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第五十一話、ゴブリンは伝説を作れますか?(2)

 俺は荒野に立っている。


 地平の彼方まで見通せそうな位、周囲には何もない。


 俺の周りには頼りになる8匹になったクロウ。それとユンがいる。


 ってユン? 何で、何があった!?


「ユン、何でここにいるんだ?」

「私もわからないよ! この前兄さんに言われた通りにミナモンクッキー食べようとしてたのに……」


 どういうこと?


 どう見てもここは特殊フィールド。しかも、離れたパーティーを呼び寄せるなんて……強制イベント?


 思い出せ、俺は何をしてた? ユンに問題が無いなら、原因は俺の筈だ。

 確か、俺は子鬼の里の奥で、エリアボスと思われるモンスター、アーマードゴブリンを倒した。

 で、その後に現れた宝箱を開けた。


「確か、その後ペンダント……失われた天の証が出て……未鑑定じゃなかったから、それを俺は装備してみたんだ……それが失敗か? まさか呪われてたのか? しかし、何でその後ここにいるんだ?」


 周囲に道やイベントを起こすキーみたいなものがないので、やはりここはクエスト用の特殊空間だと思うんだが……?


「装備的なマイナス効果は…………特にないみたいだな。でも、+もない。意味ないじゃないか」


 しかし、何も起こらないんだが……何かクエストが起こってるなら、何で何も起こらない?


「と、思った先から…………何だ、まさか思考を先読みするのか、OO!?」


 急に盛り上がる地面。

 

 向かった8匹のクロウ。


 クエストだろうに、もう攻撃フラグが立ってるのか……もし、これで相手がやられたら俺、何が起こったかもわからずじまいだぜ?


「人の形になったか? ええい! クロウ達が邪魔で見えんわ!」

「証を持ちしものよ。我が栄光と挫折の日々を聞くがよい」


 盛り上がった荒野の土は、侍然とした何かになり急に一人語りを始める。


 その姿は正に侍。


 フルフェイスで目しか見えない位に甲冑に包まれている。


 そしてその侍、強そうだな……とは思うが、それ以上にその間も表示されたHPがどんどんクロウ達によって減らされていっているのが気になって仕方ない。

 それを見ながら、戦闘開始前に撃破されそうでそれってありなのかな? とか考えていた。


 止まらない侍の口上に、ラッシュで袋叩きにするクロウとラビット……ラビット?


 ユンを見やる。


「いや、折角だから私たちもって……」

「ま、いいと思うが……」


 語りは続く。


「……私の最後の勤めは、殿の為に死すべきであった。その定めを負った私なのに、生きながらえこうして生き恥をさらしている。殿に合わす顔が御座らん!」

「いい話なんだけど、いいのか? もうHP半分切ったぞ?」


 話は止まらない。陰武者としての栄誉や、誉れについての話になってる。


「なので、私は決めたのだ。いつか蘇るであろう殿の為に人をやめようと」

「語りたいんだな。わかった。じゃあ、俺も本気でやる! 魔人の左手!」


 話は終わらない。その心意気やし!


 ならば、俺もその話が終わる前にしとめてみせる!


 アーマードカウンターも発動させて、更に攻撃の手を増やす。


「そして、私は同時に探したのだ。殿を、我が主を共に現界可能な力を持つ法術士を」


 総勢12の個体が、全力で無抵抗の相手をフルボッコにしている。

 もう、2分位立つだろうか。この影武者のHPは1/5位になっている。


 しかし、硬いな。ここまで全力でやってまだ終わらないとは。

 ダメージ的にはかなり与えてる筈なんだが……。


 やはり、何処まで行っても俺達は貧弱なのか。


「そして私は見つけた! ここにその力を持ち力を正しく使う事の出来る方々を!」


 そこで初めて、この影武者はなんらかの動きを見せる……が、囲まれていて何をしたのか全くわからん。


 因みにここがその人を止めた場所って設定か?


「試させてもらうぞ? 私は悠久の時を待ち続けたのだ! 簡単には幻滅させてくれるなよ!」


 これって、クエスト自体が発動条件のあるものなのか?


 例えば魔法系スキルを持っていて、更にソロでアーマードゴブリンを倒したプレイヤーにのみ起こるクエストです、とか。

 いやいや、難易度高すぎだろ?


「俺達が勝ったら?」

「殿のため、法術士よ、私はそなた達の力となろう」

「では、俺達が負けたら?」

「私の見込み違いだった、それだけだ」


 何だかよくわからない返事が返ってきた。


「じゃあ、やるけど……後悔するなよ? (残HP的な意味で)」

「名乗りを上げるべきなのだろうが……私に名は無い。過去も現在もただの名も無き影武者。いくぞ、いざ!」


 そして、囲まれている現状お構いなしに腰に差していた日本刀を抜き去る影武者。


 そして、襲いかかろうとするが、先に俺の頭突きでスタンする。

 

 先程のラッシュの間に、確認はしてないが、スキルも山ほどコピー出来てる。


 いざ戦闘になっても、永遠と続くスタン地獄で身動きとれない影武者。

 散々ボコボコにされて、ついには0になるHP。


「覚悟おおおあぁあぁぁあぁぁああ!!?」


 そして倒れ伏す影武者。なんか……一寸可哀想すぎて目も当てられない。

 こんなのあっていいんだろうか?


 当然の如くレベルが上がる俺達。俺なんて2レベルも上がった、どれだけ強かったんだ、こいつは?


 結局予想通りに戦闘にはならなかったな。









 さて、影武者は倒した。しかし、この荒野のフィールドからはいまだに抜け出せてない。


 帰れないのかしら?


「兄さん、影武者さんのいた場所……白い光……これ…………メルクリウスと契約したときと同じ……」


 表れる光……召喚契約か……。


「なる程、こうやってやっていくのか……幻獣との戦闘後の召喚獣獲得を見るのは初めてだな」


 ユンに失われた天の証を渡し、サモニングを使用するよう促す。


「一緒に楽しもうね……スキル、サモニング……」


 光は捻れるように細くなると一枚のカードになってユンの前を漂っている。

 ユンが手に取ると、先程の影武者が頭を下げるような姿勢で現れる。


「私と一緒にやっていこうね? 影さん」


 目して語らずってやつだろうか? 黙ってしゃがみこみ、臣下の礼? と思われる姿勢になる。


「わかった。じゃあ、今後ともよろしくね」


 手にした鞘に入ったままの剣を、ユンに捧げるように上げる。

 これが忠誠の証、みたいな感じだろうか?


 ユンは時の武士の影武者と契約をした。


 やはりシステムアナウンスか。ま、そうだよな。いきなり喋る、プレイヤーに意見する、とかじゃ反感買う可能性あるし。


 そして、俺の前に新しい宝箱が。


「またか。今度は急にクエストに放り込まないアイテムだといいが……」


 どの道開けるのだが、何が起こっても言いように一応覚悟だけはしておく。


 そして宝箱を開ける。


「え? 中身なし? と、おわわわわわわわわわわわ」


 吸い込まれるような脱力感を感じて、俺は意識を失った。










「……ここは?」


 周りを見回す。召喚獣達欠ける事なく皆いる。


 場所は……目の前には宝箱。山の中の開けた道の一つ。


「ここは……アーマードゴブリンを倒した山か?」


 何だかわからないが、どうやら俺は戻ってきたらしい。


 とりあえず、先ほどの戦闘で影武者から、何かドロップしてないか見てみるか。


 うーん、特にないなぁ……。


 アーマードゴブリンの鉈? だけで我慢するか。


 期待を胸に、手にれたアイテムの鑑定の為ミカールに帰還する俺と愉快な仲間達だった。

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