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29.お互いに自覚した
侍女仲間が妙なことを言うから、騎士のことを変に意識するようになってしまった。以前は会えるだけで喜んでいたのに、今では恥ずかしくて逃げ出したくなるのだ。我ながら挙動不審になっている気がする。
あんなに落ち着きのないところを侍女長にでも見られたらお説教確実だろうなあと、ため息を吐いていたところへ。
落ち着きのある声が回廊に響いた。
「侍女殿」
「騎士様……」
やはり、騎士の顔を見られて嬉しいのに、すぐにも逃げ出したくなる。ひとまずひとりになって、落ち着きたい。
「あ、あの。それではこれで、」
踵を返して立ち去ろうとした侍女だったが、騎士に引き止められて叶わなかった。
「なにか急ぎの用が?」
「い、いえ。そうではないのですが」
じわじわと顔が熱くなる。
なぜか騎士がこちらをじっと見ているような気がして、ますます落ち着きを取り戻すのが難しい。
「なるほど。団長は正しかったか……」
ぽつりと落ちた呟きに、「え?」と顔を上げた。
すると騎士は「いえ、なんでもありません」と微笑んだ。その笑顔は、今までに見たことがないほどに甘く。侍女の乱れた感情にとろりとろりと染み込んで同化し、すっかり治めてしまった。
そうなると侍女の中に残ったのは、騎士への好意。もっと親しくなれたらと願ったときよりも、もっとはっきりしたそれは。
――――恋だ。




