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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト11 遊び人の友情イベント#3

 放課後になった。

 敬は日直の仕事を済ませ、下駄箱で靴に履き替えると、正門までの道を歩いていく。

 すると、遠くに正門の端の方で一人立って待つ天子の姿が見つけた。


「......」


 天子はまるで石像のようにじっとして動かない。

 その横を下校する生徒達がチラッと姿を見るが、天子はひたすら地面を見つめ続けるばかり。


 その姿はまるで路傍の石であることをアピールしているかのようだ。

 そんな彼女に、敬はふと思い立ち、いつも通り雑絡みした。


「やぁ、お待たせ。待たせて悪いね。

 にしても、久しぶりじゃん。二人で会うのって何年振りだっけ?」


 まるで久々に会う同級生に声をかけるような感じで話しかけた敬。

 その言葉に、天子は首を傾げる。


「え、あ、会ったのはさっきぶり......」


 その時、天子はハッと火曜日の記憶を思い出す。

 それは敬が紹介したセルフプロフィールの中にあった、”敬は雑に扱ってよい”という表記。

 つまり、敬に対して適当な返答をすればいい。


 というだけの話だが、ここで返答の仕方に悩むのが天子だ。

 返事をしないのは失礼だし、ただ返事をしてもそれは味気ないし......一体何が正解のか。


 結局、色々と経験値が少ない天子は、敬をどう雑に扱えばいいかわからなかった。

 なので、いつもの敬を脳裏に浮かべ、ノリよく返してみることに。


「あ、えーっと、一年ぶり......とかですかね?」


「っ! おっと、これは一本取られたな。まさかその返答が返ってくるとは」


「だ、ダメでしたか......?」


 天子は眉尻を下げ、敬の反応を伺う。

 その反応に対し、首を横に振った敬はすかさずサムズアップで答えた。


「まさか! ノリよく返答されるのは凄く嬉しいよ。ふざけた甲斐を感じるしね。

 ただ、まさか大撫さんからそのような返答が来ると思ってなかったから、びっくりして」


 敬の表情からは驚きの反応など微塵も感じ取れないが、しかしこの言葉は事実だ。

 今日の午前中の挨拶から、昼休みの時の天子の行動、そして先程のノリのいい行動。


 どれもが敬の予想を軽く上回るものばかりだ。

 天子の成長スピードに衝撃を隠せない。

 敬はそれが嬉しくもあり、同時にあまりにも早いと少し寂しいものもあった。


(これは友達第一号として優越感に浸っていられる時間もなさそうだな)


 やはり何事も一番というのは嬉しいものだ。

 それこそ友達第一号など、大抵の人は小学校で済ませており、早々なれるものではない。


 ましてや、高校に入ってから友達第一号になれるなど、激レアイベントとも言える。


 故に、その”友達第一号”という称号を掲げ、もうしばらく天子と接していたかった敬であった。

 だが、こうまで成長が早いと、もう次の段階に進まないと天子のためにはならない。


(せめて今日ぐらいは楽しませてもらうか)


 敬はそう心に決めると、早速天子を例の移動屋台がある公園に行くことを提案した。


「さて、大撫さん。早速行こうと思うんだけど、準備はいい?」


「は、はい! よろしくお願いします!」


「そんな緊張せずに。リラックスだぜ、相棒」


 敬が歩き始めると、天子はちょこちょこと横に並ぶ。

 敬は天子の様子をチラッと見ると、緊張をほぐすように話題を振った。


「そういや、大撫さんって普段はこう、放課後に寄り道するの?」


「い、いえ、特にそういうことは.....基本すぐに帰ります」


「そうなのか。てっきり大撫さんの場合、本を読んでるから『今日いつも読んでる作家さんの新刊日だ!』的な感じで本屋に駆け込んでるとばかり」


「そ、そういう気持ちは定期的にものすごく湧くんですが」


(ものすごく湧くんだ)


 天子の言葉に、敬は脳内に「新刊日だ!」と猛々しく吠える天子を想像した。

 なんというか......イメージにそぐわないが、それはそれで面白い。


「で、ですが、基本的に週末にしようってなります。

 そ、そのお恥ずかしい話.....人がいるところに一人で入れませんでして」


「なるほどな。確かに、たまたま入った店にいた客が、全員変装した万引きGメンって思うと怖いよな」


「そ、そんな偏った怖がり方はしてないです。普通に一般のお客さんです」


「けどまぁ、そういうのも慣れだ。

 月並みな言葉だけど、結局よく聞くってことは、それだけ皆が実感してるってことだし。

 安心してくれ。俺はちゃんと一人で自由に行動できるぐらい付き合うぜ。友達だからな!」


 敬は天子に向かってウインクつきのサムズアップを送る。

 そんな姿は端から見れば気持ち悪く口説いているようにしか見えない。

 もしくは、単に気持ち悪いノリの仕方をしてくれる男にしか見えない。


 しかし、そんな敬に対しても、天子は嬉しそうに「お、お願いします!」と答えた。


 それから、学生らしく学校の授業の内容を話したり、天子のおススメの作家の話をしたりとしながら、二人は目的地である中央公園に辿り着く。


 その公園の階段を上がっていくと、両脇が緑生い茂る木に囲まれた石畳の地面が広がっていた。

 また、そこには別の場所から上って来たであろう移動屋台の姿があった。


「おっと、割と人がいるな。週末だからかな?」


 移動屋台の周囲には子連れの母親や小学生ほどの男女の兄妹、他校の女子生徒達などと、そこそこの数の人達がいる。


 さらに、屋台の前にも数名の客が列を作って並んでいた。

 であれば、並んだとして、順番が回ってくるのはそこそこ時間がかかりそうだ。


 敬はチラッと横目で天子の姿を見た。

 天子は知らない人の目があることに怯んでいるようで、敬の制服の裾をギュッと握っている。


(え、何その行動可愛いんだが?)


 天子の幼さ溢れるような行動に、グッと止まりかけた心臓をなんとか鼓動させる敬。

 見なかったことにしようとも、思わずじっと見てしまう。

 これは一種の呪いであるかもしれない。魅了眼とか使ってるのかも。


(ひ、人が多い.....)


 一方で、目の前の人込みに注目していた天子は絶賛怯み中であった。

 それこそ、自分のしていることに気付いていない程度には、前に意識を取られれている。

 だからこそ、天子は敬の現状にも気づかない。


 現在進行形で、容姿と相まって倍増させた可愛さでもって、敬にダメージを与えていることに。

 では、仮に気付いていたとすれば?

 もちろん、それはそれでダメージは大きいだろう。


「い、犬甘さん、どうしました?」


「あ、いや、なんでも」


 天子が声をかければ、敬はサッと顔を逸らす。

 その行動を不思議に思い天子は首を傾げた。

 その時、目の端で気付く。

 いつの間にか裾を握っている自分の手に。


「あ、あっ.......」


 天子はパッと裾から手を放す。

 自分が取った羞恥心に耐え切れないのか、すぐさま顔を真っ赤にさせた。


 そして、手をワタワタとさせ、本を探し始めた。

 しかし、本来なら手元にあるそれは、あいにく下校中はスクールバッグの中。


「う、うぅ......」


 故に、心の安定剤である本が無い天子は、まるでゆっくり凍っていくかのように動きが鈍くなり、やがてフリーズ。


 ただし、恥ずかしさで悶えているのか、ただでさえ小さい体をさらにちっちゃくした状態でプルプルと震えさせていた。

 そんな様子を横目で見ていた敬は――


(なにこの可愛い生き物! この可愛さで世界征服できるんじゃねぇか!?)


 天子の底知れぬポテンシャルの戦慄していた。

 胸の内側から沸き上がる飽くなき父性。

 そして、容赦なく駆り立てる庇護欲。


 もはやこれは一種のバイオテロではなかろうか。

 そう思うほどには一連の行動が可愛かった。

 これが公式供給とかそんなご褒美あっていいのだろうか。


「......コホン、大丈夫?」


 いつまでも見ていたかった敬であるが、天子がその姿を晒す限り周囲から注目を集めるのは必然。

 というわけで、仕方なく。

 それはもう非常に仕方なく、流れを戻すことにした。


「……」


 敬の言葉を聞いた天子は、おもむろに両手を顔から離した。

 ......と思いきや、突然自分の頬をスパーンと叩いたではないか。

 その行動には、さしも敬もビクッと反応する。


「え、大撫......さん? 一体何を.....」


「だ、大丈夫です。もう恥ずかしさで固まることはしません」


(随分思いきったことをするなぁ......)


 天子の突拍子もない言葉に、敬も思わずツッコんだ。

 まさか自分の頬を叩いてフリーズキャンセルするとは。


(にしても、本がないだけであぁなるのか......)


 いつもなら、本という絶対的守護者もとい守護物で顔を隠し、赤みが引くまで耐えるのが天子だ。

 故に、天子がフリーズすることはない


 しかし、それが無い時は、天子はああいう行動に出るらしい。

 一体何をどう思ったら自分の頬をぶっ叩こうと思うのか。


「大撫さんは何クレープが食べたい?」


 正直、色々触れたい敬だった。

 が、それをいつまでも触れていては天子も動けまい、と屋台を指さして話題を振った。


 その話題に、天子は「そ、そうですね......」とすぐさま乗っかり、メニュー表を眺め始める。


「あ、あのイチゴクレープとか美味しそうです」


「いいね、確かに美味しそうだ。

 そういえば、前にもイチゴ味のアメやらイチゴミルクやら選んだけど、イチゴが好きなの?」


「は、はい。昔から祖母が送ってきてくれて、それを食べてたら好きになって......って子供っぽいですかね?」


「まさか! 僕だってイチゴに練乳かけて練乳を舐めるぐらいイチゴ好きだからね」


「それ好きなの練乳です......」


 だんだんと敬のボケに天子がツッコみを入れ始める。

 そのことに敬は満足そうに瞑目して噛みしめると、二人で一緒に列に並び始めた。

 二人の前には三人ほどいて、番が回ってくるのは2,3分ほど。


 その間、天子が敬の裾を掴みそうになる左腕を、右手で掴んで抑え込んでいた。

 そんな”俺の左手が疼く”みたいな仕草を、敬が楽しそうに眺めていれば、あっという間に番が回ってきた。


「ご注文は?」


「僕はバナナサンデーで。大撫さんは?」


 先に注文を済ませた敬は、隣にいる天子の様子を見る。

 すると、天子は案の定口をパクパクとさせ、固まっていた。


 それこそ、誰から見ても頭に”Now Loading”の表記が見えるかのようにわかりやすいフリーズ。


 今の天子は恥ずかしさで固まっているわけではない。

 なので、奥義フリーズキャンセルもでない。

 故に、そのロードがいつ終わるかもわからない以上、これ以上は時間をかけられない。


(僕が答えるか?......いや待て、大撫さんは勇者だぞ? ファンである僕が信じなくてどうする)


 敬は愚かな選択を取ろうとした自分を殴り飛ばし、天子の行動を信じることにした。

 とはいえ、結果的に天子の口から答えられればいいのなら、手助けぐらいありだろう。


「大丈夫」


 天子の肩にそっと手を置く敬。

 天子がそれに気づき顔を見れば、キラーンとSEが流れるかのような決め顔でサムズアップ。

 もちろん、表情はピクリとも変わらないので、雰囲気だけであるが。


「っ」


 敬の行動に、天子は大きく目を開いた。

 そして、その行動で勇気づけられたのか、天子はゆっくりと口を開ける。


「い、イチゴ......チョコ乗せ、で.......」


「バナナサンデーとイチゴチョコホイップですね。

 かしこまりました。少々お待ちください」


 天子の言葉に、女性店員は元気よく返答し、すぐさま生地を作り始めた。

 すると、女性店員は生地を作り盛り付けしては、チラチラと天子の姿を見る。


 その目はまるで癒しを感じているようであった。

 いや、むしろ魅了していると言ってもいい。

 その一方で、天子は無事に言えたことにホッと安堵していた。


「お待たせしました。こちらバナナサンデーとイチゴチョコホイップです」


 敬は両方受け取ると、イチゴチョコホイップを天子に渡し、空いているベンチへと移動する。

 そして、二人で座った所で、早速出来立てのクレープを食べ始めた。


「うん、美味しい! 大撫さんの方はどう?」


「美味しいです。とっても」


 口の端にホイップをつけながら、子供のような満面の笑みを浮かべる天子。

 それこそ、いつもならどもっている言葉がすんなり出るぐらいには、美味しさに感動しているようだ。


 そんな天子に、敬はちょんちょんと口の端に指を当てる。

 口の端にホイップがついていることを教えてやったのだ。


 すると、視線に気づいた天子は自分の口元に指を当てる。

 ホイップの感触を確認するやすぐに顔をカーッと赤くした。


「す、すみません......お見苦しい所を......」


「なんのなんの。貴重な一面だったぜ。それこそ写真に撮っておけば良かったな」


「そ、それはちょっと......」


 敬、天子に普通に引かれる。当然、キモい発言をした罰である。


「おーい」


 敬が天子という純粋無垢からの言葉に思いの外ダメージを受けていると、遠くから誰かが声をかけてくる。


 その声に敬と天子が振り返ると、一人の金髪ギャルが大きく手を振りながら、駆け足でやって来た。


 金髪ギャルの見た目は、金髪の髪をサイドテールのようにして結び、前髪には星の髪留めをしている。


 耳には小さなピアス、胸元は大胆に第二ボタンまで開けている。

 また、首にはイルカのようなネックレスをしていた。


 手首にはサイドテールを結ぶシュシュの色違いをつけている。

 腕まくりし着崩したワイシャツ、ブレザーを腰に巻くスタイル、ルーズソックスと完璧で究極のギャル。


 その金髪ギャルが走ってくる姿を見た天子は、クレープを口につけたまま固まった。

 目を剥いてギャルを見るその姿は、まるで初めて巨人を見て理解が追い付いていない子供のよう。 

 

「おにー......」


 そんな天子など露知らず、金髪ギャルは視線の先にいる敬に声をかけようとする。


 その時、金髪ギャルは天子の存在に気付き、チラッと横目で様子を見やる。

 すると、途端にニヤリと笑みを浮かべて言葉を変えた。


「敬ちゃん、何食べてるの?」


「幸.....どうした急に?」


「いいから、一口」


 金髪ギャルこと幸はひな鳥のように口を開けて待機。

 そこに敬が持っていたクレープをその口に運べば、幸は遠慮ない大きな一口でもって齧り取る。

 そして、口にいっぱいのホイップをつけながら、満足そうにモグモグした。


「美味いか?」


「うん。もう一口ちょーだい♪」


「なら、残りあげる。だからほら、口拭きな」


「マジ! 敬ちゃん大好き!」


「だいす.....!?」


 天子の目の前でいとも容易く行われるカップルのような行動。

 その光景に、天子は僅かなモヤッとした気持ちとともにフリーズした。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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