81.筋肉騎士
他国の騎士の腕を止めてくれたのは、オリアントだった。
見慣れた黒髪に、ラシディアはほっと息を吐く。
「あれ、オリアント殿?」
「……みだりに、女性に触れるものではありませんよ」
「あ、ああ! いや、これは申し訳ない! つい嬉しくて気安くしてしまいましたね!」
止められた騎士は目をぱちくりとさせて、屈託なく笑って腕を下ろした。
ラシディアはそれに曖昧な笑みを返し、オリアントへ目線で問う。
「シディは初めて会うでしょうか。彼は先日からこちらへ滞在している、南の国の騎士です」
「まあ、やはりそうなのですね」
安心させるように微笑むオリアントが隣に並び、ラシディアも自然と気を落ち着けた。
そこで改めて目の前の騎士を眺めると、服の上からでもその体の見事さが見てとれた。腕も胸も太もも部分もすべてが、騎士服を押し上げるほどに盛り上がり、生地の伸縮性を限界まで試しているようだ。もちろん襟元からのぞく首は、ラシディアが両手を広げてもとうてい間に合わないほどに太くどっしりとしている。
なるほど、これぞ筋骨隆々。侍女仲間の友人の好みそのものだろう。
つい、まじまじと見つめてしまったラシディアに、騎士は気を悪くした風もなく笑った。
「ははは、そんなに熱く見られると照れてしまいますね。もしかして、俺の体に興味がありますか? よければ触っても構いませんよ!」
にこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべるその様子から、彼が好人物だと分かる。
だが、とにかく声が大きかった。その声は回廊の端まで響き渡っているのではないかと思うほどで。これではこの国の女性はびっくりして、まず一歩引いてしまいそうだ。
友人が、判断が難しいと言っていた理由が分かった気がした。
筋肉騎士、登場。彼はいいひとです。「いいひとなんだけどねえ……」って言われるタイプのひとです。




