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世界を描くAIと世界を暴くAI  作者: 白夜いくと
第二章:よみがえれユシア02
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退院と伝言と脱力と

「そんな大きな声で叫んだら傷口痛ぇじゃん」


 ジーンが、場を和ませようとして頬をかきながら言った。キャリーとサーフェスは、彼を睨む。


「どうしてくれるのよ!」

「どうしてくれるんですかぁ!」


 静かな処置室に2人の声が響いた。ジーンは「あ……はは」と冷や汗をかきながら事情を説明した。


「仕方ねぇだろ。夜中にゲームカード買いに行ったらユシア02が居て誘拐されるなんて思わないじゃん」


 ジーンの経緯を聞いたサーフェスは「あり得ない」と言う顔をする。彼は、


「なんですかゲームカードって! それに、ユシア02はファイドラ社から出られないようにプログラムされています。もし本当なら、02の情報を誰かが触ったことになりますよ!」


 そう言いながら、


「あぁ! また余計なことを知ってしまった……」


 と頭を抑えてよろめく。



「この先、どう暮らしていけばいいの?」


 不安そうにキャリーがサーフェスに尋ねる。家に連絡をしてはいけない、帰ってもいけない。ファイドラ社とは必要最低限しか関わる事ができない。


 事実上の追放宣言をされた3人。これからマトモに生きていけるのだろうか。


 サーフェスは時計のようなものを見ながら、


「ボクたちはこれからファイドラ社保護課のお世話になるんです。お恵みポイント制の、いわゆる非生産労働階級です」


 そう言って説明を続けた。


「何の能力も持たない者が小手先のスキルでお恵みポイントを貰って生きる制度です。住むところもファイドラ社保護課の指定した所でないといけません」


 ジーンが「自由そうでいいかもな」というと、キャリーが「そう言えば、ジーンは何か得意なことがあるの?」と尋ねた。


「……な、何も、無いけど」


 質問に答えられないジーンの表情を見て、サーフェスが溜息をつく。


「これだからコンテンツ消費者ニートは役に立たないんだ」

「おいサーフェス、敬語忘れてるぞ」

「もうお客様じゃないからね。べー」


 ジーンに悪態をつくサーフェスをキャリーがなだめる。



「……ユシア02って、ファイドラ社にとって、何なんだろうな」


 ジーンが呟くと、サーフェスが「01と互換性を持たせようとした失敗作だよ」と腕を組んで言った。ジーンはポケットに隠した02の半導体を思い出す。


「なぁサーフェス。機械に言語を入力する時って、どんな気持ちなんだ?」

「え、何。気持ち? ボクの?」


 サーフェスは不思議そうにジーンを見た。「うーん」と、口元に手を当て俯くと、


「動かしてやる! かなぁ」


 サーフェスはそう言って少し笑顔を取り戻した。たったひと言を発しただけだが、その表情だけで彼のプログラミングに対する気持ちを表すのは十分だった。


「キャリーはどうしてアートが好きなんだ?」


 ジーンの質問に、キャリーも、これまた嬉しそうに答える。


「自分の創ったものを多くの人に見てもらいたいの。少しでも笑顔になってもらいたい。共感してもらいたい。そんな感じかなぁ」


 ジーンは、目標や夢を持っている2人を自分もろともファイドラ社から追放させる形にしてしまった。


「巻き込んで、ごめんな」


 謝ると、2人は顔を見合わせて、


「本当よ!」

「本当だよ!」


 と言った。すかさず、


「きっとこれで終わらないから!」


 というキャリーの声が処置室に明るく響いた。



 ジーンの怪我が治るまでファイドラ社医務課の爺さんが3人の面倒を見てくれることになった。


「派手にすっ転んだのぅ」

「は……はは」


 ジーンは、極力話さないようにしていた。これ以上余計な人を巻き込んではいけないからだ。


「おっと」


 医師は処置を終え、立ち去ろうとした時、時計の様なものを落としたふりをしてジーンの耳元でこう言った。


(ネモを訪ねよ)


 その声は非常に小さく、ジーンは聴き取るのが難しかった。側に居たキャリーとサーフェスも気づいていない。


(もしかして、忍び込んだテロ組織か?)


 ジーンは怯えた。しかし、目の前の医師の顔はどこか笑顔だった。ジーンが本能で感じたのは(きっといい話だ)ということ。


(テロ組織に捕まっといて本能もくそもないか)


「ほっほ、今日で退院。傷跡一つ残ってないぞ。よかったのぅ!」


 陽気に言われて、3人は溜息をついた。これからファイドラ社保護課の用意した生活が始まる。その事を思うと、憂鬱だったのだ。


(責任は俺にある。俺がしっかりしないとな)


 ファイドラ社から出ると、ジーンは開口一番、


「責任は取るぜサーフェス。必ずファイドラ社に認められて戻れるようにするからな。キャリーも、アート課でもなんでも、入れるようにしてやる!」


 そう言ったが、自身の腕時計の様なものを見て絶句した。


(ランクなし、0ポイント!?)




 ジーンたちが絶叫している一方で、千年ガーデンの管理者AIであるベルモンドは、戻ってきたサンカヨウに水遣りをしていた。


「……」


 ベルモンドは、透明に輝く花弁を見ている。何も言わずに、ずっとずっと、観察していた。

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