撫さんだ。クラスの人物の名前ぐらいは覚えておけ」


 悠馬からのボールを宗次はトスする。


「あらやだ。もしかして、大撫さんをロックオン? 悠馬君たらケ・ダ・モ・ノ♡」


 宗次からのボールを敬はレシーブする。

 そんな風にボールを回しながら、彼らはしばらく前から雑談を続けていた。

 そして、敬の相変わらずのうざ絡みに、悠馬はため息を吐きながら答える。


「違ぇって。俺、そんな女にガッツいたことねぇだろ。

 そうじゃなくて、単純に気になっただけ。

 まぁ、気になるついでで言えば、よくお前なんかについていけてるよなとは思うけど」


「まぁ、普通に考えたら、貴様のような変人と関わろうとするのはおかしいからな。そういう意味では私も気になりはする」


 その言葉を、ボールとともに宗次が敬へとパスした。

 すると、敬はやれやれと言った様子で首を横に振る。


「ハァ、わかってないなぁ~。 違うって。

 単純に僕のこの溢れるフェ~ロモンに幼気な蝶がやってきてしまっただけさ」


「「その発言は流石にキモイ」」


 敬の言葉に悠馬と宗次のツッコミがユニゾンする。

 しかし、それを敬は全く気にする様子はなし。

 むしろ、生き生きとした雰囲気さえ醸し出していた。

 そんな敬を見ていた宗次は、改めて敬に質問する。


「それで、結局貴様はどうするんだ?」


 その時、宗次の質問と同時に、敬へとふわりとボールが飛んでくる。


「もちろん、今日紹介するつもりだよ」


 それを見た敬は、あまりにも完璧な位置で飛んでくるボールに対し、思わずスパーンとスパイクした。


 そんな突然高速で飛んでくるボールに、悠馬は「うぉっ!?」と声を漏らしながら咄嗟にレシーブ。

 悠馬が弾いたボールを、宗次は何事も無かったかのようにトスする。


「それはまた急な話だな。私はお嬢様に仕える身。

 休みを頂くには、どんなに遅くとも一週間前には申告しなければならない」


「ふっふっふっ、そう言うと思って事前に伝えてある。

 そしたら、『許可する』と来たので問題ない。ちゃんと証拠はあるぞ」


 そう言いながら、敬は再びスパーンとスパイクする。

 それに対し、悠馬は再び「ちょっ!?」と慌ててボールを受け止め、宗次に弾く。


「貴様、そういう手回しは早いな」


「よせやい。褒めたって何も出ないぞ」


 そして、宗次からのトスを敬はスパーン。

 直後、勢いよく飛んでくるボールを悠馬は受け止めた。

 そして、次の瞬間に飛び出したのは怒号の声。


「おいコラ敬テメェ! トスはどうしたトスはァ!?

 さっきからズカズカズカズカとスパイクを打ちやがって!

 そのボールを受け止める身にもなってみろ!」


「いや、でも普通に受けてててくれるし」


「次やったらぶっ飛ばすからな!」


 敬を指さしながら叫ぶ悠馬であるが、敬が気にした様子は全くなし。

 それどころか華麗にスルーしながら、悠馬に何食わぬ顔でもとい無表情で提案する。


「なら、ついでに逆回しにするか。宗次もそれでいいか?」


「私は構わん」


「おーし、それじゃやるかんな」


 敬の提案により、悠馬は敬に向かってトスする。

 それを敬は更にトスしながら、宗次に聞いた。


「で、どこまで話したっけ?」


「貴様が大撫さんを紹介すると言った所までだ」


「そうだぞ。言うなら早く言えよ。ま、暇だったしいいけどさ」


「んじゃ、決まりってことで。ちなみに、親睦を深めるために放課後遊びに誘う予定です」


 その時、敬の質問と同時に、宗次へふわりとボールが飛んでくる。


「どこに行くか考えてあるのか?」


 それを見た宗次は、あまりにも完璧な位置で飛んでくるボールに対し、思わずスパーンとスパイクした。


 そんな突然高速で飛んでくるボールに、悠馬は「ちょいっ!?」と声を漏らしながら咄嗟にレシーブ。

 悠馬が弾いたボールを、敬は何事も無かったかのようにトスする。


「一応、最初自己紹介したら、ラウン〇ワンのスポッチャに行こうかなって。

 で、その後は大撫さんの同意次第だけど、カラオケなんかいいかなって」


「思ったよりもガッツリ遊ぶつもりだな。

 私は別に構わないが、男三人に女一人でそれは荷が重いだろう。

 だから、それも含めて事前に聞いた方がいいぞ」


 そう言いながら、宗次は再びスパーンとスパイクする。

 それに対し、悠馬は再び「おいっ!?」と慌ててボールを受け止め、敬に弾く。


「そうだな。昼休みにでも聞いてみる」


「やはり最近悠馬がしょんぼりとひとり飯をしているのはそのせいか」


 そして、敬からのトスを宗次はスパーン。


「僕としては、女子友達も出来た事だしそっちで食べればいいと思うだけどね。

 なーんかたまに誘われるんだよね。

 まぁ、父親に学校の出来事を報告する娘みたいで可愛かったりするからいいんだけど」


 そう言いながら、敬がトスの構えで待機していると、なぜか悠馬からボールが来ないことに気づいた。

 そして、来るはずのボールの方向を見てみれば、悠馬が再びボールを受け止めているではないか。


「おいコラ宗次テメェ! なんで敬と同じようにスパイクしてんだ! 普通に回せっつてんだろ!

 つーか、さっきからそれを当たり前のようにして会話してんじゃねぇ!」


 悠馬はそのボールを押し潰すようにして持ちながら宗次にキレる。

 その怒りの言葉に対し、宗次は眼鏡クイッとしながら、悪びれもせずに答えた。


「いや、それに関して私は悪くない。

 絶妙にスパイクを打たせたくなるジョーカーのトスが悪い」


「おいおい、僕が悪いのか? そういう意味なら先に始めたのは宗次だぞ」


「いやいや、アレは貴様が勝手に始めた物語だ。それに私を巻き込むな」


「いやいやいや、それは無い」


「いやいやいやいや、貴様が悪い」


「いやいやいやいやいや――」


「だぁー! うるせぇー! ガキみてぇな責任の押し付け合いしやがって!

 それ以上にすべきことがあるだろ! 一番の被害者であるこの俺に謝れ! 」


 醜い争いを繰り広げる敬と宗次に、悠馬は顔を真っ赤にし、指をさしながら荒々しい口調で正論を叩きつける。

 その言葉を受け、敬と宗次は顔を見合わせ、悠馬の方へ向くと――


「「......」」


「な、なんだよ......なんか言えよ」


「「......」」


「いや、謝れや!」


 .......向いただけだった。その後に続く悠馬が求める謝罪は一切なし。

 そんな二人に悠馬はさらに怒りを露わにするわけだが、一方で敬はやれやれと肩を諫めながら言った。


「ハァ、仕方ない。そんなにスパイクを打ちたいなら僕が上げてやるって」


「貴様もわがままな奴だ」


「なんで俺が駄々こねたみたいになってんだ! ちげーだろ!

 謝れっつんの!.......やるけどさぁ!」


 悠馬からボールを受け取った宗次は、ボールを軽く上げるとそれをレシーブして敬へと渡す。

 山なりの軌道を描くそのボールを敬はトスで上げ、それを悠馬は勢いよくはたき落す。


「死ねぇ! 宗次ィ!」


「悠馬、私に暴言を吐くのは結構だが、話は聞いていたんだろうな」


「そうだぞ。さっきの会話に参加してなかったのお前だけだからな」


 そう言いながら、敬は宗次から回って来たボールを悠馬に向かってスパーン。

 そんな突然の裏切り行為に、想定外の悠馬は「ぬおっ!?」と声を漏らしながらも反応する。


「とりあえず、敬が言うには今日の放課後らしいぞ」


 悠馬が咄嗟に弾いたボールを、宗次はしっかりと見ながら悠馬へスパーン。

 まさかのセンター返しに油断していた悠馬はなんとか弾きつつも尻もちをつく。


「ま、まだ大撫さんに確認取ってないし確定じゃないんだけどね」


 そう言って敬が悠馬にスパーン。


「おい、テメェら! さっきから何して――」


「だがまぁ、仮に予定が入ったところでコイツは年中暇人だ。

 さっきも本人の口からそう言ってたしな」


 そう言って宗次が悠馬にスパーン。


「だから、さっきからなんで俺に返す――」


「んじゃ、とりあえず放課後残っておけよ。まずは挨拶先だから」


 敬がスパーン。


「ちょ、まだ俺が返事して――」


「了解した。仕方ない。お嬢様の送り迎えは別のものに頼むか」


 宗次がスパーン。


「いい加減に――」


「「......」」


 敬がスパーン。宗次がスパーン。

 敬、スパーン。宗次、スパーン。

 スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。

 スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。スパーン。


「テメェら、会話が終わったからって、俺に向かって打つ方に集中すんじゃねええええぇぇぇぇ!!!」


 そんな鬼コーチのスパルタ特訓のようなこと繰り返す敬と宗次のボールを、悠馬はひたすらレシーブで受け続ける。


 そのボールは的確に敬や宗次が打ちやすいようにボールが弾かれており、その辺りから悠馬の卓越した運動センスが垣間見えていた。


 もっとも、それを発揮しているのは悠馬だけではなく、いい加減この状況を終わらせようと悠馬がボールをそっぽへ弾くも、それを的確に拾ってスパイクで返す敬と宗次の身体能力の高さもそうなのだが。


 そんな三人が繰り広げるある意味異次元な光景は、コートの一角で行われていたにも関わらず、なぜか試合をやっている男子の誰よりも目立っていた。


 それこそ、試合をしていない女子達はネットを越しからその三人を見ては、「なにアレすごーい」「んんかやばくない?」「三人ともある意味うますぎなんだけど」とはしゃいでおり、試合で女子にアピールしようとしていた男子は「俺達より目立ってんじゃねぇ」と悔しそうに口元を歪めていた。


 また一方で、試合をしていなかった那智、夕妃、京華、天子はというと――


「何やってんだ? あの三バカ」


「大方良く反応するおもちゃを全力でいじってるだけでしょうね」


「それはそれとして、あの光景はなんだかすごい――はわっ!?」


「姫、これ以上は見てはいけません。バカがうつります」


 バカにしたような、呆れたような、感心しているような色々な感情を含んだ目で眺めていた。


*****


 四限目の授業が終わり、昼休み。

 体育終わりの絶妙な空腹に迎える昼食は、ある種の高級ディナーに等しい。

 そんなディナーを楽しむのは敬と天子もまた同じ。


 二人はいつも通りの体育館裏にやってくると、仲良く昼食を取っていた。

 そして、食べ始めて少しして、敬は天子に尋ねようとしていたことを切り出す。


「あ、そうそう、今日の放課後にでも僕の友達を紹介しようと思うんだけど......放課後時間空いてる?」


 その質問に、天子は口の中でモグモグしていたものを飲み込むとすぐに答えた。


「大丈夫ですよ」


「即答だね......本当に? 実は家族から買い物頼まれてたとかない?」


「本当に大丈夫です。そういうのは基本家族がやってくれるので。

 それでその......犬甘さんのお友達というと、普段一緒に話されてる方達でしょうか?」


 天子は敬の顔を真っ直ぐ見ながら質問した。

 その表情には一切の不安の感情が見られず、ただ純粋な質問というだけであった。

 そのことに敬は少しだけ意外そうに眉を上げるも、すぐに戻して答える。


「そうだよ。バレーの授業の時も基本パス回していたあの二人」


「そういえば、私達の方でもかなり話題になってましたよ。

 なんというか凄いって感じで......それこそ、試合をやってる方達よりも目立ってました」


「みたいだね。僕達的には単純にふざけ合ってただけなんだけね。

 でもまぁ、女子にキャーキャー言われるのはやはり悪くないものだな。

 具体的にどんな反応が多かったか覚えてる?」


 その質問に、敬をまじまじと見つめていた天子は少しだけ反応に遅れた。


「......え、あ、はい......えーっと、そのですね。

 ”凄い”とか、”ヤバイ”とか、”なんか試合してる男子より目立ってない?”みたいな言葉が多かったです」


「そっか~。キャー! 犬甘君カックゥいい~~!! みたいな反応は無かったのか」


 敬は表情に出ない分全体を使ってガックシと肩を落として悲しさを表現した。

 そんな敬の態度を隣で見ていた天子は――


(な、なんででしょうか......妙にモヤモヤします。

 別に犬甘さんの魅力が他の人に伝わるのは良いことのはずなのに......)


 ......複雑な感情を抱えていた。

 天子にとって敬は紛れもなく友達であり、その友達が評価されるのは自分のことのように嬉しい。


 その気持ちには偽りはないはずなのに、心のほんの隅っこにそうではない感情がある。

 それが敬と比べた劣等感なのか、敬を評価する誰かへの嫉妬なのか、それは今の天子にはわからない。


 しかし、確実に言えることは、この気持ちが良くない感情(こと)だということ。

 そして、その感情の上澄みが、天子の口から僅かに零れる。


「あの......欲しかったんですか? そんな風な言葉が」


 その質問に、敬は僅かに目を細め、しかしすぐに元に戻すと答えた。


「もちろんさ、そりゃ僕だって男の子だしね。

 けど、現実はそう甘くないってことか。やはり顔か? 顔なのか?」


「それは......」


 天子は開きかけた口をグッと閉じた。

 良くない感情がさらに漏れ出そうな気がしてしまったから。

 だからこそ、天子は慌てて話題を変えた。


「あ、その、話が脱線しちゃいましたね。ごめんなさい。

 それでその......放課後空いてますが、またその後どこかへ行くんでしょうか?」


 その質問に、敬は右手の指をパチンと鳴らしながら、そのまま指鉄砲の形になった手を天子に向けた。


「お、察しがいいね。仲良くなるにはやはり遊んでなんぼだからね。

 というわけで、放課後に予定が無さそうか聞いたわけだけど、ないみたいだね」


「ちなみに、どこへ行くか決まってるんですか?」


「一応、プラン的にはラウ〇ドワンのスポッチャかな。

 ま、場合によってはボーリングもしたり? 未定だけど。

 そんな感じかな。あんま遅くないようにする予定だけど......」


「さすがに遅くなりそうですね......ですが、わかりました。問題ありません!」


「ん? 問題しかなくない? まぁ、遅くなったらなったでちゃんと送り届けるけどさ」


 一体何をもって天子がそう発現したかわからない敬は、首を傾げつつも、とりあえず納得を示すように頷いた。

 そして、その後も一緒に昼食を取りながら、時は放課後へと移動する。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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