表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/54

クエスト14 戦士と僧侶と魔法使いが仲間になった#2

「さぁ、姫。これが初回分の信仰代です。お納めください」


「あ、あの、う、受け取れません......]


 京華こと変態紳士が天子に1万円を納めているのを横目に見つつ、敬は那智と夕妃の二人に話しかけた。


「なんというか......凄いね。前からあんな感じなのか?」


「う~ん、さすがに最初の時は気づかなかったかな。

 でも、夕妃とも関わり出して、夕妃のヲタク気質が見えてきた頃からは、京華もなんか徐々に本性が見えてきた感じかな」


 那智は顎に人差し指を当て、上を向きながら思い出すように話す。

 そんな那智の言葉の「ヲタク気質」という言葉に、敬はピクッと反応する。

 なぜなら、彼もアニメ、ラノベ、漫画をこよなく愛するヲタクであるからだ。


「涼峰さんってヲタクなのか? それは親近感が湧くな。

 どんなジャンルが好きなんだ?」


「別にこれといってこだわりは無いわ。気になったものを読んだり、見たり。

 だけど、強いて言うならラブコメが好きなのかもしれないわね。

 教室とかでも、よく自然と頭の中でカップリングを考えてしまうの」


 言葉では抑揚なく淡々と言うものの、意外と可愛らしいことを考えている夕妃。

 その言葉に、敬は少しだけ目を剥いた。


(なんというか、意外だ.......)


 夕妃の見た目はクール系そのものであり、敬がそう思うのも無理はない。

 そんな夕妃の口から「ラブコメが好き」やら「カップリング」出てくるのは、端的に言ってイメージにそぐわない。


 もちろん、人を見た目で判断するのは良くない。

 が、人が他者から情報を得る時、一番最初に情報を得る所はやはり見た目になる。

 そう考えれば、人を知るにはやはり話すのが一番なのだろう。


(サブカルチャーに興味があるなら、そういう点では大撫さんと話が合いそうだな)


 これまでの天子との関わりの中で、敬は天子がサブカルチャーに多少の知識があることを知っている。


 もちろん、天子は敬みたいな家でほぼ毎日アニメを見るようなタイプではない。

 だが、共通する要素があるなら、話をするには十分すぎるぐらいだ。


(とはいえ、自分がフォローに回る時のことも考え、もう少しだけ突っ込んで聞いてみるか)


 そう考えた敬は、夕妃にさらに質問してみた。


「いいね、僕はこう見えても花よりラブコメなんだ。涼峰さんの内容に興味がある。

 もう少し詳しく聞かせてもらえないか?」


「ホント!? 嬉しい。まさかここで男子でそういうタイプに出会えるなんて......」


「そうか? まぁ、涼峰さんはあまり男子と関わらないだろうからわからないか。

 でも、意外と表に出してないだけで、そういう奴はいると思うよ」


「そうなんだ。それは素晴らしい世の中ね.......」


 敬の言葉を受け、夕妃は喜びを噛みしめるように口角を上げた。

 そんな夕妃を見ていた敬は、すぐ近くから聞こえた笑い声に気付き、目線を移す。


 すると、二人の会話を黙って聞きながら「くふ、ふふふ」と笑いをこらえる那智の姿があった。

 その様子に敬が首を傾げていると、夕妃が敬に質問する。


「犬甘君はどんなカップリングがいいと思う?」


「どんなカップリング......」


(たぶんここで聞いてるのはすでに出来てるカップルじゃなくて、「はよ、くっつけや」と思うような感じだよな......?)


 その考えを前提に、敬は腕を組んで考え始める。

 敬の学年は二年だ。


 つまり、多くの男女はすでに一年間学校生活を共にし、そして普段の生活から学校行事などで交友関係を深めているはず。


 故に、今はまだ4月の始めで、新学期が始まったばかりだが、クラスにはある程度誰かと付き合っている男女がいてもおかしくないわけだ。

 それこそ、敬のクラスにそうと思わしき男女は何人か見受けられる。


 まずは、敬の中でほぼ確定の男女の組み合わせを除外していく。

 その中で、普段の日常を思い返し、よく二人でしゃべっている印象の強い男女を思い浮かべ、うろ覚えの名前を挙げた。


「えーっと、渡邊さんと......もう一人は竹田.....さんだっけ? かな。

 ごめん、まだ全員の名前がちゃんと覚えられてない感じで」


 その言葉を受け、夕妃は――


(渡辺さんはわかるけど、竹田さん?

 うろ覚えだと言っていたから、池田さんと間違えたのかも)


 腕を組みながら、そう思った夕妃は一人で納得して頷く。

 そして、自分が理解していることをわざわざ指摘するのも面倒だったので、そのまま話を進めた。

 ちなみに、竹田は女子であり、渡邊と渡辺、池田は男子である。


「悪くないチョイスね。でも、まだあそこはまだ友人に近い感じよ。

 なんというか、逆に遠慮が感じられない。そう、踏み込んでないって感じね」


「なんと! そうだったのか........」


「くっふ、ふひひひ......」


 敬が驚いていると、再び那智の笑い声が聞こえてきた。

 その反応に、敬は依然としてわけがわからず首を傾げつつ、夕妃に質問した。


「じゃあ、逆に涼峰さんの組み合わせを教えてくれる?」


「私の思う組み合わせは......そうね、甲乙つけがたいのが多いけど」


 夕妃は依然として腕を組み、唸るように声を出しながら頭を伏せる。

 そして少し考えた後、パッと顔を上げて敬を見る。


「やっぱ、犬甘君の組み合わせかしら」


「僕の?」


「そう、身長差とか性格が正反対みたいな凸凹した感じとか」


 そう言葉を並べながら、夕妃は思った。


(那智には悪いけど、やっぱり犬甘君と男鹿君の組み合わせってとてもいいと思うの。

 無表情でありながら変人の犬甘君と、ヤンキーでありながら若干冷めてる男鹿君の凸凹具合。

 そして、高身長の犬甘君と、男子の中では低い男鹿君のさらなる凸凹シナジー。うん、最っ高)


 もはや夕妃の脳内は激しく腐れきっていた。

 しかし、未だ話題のすれ違いが起きていることに敬は気づかず――


(これって、俺と大撫さんの関係性を言ってるんだよな?

 まぁ、遅かれ早かれそう思われるとは思ってたが......下手に広がる前に、影響力の強いこの人達には別にそういう男女の仲じゃないことを伝えないとな)


 そう思った敬は、すぐさま返答した。


「楽しい妄想中ごめんだけど、今もこれからも友達のままだよ」


「それはわからないわ。今犬甘君がそう思っていたとしても、時間が経てばわからない」


 敬にズイッと詰め寄る夕妃。


「それに相手が友達だと思ってなければわからないわ。

 これからも友達を続けていくのであれば、変わるチャンスはいくらだってある」


 さらにズイズイッと詰め寄る夕妃。

 一気に潰されたパーソナルスペースにより、敬は上半身を仰け反らせる。

 そんな状態でも夕妃の言葉は続いた。


「だから、諦めちゃダメ!」


「ダッハ! あははははは、ひーっ、くふっ、ふひひひひひ!!」


 真剣な顔で意見を主張する夕妃と、その近くで腹を抱えながら大爆笑する那智。


 そんなシリアスとコメディの空気がぶつかり合って出来た混沌とした空気に、敬は身動きが取れなくなった。

 しかし、夕妃はそんな空気お構いなしに、敬を説得し始める。


 そんな三者の中に、ようやく自らをATMと名乗る不審者に”待て”が出来た天子は、不思議な空気感に首を傾げながら、那智に話しかけた。


「あ、あの......今はどういう状況なんでしょうか?」


「ん~? あぁ、これね~。バカとバカがバカやってるだけ」


 那智の言葉の意味がよくわからず、天子は首を傾げる。

 すると、那智は二人のすれ違いの経緯をザックリ説明した。


「な、なるほど......そうだったんですね」


「というわけで、ネタ晴らしはもう少し後にして二人の会話を聞こっか」


 那智は近くの椅子を引くと、そこに座り、そしてさっと天子を膝上に乗せた。

 すると、その突然襲いかかった距離感ゼロに対し、天子は慌てた声を出す。


「あ、あの、これは......」


「私ね、座ってると膝の上にクッションとか乗せるタイプなの。

 で、自分よりそこそこ小さいと人でもこうやって乗せたくなるんだよね~。

 ってことで、一緒にバカを観察しよっか」


 那智はそれこそクッションに覆いかぶさるように、天子を両腕でホールド。

 それによって天子は首をつままれた子猫のように動かなくなる。

 そして、いざバカ二人を観察.....と行きたかったが、変態紳士はそれを許さない。


「おい、那智ィ! 姫を膝上に乗せる許可を出した覚えはねぇぞ!

 最初はアタシが愛でるって決めてんだ!

 そこを代われ! アタシは姫の紳士だぞ!」


 京華は立ち上がり、拳を握りながら堂々と気持ち悪いことを言う。

 その言葉に、那智は天子の手を取ると、そっと京華に向けた。


「おっと~? 紳士さんは”ワンコ”ちゃんから”待て”されてるんでしょ~?

 姫の言葉はちゃんと守らないといけないよぉ?」


「くっ.......!」


 意外にも那智は天子と京華のやり取りも聞いていたようだ。

 対して、京華はその言葉に言い返す言葉が思い浮かばなかったのか、おもむろにその場に正座した。


 そして、京華の強気な顔はみるみるうちに脳破壊を受けたような顔に変化した。

 さながら、目の前でNTRを見せられている彼氏のように。


 そんな京華の様子を、天子は心配そうに見つめながらも下手に関わると紳士が喜ぶので、紳士には触れないように那智に話しかけた。


「そ、そういえば、そのさっき私のこと”ワンコ”って......」


「あー、それね。あだ名」


 その言葉に、天子はキョトンとした顔をする。

 そんな天子の様子を察した那智は、目の前のバカ二人を見ながら簡単に説明を始めた。


「まぁ、最初の感じが犬甘君にだけ懐いているワンちゃんぽかったのもあるけど、それはおまけ。

 ワンコちゃんの名前は”大撫天子”でしょ? そこから”大”と”天”と”子”を取るでしょ?」


「はい......」


「で、”天”を句読点とかの”(てん)”にして、さらにそれを”大”の右上にくっつける。

 すると、”犬”が完成して、そのまま”子”と合わせて”ワンコ”。

 どう? 意外と考えられててオシャレじゃない?」


「全然オシャレじゃねぇよ、クソが!」


「外野は黙ってなさい」


 京華からのヤジを軽くあしらいつつ、那智は天子に「どう? 嫌だったらやめるけど」と聞いた。

 そんなあだ名の由来に対し、天子は――


(あだ名......初めての悪くないあだ名!)


 天子は感動して目を潤ませていた。

 天子にとって、あだ名とは悪目立ちしている存在のことをさす名だ。


 というのも、過去に天子は「ぶー子」というあだ名を、小学生の頃につけられていた。

 その名の由来は天子が太っていたからではない。


 今よりももう少し活発的だった天子が、遠足の時にふざける男子にぶつかり、こけた拍子に茂みに手を突っ込んだ際、そこにいた毛虫が原因で右腕が晴れてしまったのだ。


 右手に異変が起きたのは、遠足が終わってから数日後のことで、気付いた時には手遅れだった。


 無邪気というナイフを振りかざす同級生は、天子の右腕を「気持ち悪い」「ぶくぶく膨れてる」と嫌悪感を示した。


 そして、天子が近寄らないように煙たがった結果、ついたあだ名が「ぶー子」である。

 また、この時がキッカケで天子は友達を作らなくなった、否、作れなくなった。


 ボッチの始まりとも言える悲しい事件である。

 もちろん、今の天子は友達同士にでも使用されることを理解している。


 だが、過去の経験からは天子はそう判断していた。

 故に、あだ名をつけられるということは、天子にとって悪い印象しかなかった。


(犬甘さんに優しくされた時のように、なんだか心が温かくなります)


 しかし、那智からつけられたあだ名にはそういう不快感を感じなかった。

 ただ純粋に、自分のことを思ってつけられたあだ名、いや、もはや愛称と言っていい。


 それが密着するほど近くにいるせいかわからないが、天子は確かに温かみを感じ取った。


「それでお願いします!」


 天子は少し前かがみになり肩越しに振り返ると、ニコッとした笑みで返答した。

 その返事に、ニマァと口角を上げる那智。


「可愛すぎか、お前~。もうギューしちゃお。ワンコちゃんギュー」


「えへへ、く、苦しいですよぉ~」


「姫ええええぇぇぇぇ......!!」


 懐にいる天子を抱きしめる那智。

 抱きしめられて眉尻を下げながらも、満更でもない顔をする天子。


 目の前で絆される姫を見て、疑似NTRによる脳破壊を受ける京華。

 この三人はこの三人で混沌とした空気を作り出していた。


「百合の波動.....!」


 突然背後で発生した百合空間を、夕妃は敏感に察知した。

 そして、敬へと問い詰めを止めると、すぐさまポケットからスマホを取り出し、カメラを起動してカシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ。


「めっちゃ撮るやん......」


 あまりもの連写に若干引く敬。

 そしてその行動により、敬は先程から感じていた違和感の正体に少しだけ気づき、夕妃に質問する。


「なぁ、さっきの話ってもしかして”百合”カップリングの話をしてたのか?

 いや、でも、それだと僕の話がおかしくなるけど、僕がTSしたと考えればまぁ......」


 その質問に、夕妃は連写を止め、肩越しに振り返る。


「いえ、男同士のカップリングだけど? 私、両方いける口だから」


「コイツはコイツでとんでもねぇ腐り方してやがる.......」


 敬は京華という存在のみならず、夕妃という存在にも戦慄した。

 そして、誓った。これからはもっとギャルの生体について調べねばならない、と。


 もっとも、この二人がギャルの中の特殊個体で、言うなればゲームの中で倒されるスライムではなく、味方になるタイプのスライムであるだけなのだが。


(ん? それじゃ、涼峰さんは誰と俺のカップリングを......いやいや、止めろ。無駄な想像をするな)


 敬は脳内に浮かぶ目元を黒塗りされてサムズアップする金髪ヤンキーに、そっと目を瞑った。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


良かったらブックマーク、評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ